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我、魔王スペルヴィアなり!!  作者: 黒っち
Phase 2.「熱い夏」
23/41

023.「メンブレ」

 1年C組、出席番号5番――伽羅 雄。


 彼には、ここ数日の楽しみがあった。


 ――放課後の教室。


 5、6人の生徒が居残り、補習を受けている。

 1人は叡智。そして2つ後ろの席にいるのが伽羅だ。


「フーンフーンフッフーン」


 と、鼻歌交じりの上機嫌。叡智が後ろを振り返る。


「どした~? イケM」

「いや~そりゃ上機嫌にもなるっしょww どんな形でも一分でも長くユッキーと一緒にいられるなら、さ☆」


 ニカッと笑顔でキメポーズをとる。が――


「草」


 その一言のみで、叡智はすぐ前に向き直ってしまった。


「そりゃねーぜボロネーゼゆっきぃ~ん」

「そこの2人! ウダウダくっちゃべってねーで手ェ動かせ。終わんねーと帰さねーぞ」

「あいサーセン! だってモーとび~イケMがうっせーんだモ~ン」


 教壇で本を読んでいた牛島に喝を入れられると、即座に彼女は伽羅を捨てた。


「ゲッ! 裏切る気かユッキー!」

「裏切るてかそも仲間じゃねーし」

「ぱお~ん」


 ――補習後。


「ふ~終わった終わった~」

「帰りどーする? 遊び行く?」


 居残りメンバーでぺちゃくちゃと喋りながら帰路につく。

 伽羅はずずいと叡智の横につけた。


「なぁユッキー。こないだ俺のこと”アリ”っていってくれてたじゃ~ん? の割にはな~んか俺に当たり強くね? オタク君とかにはもっと優しくね?」

「空気読まんからよ。てか冷たくした方が喜ぶじゃんお前」


 普段はじけるような笑顔を周囲に振りまいている叡智が自分にだけ見せる冷たい顔。

 伽羅は自らの体を抱いてゾクゾクと震えた。


「た、たまらん……!」

「うわ~きしょきしょマン」


「――で、ホントのところは?」

「ん~?」


 チャラ男の顔が急にマジメになる。


「最近若干マジにナーバスな気がしてさ。なんかあった?」

「ん~」


「……やっぱアレか!? 小谷が微妙!? 俺にしとく!?」

「マイナス50点」

「え」

「気づくところプラス50点、ウザ絡みマイナス50点、しめてマイナス50点でーす」

「いや計算おかしくねw」


 伽羅が会話を独占していると、横から他のギャル――安井 空乃が割って入った。


「えっ! ゆきぽよサゲぽよ? どしてどして~?」

「んとね~……イケMがキモくてサゲぽよ~!」

「それな~!」

「お、お前ら……」


 ケタケタと笑う少女たち。JKは無敵とはよく言ったものだ。

 結託した彼女たちを前にすれば、男など黙ってサンドバッグになるしかない。


「わかったわかった、思う存分俺を弄れ」

「ヤダ~あんた弄ったら喜ぶもん」

「くっ……お預けか……いやしかしそれはそれで……」

「無敵かよ」


 ――


「で、結局どうなん!?」


 安井が机を叩く。


 メンバーは、ファストフード店で叡智を取り囲んでいた。

 伽羅をイジる方向に舵を切ってごまかそうとした叡智だが、そうは問屋が卸さない。周囲からすれば彼女の元気のなさはクラスの元気のなさにつながる死活問題のため、解決を図るべく根掘り葉掘り話を聞きだす姿勢だ。


 居心地悪そうにイスの上であぐらをかき、フライドポテトをかじりながら――

 やがて叡智は観念して話し始めた。


「やーね、あんね……デコピンがさ……」

「やっぱ小谷が原因か!? あいつ~まだ付き合ってもないくせにユッキーに何かしやがったんかぁ!?」

「ちげーって! 聞け最後まで~!」

「す、すまん……」


「あいつ言ったんよ、自分は1年で150キロ、2年で160キロ、3年で170キロに体重増やすって……」

「あいつ相撲取り志望だっけ?」

「将来はメジャーデビューすっから、そのためにまず日本の風呂に入って、そのために口内炎になるって」

「え~……甲子園めざしてるって話だよな?」

「それな!」


「したら思うじゃん? すごないこいつ? って! んな1年先2年先……5年先10年先とか考えっかフツー?」

「まぁ、夢を見るのは自由だわな。実現できるかは別にして」

「そうソレ! ソレがあること自体すごない!?」

「まぁ……」

「そりゃ、なぁ……?」


 耳の痛い話だ。彼ら「今日が楽しければそれでいい」派の人間たちは、日々こうやってつるんで街をブラついている。それで何が得られるのか。どこを目指して歩いているのか。と問われると回答に詰まる。

 もっともそんなこと、高一の初夏に考えたくもないし、これくらいの偏差値の高校に来るような者たちはおしなべてまだ将来のことをそこまで真剣に考えてはいないものだろう。


 安井が再び口を開いた。


「でも~。ゆきぽよなら何やっても楽勝じゃね? 別に悩む必要なくね?」


 ついで、他の者たちも同調する。


「それな~。ぜいたくな悩みよな」

「しょっちゅう芸能事務所みたいなんに声かけられてるじゃん。あーいうのやらんの?」

「ん~」


 少し考える。


「あんまイメージわか~ん。”テレビで見る人”って感じしかせんわ~」

「興味は?」

「あるっちゃあるでも熱意はない」

「とりまやってみれば?」

「う~~~~~ん……」


 腕を組んで首をかしげる。


「ま……無理に結論を出す必要はないんじゃね?」


 と、伽羅。彼女の様子から、答えを急ぐ必要はないと判断した。


「お前さ、みんなと遊びたい、みんなの話を聞きたいってよく言ってっけどようはアレだ。みんなの考えてること、好きなこと、夢――そんなアレコレを、自分の中に取り込みてーんだろ。だったら、とりま続けろよソレ」

「そーかな……?」

「そーそー。そのうち見つかるかもよ? コレだ! っての」

「だね~。ゆきぽよ芸能の話、反応ゲキシブだったじゃん。”ワオあーしこれやるFooo!”っての見つかるか、探しててもいーんじゃない? そのための3年間だしぃ~」


「みんな……あんがと~! そーだね! よーしこうなったら3年間、遊んで遊んで遊びまくんぞ~! 目指せ校内全フレだぁ!」

「お~!」

「うぇ~い!」


 全員で元気よく立ち上がってハイタッチ。すっかりいつものノリになった。


「んでんで、イケMにひとつおねがぁ~い♡」

「おしゃおしゃなんでもこいや!」

「ツッティーあたりさ~オタク君に激辛じゃん? アレまじサガっからやめさせてくれん? お願いッ! それとな~くフォローくれりゃいーから」


 バチッと手を合わせてチラリと見てくる少女。断る理由はない。

 伽羅はビシッと親指を立てた。


「オールオッケー! ゆっきーマジ平和主義者ww てかなにそのお願い、実は俺のことマックス頼りにしてる?ww」

「どっちかってーと、奴隷」

「ありがとうございますっ!」


 喜びに打ち震えるM男だった。


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