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我、魔王スペルヴィアなり!!  作者: 黒っち
Phase 2.「熱い夏」
22/41

022.「夏に向けて」

 季節は初夏を迎え始めていた。


 部活の終わり時間になっても日が照っていることや、汗ばむ陽気も増えてきた。


 そんなある日の放課後――奇しくも、その2つの知らせは同時だった。


「決まった、決まった、決まったぞ!」


 バタバタと教室に駆け込んできたのは、情報通の入須。出席番号は2番――明日辺と叡智さんの間の席だ。隣の列には俺も座っているので、自然なんか騒いでるのは耳に入ってくる。


「どしたんジョージ?」


 ギャルグループで談笑していた叡智さんが目の前にやってきた入須に向け顔を上げる。

 彼女の前――すなわち入須の席には他のギャルが座っており、後ろ――小谷も不在なので、彼の席にもまた別のギャルが座っていた。


 その、小谷だ。


 入須は彼女の机の上にバーンと紙を叩きつけた。


「地方大会の組み合わせが決まったぞ!」

「ちほー……?」

「おま、彼ピ候補の大事な予定くらい押さえとけ―!? 甲子園行くんだろ甲子園!」

「あー、やきゅーねやきゅー。ナニナニ、これどう見ればいいの?」


 つつつと線をなぞる入須。


「我らが大和高校はココ。……んで、最初はコイツと戦う。次はコイツら。そん次はコイツらのどれか。……で、8回勝ったら甲子園だ」

「8回も! 多くね!?」

「俺もようわからんけど、西東京ってのは結構激戦区らしい」

「あちゃ~……道険しそだなん」


 話を聞きつけて、ライバルのチャラ男たちがガヤガヤと集まってくる。


「なになに?ww 小谷のヤツピンチなん?ww」

「いうて相手8回ブチかますだけなら結構いける気しね?」

「アホ、ケンカじゃねーんだぞ」


 などなど、好き放題言っている。

 コホン、と入須は咳払いをして、話をつづけた。


「回数もそうだけど、相手がまたヤベーんだ。三回戦で当たりそうなのが日太三、そしておそらく決勝に来るのが――遅実だ」

「それヤベーん?」

「バカ鬼ヤベーっつの! 甲子園常連、優勝経験もある連中だっつーの! 当たり前っちゃ当たり前だけど、甲子園って各都道府県からほぼ一校しか出れねーからよ。そこに行くっつーことは当然、普段出てるやつらを倒していくっつーことなんだよな」

「ウチは強いん?」

「毎年一回戦で消えてる」


「こりゃ無理だろww」

「小谷しゅーりょーww」


 安堵したチャラ男たちは、ケラケラと笑いながらやがて興味を失い、解散していった。


「そかそか……鬼ヤベーか……」


「ゆ、ゆっきー……えーと……き、気にすな気にすな! アゲてけアゲてけ~!?」

「イケるイケる! フレーフレー応援するぞ~♪」


 静かに肘をついて考え事をする様子の彼女に、周囲のギャルたちはアセアセとフォローしていた。


 御宅と露里と合流し、ガラガラと扉を閉め教室を後にする。


「甲子園の話、聞いたでござるか?」

「隣の席だからな。嫌でも耳に入ってくるよ」

「まぁ無理でござろうな、常識的に考えて。てか小谷君はそんなに自信があるならなんでこんな無名校に来たのでござるかな?」

「さぁ……」

「漫画で、自分の実力だけで勝つためにあえて無名校に行くみたいな展開はときどき見るでござるが、よもやそういうことではあるまいなぁ……」

「ははは」


 談笑しながら部室へ向かい、そして到着。

 扉を開けると――


 パチパチパチパチ。


 パチパチパチパチパチ。


「Congratulations……!」

「Congratulations……!」

「Congratulations……!」


 パチパチパチパチパチ……


「……??」


 漫研内では、謎の祝福の言葉が飛び交っていた。


 誰かをグルリと囲むように立っている部員たち。

 その中心にいたのは――賀地目先輩だ。


「こんちゃッス。どうしたんですか? 部長」

「やぁ来たね1年生諸君! 今年も決まったようだよ、賀地目君の出走が――!」

「出走……?」

「オタクの祭典――夏コミさ!」

「……おぉぉ!」


 パチパチパチパチ。


 パチパチパチパチパチ。


「Congratulations……!」

「Congratulations……!」

「Congratulations……!」


 パチパチパチパチパチ……


 新入生3人で、並んで拍手を行う。その最中神宮時さんも到着し静かに扉が開く。

 が、怪訝な顔をして入口で固まっておりなかなか入ってこない。俺は振り返って手を伸ばし――


「さぁあなたも一緒に! Congratulations……!」

「こ、こんぐら……?」


 身を引いて拒絶の意思を表す少女。うーん、やっぱこういうのにはノッてこないな。


 ――


「というわけだ。これからますます忙しくなる。くれぐれも賀地目君の邪魔はしないように、みんな配慮お願いするね――!」


 すごい人だというのはわかるけど、ここまで特別扱いされているのには何か理由があるんだろうか? 少し疑問が生じる。


「賀地目先輩は、夏コミに何出すんですか?」

「あぁ……”旨娘”の同人だよ」


 ――旨娘 デリシャスドール。


 少し前に一世を風靡した、ソーシャルゲームのことだ。


 旨娘とは料理の擬人化であり、ハンバーグちゃん、ラーメンちゃんといったキャラクターを育成し、「旨味、塩味、甘味、苦味、酸味」の5つのパラメータを強化していく。

 各キャラクターには適正パラメータがあり、適正パラメータを強化するほど美味しくなる。

 例えばゲーム中で「名家」とされるラーメン家には、ショウユラーメンちゃんやミソラーメンちゃんなどがおり、基本的には旨味、塩味、甘味を強化したほうがよいのだが一部サンラータンメンちゃんのように酸味を強化した方がよい娘もおりそのあたりのバランスが奥深いゲームとなっている。

 また、定期的に対人戦大会チャンピオンズイーティングが開催されており、そこでの勝利がシェフたちのモチベーションになる。


 まぁ細かい仕組みの話はともかく、このゲームに出てくるキャラクターがまた可愛いんだ。育成シナリオもよく練りこまれており、その料理の成り立ちや発展と衰退の歴史なんかは涙なしに読めない子もいる。そういうこともあって、界隈では根強い人気を誇るコンテンツだ。


「へぇ~、すごい人気のやつですね。そういえばさっき部長、”今年も”――って言ってましたけど、去年も出たんですか?」

「そうそう。去年は大変だったな……」

「大変? 部長が?」

「うん。あ、そうだ。賀地目君、今年もやるってことでいいかな?」

「はい、ぜひお願いします」


 やる? お願い?


「というわけだ! 我が漫研部、夏の一大イベント――”ジェリーC”の売り子をするぞー!」

「おー!」

 ※ジェリーC:賀地目のハンドルネーム。ジェリードイールちゃんの担当シェフの意。


 ジェリーC……!! まさかまさかの大発見。まさか、こんな身近なところにそんな大物絵師がいたなんて。

 なるほど部員総出で手伝いが必要ということにも納得がいく。先輩がこれだけ重宝されている様子からすると、我々にもそれなりの実入りがあるってことか。


 忙しい夏になりそうだ……!


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