021.「大ニュース」
――放課後。
いつものように帰宅準備をし、御宅と露里に声をかけて部活に向かうべく教室を出ようとすると、慌てた様子でチャラ男が駆け込んできた。
「だ、だ、だ、だ…………大ニュースだ、大ニュースーーーッ!!!!」
騒然とする教室。チャラ男は周囲を見渡すと、衝撃の発表をした。
「ゆ、ゆ、ゆ…………ユッキーが小谷に告白されて、条件付きでOKしたってよぉぉぉぉ……」
「……」
「……」
「……」
「はぁぁぁぁぁああああああああああああああッ!!!???!!!???」
――教室内は、天地がひっくり返る大騒ぎとなった。
「き、聞いたでござるか? 佐藤氏……」
「あ……あぁ……」
「はぁ~やっぱりかのような美少女は、イケメンかスポーツマンと結ばれる運命なのでござるなぁ……」
まぁ、俺もそういうもんだろうとは思ってはいたが……思ってはいたが……思っていた以上に落ち込むな、コレ……
俺ですらそうなんだから、「俺ならイケるだろ」とか半端な自信を持っていたカースト上位男子たちの落胆ぶりといったらその比ではない様子だ。
まもなく教室に戻ってきた叡智さんが目に入ると、クラス中の人間たちが一斉に彼女に詰め寄った。
「ユッキー! どういうことだよコレーッ!」
「小谷でいいの? ホントに後悔しない!?」
「俺の方がゼッテー顔イケてるしトークも面白い自信あるって!」
「男なんかに取られるくらいなら、あーしが先に食う……!」
さまざまな反応が殺到する。たまらず叡智さんは弁明会見を開くことになった。
――教壇に彼女が立ち、生徒の席をほかの生徒が埋め尽くしている。
俺の席は、どっかからやってきた野次馬に取られてしまった。アタフタしていると、窓際の一番後ろの席の山田さんがヒラヒラと手を振っているのが見えた。
「お~いピヨっち~。ココ空いてるよ~」
「あ、ありがとう」
一つ隣の列の一番後ろ。ここだけ空席だ。
最後に俺が席に着くと、会見が始まった。
「……では一番の方。質問ドーゾ」
「はい! 単刀直入に聞きますが――叡智さん、小谷の告白を受け入れたというのは事実ですか!?」
「えー……概ね事実ではございますが、一部認識に相違がございます」
「具体的にどのあたりでしょうか!」
「正確には、”彼がこの夏甲子園に行けたら”という条件付きとなります」
「ありがとうございます」
「では二番の方。質問ドーゾ」
「はい! 条件付きでOKということは、前提として、彼のことを好ましく思っているという認識で合っているでしょうか?」
「はい、その認識で合っております」
「ありがとうございます」
「では三番の方。質問ドーゾ」
「はい! その好きとは、どのような意味の好きなのでしょうか? LIKEですか、LOVEですか?」
「LIKEです」
ざわ……ざわざわ……
にわかに、教室内に動揺が走った。
「では四番の方、質問ドーゾ」
「はい! 伽羅 雄です! 叡智さん、私のことはどのように思っておられますか?」
「好きです」
「その好きは、LIKEですか?」
「はい」
「では、私にもチャンスはありますか?」
「あります」
ワァッ……と、歓声が上がる。
そっかぁ~……伽羅君もチャラいけどイケメンだもんな~。小谷君とは路線が違うけど、アレはアレでアリだよな~。と思っていると、まだ続きがあった。
そこからは自分にもチャンスがあるかの大確認会だ。
「では二十二番の方、質問ドーゾ」
「はい! 藤原 美樹です! あーしはアリでしょうか!」
「んー…………あーりよりのありぃ!?」
「Foooooo!!」
女もアリか……!? いや、若干茶化した感じもするが……!
順番が近づいてきて、ドクンドクンと心臓が速くなってくる。
このノリなら、俺みたいな陰キャでも言ってみてもいいよな? いいよな? いいよな……!?
「では二十四番の方、質問ドーゾ」
「はははい! え、えと、えと、えと……佐藤 雀次郎です! えと、えと、えと……」
「はーい時間切れー。質問タイム終了~」
「え……!」
「ひっこめスペルマン! およびじゃねーんだよテメーはよ!」
方々から野次が飛び、俺はシュンとして席に座った。