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我、魔王スペルヴィアなり!!  作者: 黒っち
Phase 1.「目覚めし者たち」
18/41

018.「最優先指令」

 少し時を遡り――校内。


「小谷が屋上から飛び降りた」と騒然としている中電話が入り――俺は、牛島から信じられない報告を耳にした。


「は……? 今、何と言った?」

「ですから! 升田と叡智です! あの2人が何かしたようです! そこに勇者も加わって、3人で飛び去りました!! 現在追跡中です、どうされますか魔王様!?」

「……状況がわからん。とにかく見失うな、我は現場を調査してから後を追う。定期的に進行方向を報告しろ。目印はそうだな――駅名だ」

「ハッ!」


 どういうこと? 升田と叡智さんと勇者がグルで、3人で小谷を殺した? 何のために? 実は小谷が魔王軍の者だったから? いやいやいや、ないないない。他はどうか知らんけど、叡智さんはどう考えても転生者なんかじゃない。


 思考が整理できない中、とにかく駅へ走り電車に駆け込む。

 牛島からの報告では連中の移動速度は相当なものだ。移動距離が長ければ長いほど、俺の現場到着は遅れる。


 ガタン、ゴトンと電車に揺られながら牛島からの定期報告を待つ。


 報告のたびに、路線が変わっていたりしてそのたびに乗り換えたり、いや現在の進路のまま進めばまたこの路線上に戻るかもしれないなどとあたふたし――


 くそっ。他の奴らはビュンビュン飛び回っているというのに、魔王たる俺様だけなんで電車移動なんだ、と毒づく。


 ――いや違うだろ。


 そんなことはどうでもいい。とにかく考えなければ。

 今何が起きているのか。俺はどう動くべきなのか。選択を誤れば、選択が遅れれば、致命的な結果を招きかねない。


 正直ナメてた。状況をあまりにも楽観視していた。なんだかんだ何も起きていないから、これからもなんとかなるとタカをくくっていた。


 ――が。


 ついに死者が出た。


 ――巻き込まれている……?


 最悪のシナリオを基準に思考を組み立てる。

 もっともあってはならないのは、無関係の第三者が巻き込まれることだ。

 勇者はもちろん、升田も明らかに何らかの能力者だ。あいつはこの際どうなってもいい。だが、叡智さんはダメだ。彼女が牛島のいうように勇者の手のものである可能性はゼロだとはいわないが、俺はただのパリピギャルだと思っている。


 その彼女が、たまたま升田と一緒にいて――そこを勇者に見られた。

 だから仲間と思われ、だから襲われた――? しかし、なぜこのタイミングで?


 牛島の報告を思い出し、もう一度最初から追いなおす。

 奴は「あの2人が何かした」と言った。


 俺は牛島に升田の監視をさせていたが、同様に勇者も叡智さんには目をつけていたはずだ。牛島も、勇者も、同じように状況を見ていたのだとしたら――だったら、牛島がそう思ったように、勇者もそう思ったのではないか――?


 ――だから……ヤツは行動に出た!!


 ここまでは辻褄が合う。で、なんだ? 3人で飛び去った?

 叡智さんも自分で飛んだというのか?


 LIZEで牛島に確認を取る。すぐに「叡智は升田が抱えています」と返信が返ってくる。


 つまり……追う勇者から、升田が叡智さんを守っている――と、そういうことか。


 考えろ、考えろ、考えろ。

 第一は叡智さんだ。彼女を殺させてはならない。その次は勇者だ。もし升田がヤツより強かったなら――勇者が殺されれば、俺的にはいつか詰む。



 いや、詰むか……?

 以前升田は「俺につけば守ってやるぞ」と言ってきた。アレが女神だの勇者だの魔王軍だのからという意味なら、俺はそっちにつくべきなのか……? ヤツは叡智さんを守っている。ならば俺と利害は対立しない。


 いやいやいや。それはあまりにも希望的観測すぎる。仮に升田が勇者より強かったとしよう。で、勇者を殺したとする。その後、いずれグガランナと戦うことになったとき――升田はあいつに勝てるのか……?


 目的も力も正確なところは不明。ダメだ、升田に賭けるには今のところリスクが勝つ。

 俺にとって最良のシナリオは、勇者が升田に勝ち、なおかつ叡智さんが殺される前に牛島が横入りするが結局勇者が勝つ。で、そのあと叡智さんが殺される前に俺がかけつけてネタバラシ。実は魔王軍はグガランナだけで、俺たちは無関係でした~めでたしめでたし――


 ――にはならないだろ!!


 ダメだ。それじゃただの命乞いだ。てか、アレ? 俺もしかしてかなりの泥沼に足を踏み入れている? 途中で戦いをやめる方法がわからない。


 ――あ、そうか。魔王だ。本物の魔王が現れるしかない。


 そうならなければ勇者の俺に対する疑いが晴れることはない。その前に牛島という駒を失えば、俺はあいつに殺される。


「ぐぐ……ぐぐぐ……!!」


 頭のおかしい人みたいに電車内で頭を抱えうめき声をあげてしまう。周囲は若干引いて距離を取る。


 では――今回の落としどころはどこだ……?


 思考を巻き戻して再度優先順を思い返す――第一に叡智さん、第二に勇者。これだ。

 悪いが升田、俺の中でお前は「不確定な何か」でしかない。



 方向性は固まってきた。


 最後に――升田との戦い方だ。


 あいつが”何かした”ことによって小谷は自ら命を絶った。殺したのではなく、自死させた。考えられる可能性は一つ――勇者やグガランナが使うような魔法的な力で、精神を操ったのだ。


 だとすればうかつに近づくのは危険すぎる――か?

 しかし思い返してみると、ヤツがその力を行使した記憶がない。そんな便利な力を手にしているのなら、何かやるだろ、フツー。

 もしかしたら簡単には使えない制約とかが――いや、力を使ったことそのものを忘れさせられているのかもしれない。希望的観測は危険だ――


 ――あ!


 あった! あったぞ、心当たりが1つ!!

 あいつ、ぜんっぜん勉強なんてしてないくせに中間テストで全教科満点取りやがったじゃないか……!!

 その記憶はバッチリある。うやむやになんてされていない。


 それともう一つ材料がある。ヤツは「俺につけ」と言ってきたがそれを強制はされていない。力を使えば簡単に俺を自分の配下にできたのに。


 効果範囲、使用間隔、魔力体力の消耗、回数制限……思いつく限りの制限事項をあげてみる。

 どんな制限だとしても、”あの瞬間”に行動すれば――


 意を決して電車を駆け下りると、俺は牛島に指令を伝えるべく電話をかけた。


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