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我、魔王スペルヴィアなり!!  作者: 黒っち
Phase 1.「目覚めし者たち」
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017.「月下の決戦」

 フー、フー、と興奮冷めやらぬ升田と、何が起きたのか理解できず立ち尽くす叡智。

 部室棟裏で佇む2人の前に、ジャリ、ジャリ、と足音がゆっくり近づいてきた。


「……誰だ!?」

「あ……トゥモロー! 来ちゃダメ逃げろし!」

「……」


 無言で前進を続ける明日辺。その目は殺意に溢れている。

 彼は、善良な一市民――と思われる小谷が、この2人と会った後になんらかの洗脳状態に陥り、自ら命を絶つところを目撃した。


(間違いない――コイツらは、魔王軍だ!!)


「明日辺くぅぅん……体力標準レベルのキミが、なぁ~にイキッて――」


 振り返った瞬間、ぐにゃあと時空が歪み、すべてがスローモーションに見えていく。

 これが2つめのチート能力――”タイムアルター”。意図的に発動させることはもちろん、自分の意思とは無関係に危機が迫った際に自動発動もするベンリなヤツ。

 明日辺の右手にはいつの間にか剣が握られており、今まさにそれが自分の喉元を切り裂こうと迫ってきているところだった。


(なんじゃこりゃ……? 明日辺……コイツもなんかのチート能力持ちか……?)


 なんなく躱す。


「!!?」


 勇者からすれば斬撃がヒットする瞬間、回避モーションもなく突然姿が消えたように見えたのだ。


「ちょっ! いきなり何して――」


 勇者の腕をつかもうとする叡智。その彼女にも容赦なく斬撃が見舞われる。


(!! このガキ、ゆうタンになにを――!!)


 慌てて横からブン殴る。

 ガシャーン、と、勇者はフェンスに吹っ飛んだ。


「ぐぅっ……!!」

「ハァー、ハァー、フゥー……!! お前ェェ……今、ゆうタンを斬ろうとしたなァ……!!」

「えっ……えっ……えぇっ……?」


 まもなく、遠くから悲鳴やざわざわと騒然とする様子、救急車のサイレンなどが聞こえはじめる。


「ちっ……人が多くなってきた……明日辺! おお追ってこい」


 叡智を抱え、升田は大きく飛び上がった。

 3つのチート能力の他に、前提として大幅な身体能力強化も与えられている。


(これ自体はチートと呼べるほど圧倒的な内容ではないが、どうだ。ついてこれるかな?)


 すかさず勇者も跳躍し、難なくついてくる。


(なるほどなるほど。なら、これなら……?)


 ペースを上げるが、それにもついてくる。どうやら身体能力だけならば明日辺のほうが上のようだ。移動中に升田はそう結論した。


「ちょっとちょっと! えぇぇっ!? なになになに怖! 離して――いや離すな~!」


 建物の屋根を足場に次々と跳躍を重ねていく中、ジタバタする叡智を無視してキョロキョロと場所を探す。

 いかにタイムアルターがあるとはいえ、徒手空拳では決め手に欠ける。何か手頃な武器のある場所は――


 ――結局、湾岸部の無人の倉庫群の中へとやってきた。


 すでに日は落ち、暗闇が世界を支配しつつある。都市部を長時間横断してきたため叡智は疲れ果てぐったりしていた。


 すたん、と勇者が背後に着地する。


「やややりはじめる前に、少し話をしないかい」

「……」


 無言の明日辺。構わず話す。


「明日辺くん……キミっていったいナニモノ? あーそうだね、まままずはボクの手の内を明かそうか」


 ゆっくりと構えをとっている。すぐに飛び掛かってくるわけではないが、かといって油断するつもりもないようだ。


「ボクはね……一度死んだんだ」


(知っている)


 グレンデルにしろギガンテスにしろ、勇者は多くの魔物を斬り捨ててきた。


「そしたらさ、なんていうんだろう……こここの世とあの世の狭間――みたいな? 真っ暗な空間で目が覚めて――」

「転生させられたというのだろう。知っている。なぜなら、俺もそうだからだ」


 言い切らぬうちに言葉を遮られた。


「転生? いや――」

「我が名は勇者アシェル。女神アドナより魔王討伐を任ぜられた、神の意志の代行者」


 勇者? 女神? 何を言っているんだコイツは?


「さぁ言え。キサマは誰だ! ポルピュリオーン――ではないな? 先ほど見せた瞬間移動――そのような能力には見覚えがない」

「ポポ、ポリュピュリ……? 何を言ってるのかわからないな。ボボボクは升田 音斗梨。それ以外の何者でもない」

「そうか――ならば話は終わりだ!」


 ボッ、と、凄まじいスピードで斬りこんできた。


(いままでよりさらに速くなった――!!)


 ぐにゃあと時空が歪み紙一重で躱す。が、すぐさま二の太刀、三の太刀とコンビネーションが続く。躱せる。まだ躱せる。剣だけに注目していると、下から蹴りも襲ってきていることにギリギリで気づいてなんとかそれも躱す。


 躱す。躱す。躱す。

 それに従ってさらに、さらに、さらにスピードが上がってくる――!!


(な、な、なんだコイツ! いったいどこまで――!!)


 たまらず叫ぶ。


「タ、タイムアルター……ギアセカンドッ!!」


 大きく時空が歪むと――次の瞬間、勇者の目の前から敵の姿が消えた。


(……!? どこだ!?)


 周囲を見渡す。が、升田の姿は影も形もない。


「……まぁいい。ならば、目の前の敵を討つだけだ!」


 へたり込んでいる叡智に向かって駆けていく。


「おおおおおおッ!!」

「え……? ちょ……」


 天高く剣を振りかぶった――その時。


「ゆうタンに……手を出すなぁぁぁぁッ!!!」

「!!」


 大きな鉄塊が突如勇者の眼前に出現し、彼は紙一重でそれを回避した。

 ドボォンと、後方の海へと着弾する。


(今度は鉄塊がワープしてきた……? いったい何がどうなっている……整理しろ、整理……!)


 攻撃するたびに目の前から消え、反対に突如目の前に出現もする敵。己だけではなく、モノも同様に操れる様子だ。


(ダメだ……やはり思い当たるフシがない。いや待て……もしヤツがそもそも存在しない魔物だとしたら……あれはエレシュキガルが生み出した幻影なのだとしたら……?)


 ならば説明がつく。霧のようにとらえどころのないその姿。なぜエレシュキガルが一向に手出しをしてこないのか。なぜ升田がやたらと彼女を守ろうとするのか。


「やはりキサマが本体か――!!」


 再び振りかぶる勇者。


(なっ! あの野郎、なぜそこまで執拗に――!!)


 物陰でうかがっていた升田は、なりふり構わぬ強硬策に出た。


「ああああああああッ!! タイムアルター……ギアサードッ!!!」


 さらに歪む時空。

 升田はそこらのコンテナを突き破っては中身を取り出し、そのあたりに放置されている金属類を拾い上げ、ポールを引っこ抜き、方々を走り回ってやたらめったらと投げまくった。


 効果時間が切れる刹那、それらが一斉に勇者の眼前に出現する。


「――!! う――うおぉぉぉぉッ!!」


 1つ、2つ、3つを斬り飛ばし、4つ、5つ、6つを回避――残りは――



 ――轟音。


 10個以上の鉄柱鉄塊が滅多やたらと彼の体に着弾した。

 鉄塊の山を前に、呆然と座り込む叡智。


「え……え……? トゥ、トゥモロー……?」


 その山の上に、升田が満足気な顔で足をかけた。


「はぁ、はぁ、はぁ……ど、どう……? ゆうタン……ボボボクだって頑張ったよ……こここれでちょっとは見直して――」


 ――ズズ。


「え……」


 ズズズ。


 ガラガラと崩れていく鉄の山。

 転げ落ちて尻もちをつく升田の前に、ほとんど無傷の勇者が立ち上がった。


 月光に煌めくは冷厳なる黄金の双眸。

 にわかチーターの升田とは、根性も、意志も覚悟も何もかもが違いすぎる。

 彼はようやくそのことに気づき、心の底から恐怖した。


(か――勝てない――)


 ジャリッ――と、一歩踏み出す勇者。

 升田の体は震えが増し、もはや戦える状況ではない。


(あぁ、わかった――わかったよ、ボクの負けだ……!)


 彼のもとへとゆっくりと歩み寄り、神剣が振り下ろされようとした――その時。


「タイムアルター……プラス、コンシャスアルター……」

 升田は立ち上がってポン、と勇者の肩をたたき、囁いた。


「――死ね」


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