014.「無双」
――次の日から、升田の無双劇が始まった。
いつも「うぇーいww うーいww ほぉーいww」と、やたらと投げられ、寝技では息ができないように抑え込まれていた柔道の授業。積年の恨みを晴らすべく滅多うちに投げまくった。
ドバァン! ドバァン! と凄まじい音が鳴り響き、相手のチャラ男が泡を吹く。
教師が異常を察知して止めに来るが――
「やや、やだなぁ先生……いいいつもボクがやられてるところ見てるくせに……ボボボクが土丘くんに勝てるわけないじゃないですか……かか彼が受け身の練習をしたいって自分から飛んでたらきき気絶しちゃったんですよグフ」
「本当かぁ……? まぁ確かにお前がここまでやれるとも思えんが……とりあえず先生は土丘を保健室に連れて行ってくる! 待ってろ、いないうちに勝手に投げ合ったりするなよ!」
クラスの陽キャにはいくつか分類がある。モテそうなことだけを追求する者たち、ひたすら周囲に合わせる者たち、そして土丘をはじめとした暴力的な傾向を持つ者たち――
彼の被害にあっていたのは升田だけではなかった。
「デュフ。土丘のやつ自分で飛んで気絶したって本当でござるか? それは痛快でござるなw」
出席番号15番の露里もまた、後ろの席の土丘からよく絡まれる被害者の一人であった。
――またある日。
バスケの授業。故意にボールを顔面にぶつけられ鼻血を吹いたり、突き飛ばされて派手に転んだり――もちろんそういうのもキッチリ復讐してやる。
先日の報復か、升田がボールを持っていると土丘がとりまきを連れて徹底的にマークしてくる。一人がスキを見て派手にタックルしてくるが――びくともしない。
「ん~? いいい今、かか蚊でも止まったかな……?」
「なっ……」
「ほぉーれ」
軽―く押してやると――チャラ男はゴロゴロと転がって気絶した。
ボス猿の土丘が激高する。
「てめ調子に乗ってんなコラぁ!! 」
「え? ボボボク、またなんかやっちゃいました?」
「しらばっくれてんじゃ――」
胸ぐらをつかまれそうになり、すかさずその手をとって捩じ上げる。
「ッテテテテテ!! ッタイタイタイタイ!!」
「やめてよね。本気でケンカしたら、土丘君がボクにかなうはずないでしょ」
ただただ睨みつけるしかできない土丘。いいザマだ。
彼がこの程度の処置で済ませていることにはいくつか理由があった。1つは――
(本来であればコイツらに「死ね」とでも命じれば、自分の手は汚さずにゴミどもを消すことはできる……が。さすがにクラスメイトに死者が出たらゆうタンが悲しむだろうからな……ククク、いたぶるだけで我慢してやるよ)
また、ほかにも――
「いやー今日も痛快でござるな升田氏!」
「露里君……」
「やっぱり偶然じゃないでござろう? もしかして何か格闘技でも始めたのでござるか?」
「フ、フフフちちちょっとね」
「やはり! 升田氏は体は大きいから、鍛えさえすれば強くなるのも必然……いやしかし」
プニプニと脂肪をつつかれる。
「そんな筋肉がついてるようにも見えないでござるが……うーん摩訶不思議」
「やややめろよー。くくくすぐったい」
(共通の敵がいるおかげで、人生初めての友達もできた……そういう意味では感謝してやるよ、土丘)
――そうだ。この調子でカースト最下位層で団結し、盤面を逆転させてみるのも面白いかもしれない。
他にもこのクラスには御宅や佐藤といったダメ夫たちがいる。やつらなら味方に取り入れても恋のライバルにはなりえまい。
(連中を引き連れて現在カースト上位のチャラ男どもを引きずり下ろし、頂点に立ってゆうタンのハートをゲット……グフフ完璧なシナリオだ)
身体能力は向上したが学力はそのままだ。しかしその点もちゃんと対策を考えてある。この学校の教師18人に持ち回りで”コンシャスアルター”(チート能力につけた名前)をかけ、テストの正答をあらかじめコピーさせるようにすれば、各学期、各学年の中間・期末テストをすべて満点で通過することができる。
――盤石。
すべてにおいて抜かりなし。
自らに待つ輝かしい未来を想像し、升田の口元は緩むばかりであった。