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我、魔王スペルヴィアなり!!  作者: 黒っち
Phase 1.「目覚めし者たち」
13/41

013.「覚醒」

 1-Cには、デブ四皇と呼ばれる者たちがいる。


 一人は柔道部ルーキーの斎藤 常陸。こちらは筋骨隆々の大男といった感じで、デブ四皇のうちの「動けるデブ男」。

 そして二人目は、帰宅部にして雀次郎や御宅、露里などと同じくカースト最下層の人種――「動けないデブ男」こと升田 音斗梨だ。


 先日の体力測定の際も、雀次郎は叡智に構ってもらえている妬み半分、蔑み半分でからかわれていたが――升田はもっと酷かった。

 いわば雀次郎のドンくささに際立った外見の醜さがプラスされた極上のイジメ素材。


 当然、その扱いは苛烈を極めた。チャラ男どもは、表立って見える場所ではからかう以上のことはしない。度が過ぎると叡智が嫌がることを彼らも何となく知っている。

 ゆえに、「人目のない場所」でそれは行われていた。


「ん? やほーナッシー……てどしたんそれ!?」

「あ、ええ、叡智さん……なな、なんでもないよ……ちち、ちょっと階段から落ちちゃって……ボボ、ボクどんくさいから……へへ……」

「階段てヤバ! 何段目から!? 骨折れてない? てか病院行く!?」

「あ、いや、うぅ……」


 手を取ろうとする叡智だが、升田はそれを避けるように腕を引く。


「い、いいって汚いから……」

「つべこべ言わず来いって~!」


 血と涙とよだれで汚れた手をガシッと握られ、早足で保健室に連れ込まれた。


「先生いないか……ゴメンあーしでいいかな?」

「い、いい! いい!」

「えーとコレとコレとコレで……」

「いだい! いだい! いだい!」


 適当に持ってきた薬をポンポンされつつ、ガーゼとテープを貼って応急処置が完了。


「ふぅ……とりまこんなカンジっしょ! ど!?」

「う、うん……アア、アリガト……」


(あぁ、叡智さん……マイスイートハニーエイチ……荒廃した世界に舞い降りた天使……)


 升田に限らず、だいたいの男はこんなカンジで考えている。一部、女も。

 しかし、やはり違う。小谷のようにそれを公言してはばからない者は、いわばそれを口にすることでエネルギーを発散している。一方、升田のようにその鬱屈した感情を内にため込む者は、行き場のないエネルギーを抱えたまま、まるで爆発寸前の爆弾のような状態になる――のかもしれない。


「念のため病院いこ? あーし送ってくよ」

「アア、アリガト……ホントに……」


 町を歩く二人。信号を渡ろうとした、その時。

 ゴォォォ、と、妙な音と振動。振り向くと目の前にはトラック。


「え、叡智さ――」

「きゃっ!」


 彼女を突き飛ばした刹那。ボゴォン! と、大きな衝撃音が響き、升田はゴロゴロと糸の切れた人形のように意思なく交差点を転がった。


「ウ、ウソ、ナッシー……!? ナッシーーーーー!!」

「はい?」

「あ゛え゛!?」


 次の瞬間、何事もなかったかのように起き上がると――


「え? え? ナッシー? ダイジョブなの? いやダイジョブなわけねーべ! すぐ病院!」

「いいいや、だだダイジョブダイジョブ……なななんか、むしろぶつかられていい感じに関節とかハマったっていうか……」

「バカいってねーではよ!」


 腕を取ろうとする叡智の目を、升田はギョロリとのぞき込んだ。


「うるさい女だなぁ……叡智 優姫、股を開け」

「はぁい♡」


 ゴロン、と、あられもない姿で道路の真ん中に転がるギャル。


「オホォーッ♡ ホホホントなんだな、アイツが言ってたボボボクだけのチート能力……!! グフフフフ、こここれで世界はボクの思うがままだ……!!」

「……はっ! わわっ! なにやってんだあーし!」

「む……命令が終わるとすぐ終わりか……では続けて……叡智 優姫……ホテルに行くぞ!」

「……何言ってんだバカ! やっぱあんた頭打ってるっしょ!」


 バチィンと頭をはたかれた。


「!?!?!?」


(え、ウソぉ……ナンデナンデ!? もしかして、一回限りの能力ぅ……!?)


「す、すまねぇ! 大丈夫かあんちゃん!」

「なんだなんだ」

「豚が車に轢かれたみたい」


 ガヤガヤと人が集まってくる。


「……お前たち全員……散れっ!」

「……」

「……」


「あれ、なにやってたんだっけ俺?」

「いこいこー」


 トラックの運転手はトラックに戻って走り去り、野次馬も散り散りになっていった。


(大丈夫……能力は失われていない……くぅ……もしかしたら一人の人間につき一回きりなのかもしれないぞ……だとしたらボクは……ボクは……ワカンの機会を失ったぁぁぁぁ!!)


 頭を抱える升田。


「あの運転手マジか! 逃げたよ! てかあんた本当にダイジョブなの……?」

「ウン……ヘイキヘイキ。ホーラコンナニ……」


 ドンッ。升田が足に力を籠めるとアスファルトが隆起する。

 と同時に、目にもとまらぬ速さで彼は遥か彼方まで移動していた。


「……い゛い゛ッ!!??」


(チート能力は1つじゃない……別にいうことを聞かせられないならそれはそれでいい……この力でホレさせるか……それが叶わぬ時は……グフフフフフフ)


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