011.「体力測定 その2」
立ち幅跳び――佐藤 雀次郎、205cm。叡智 優姫、208cm。
ハンドボール投げ――佐藤 雀次郎、20m。叡智 優姫、21m。
実力は伯仲している。紙一重で負けてはいるが――勝つ可能性は、ないわけではない……!
「キャーキャー小谷君すごーい!」
「フゥーハハハハハハァー!!」
ハンドボールを50mもカッ飛ばして大喝采を受け続ける小谷。その騒ぎの中、ひそかに俺は彼女に宣戦布告をした。
「叡智さん……俺は、勝つよ……次の50m走で……!」
「ふっふー♪ 現在あーしの7連勝……次もいただきだしぃー♪」
「そうはさせない……叡智さん、50m走は2人1組……一緒に走ってくれないかな?」
「ほほーぅ……」
直接対決で雌雄を決しようではないか。
「いーけど……目立っちゃうよ?」
「笑いたい奴には笑わせとけばいい。全力で挑んで敗れるなら本望さ」
「ピヨじろ……カッケ~~じゃん! よーし受けた、その勝負ッ!!」
ガシッとお互いの腕を交差させる。
「あーしが勝ったら、なにしてもらおっかな~」
「え……そういう勝負?」
「勝ちゃいーのよ勝ちゃ。それとも自信がないのかな~?」
「の……望むところだ……!」
「んじゃね~あーしは……勝ったら1週間、ピヨじろをイスにする!」
「……ゑ?」
どゆこと?
「言葉のとおり! ガッコ内ではどこでも、あーしが座りたくなったらサッとやってきて、イスになってもらうんだよ~ん♪」
なんだそれ。ご褒美でしかない。いったいどれだけの男子がイスになりたいことか――が。
だがしかし!
そんなことをやったら、またとりまきの男どもに妬まれてしまう。それに、そういうのはちゃんと誇りのあるヤツがギャグでやることだ。俺みたいな何もない人間がそれをやらされたら、人間としての尊厳が完全に破壊されてしまう。
「ふ……ふふ……なかなか……残酷なことを言うもんだね、叡智さん……!」
「おほほほほ、そーかしらぁ? さぁ、youはどーするぅ?」
「……」
しばし目を閉じ考え――ゆっくりと、開いた。
「……行く」
「ん?」
「叡智さんの家に……行く!!」
「え、ふ、二人で?」
「あ、いや……何人かで!」
思ったよりアセッた様子の反応に、一気にヒヨッてしまった。
「友達――あ、明日辺連れてくから! そっちも誰か女の子連れてきてね!」
「お、オケオケ! そゆことね! てかトゥモローと仲良かったんだ!?」
「ま、まーね」
友達という意味では御宅や露里のほうがふさわしいのだが、オタク2人とギャル2人というのもなかなか地獄だ。ここは、空気に困ったらとりあえずイケメンの明日辺に防波堤として役立ってもらうことにしよう……
――そして、決戦のときがやってきた。
「3番、叡智 優姫! 4番、小谷 稍平!」
「あ、サーセン先生~。あーしと小谷くんじゃ足の速さ違いすぎるんで~、似たような速さの佐藤くんと組ませてもらえませんか~?」
「む……いいだろ。おい代わりに次の奴、小谷と走ってやれ!」
「はーい」
「そんな……叡智……」
小谷はガクンとうなだれた。
「――では次! 3番、叡智 優姫! 9番、佐藤 雀次郎!」
「はい!」
「はーい♪」
例によってワイワイと野次馬が集まってくる。
「ここまでユッキーの7連勝だってよww」
「スペルマン弱すぎww」
「なぁこれどっちに賭ける?」
「ユッキー一択」
「ファイトーゆっきーイケイケGOGO~♪」
さまざまな声が交差する中――
パァン! と、火蓋は切って落とされた!
「よしゃあーっ!」
バヒュンとスタートダッシュをキメる叡智さん。出遅れ、いきなり後ろ姿を拝む形になる。
ま――まずい!
「う……うわぁぁぁぁぁぁっ!!」
「わはははは、もーらったぁー!」
笑いながら走る。その間にも周囲からは歓声や応援が飛び交い、サービス精神旺盛な彼女はそれに応えサムズアップをしてみせたり小さく手を振ったりしている。
だがそれが命取りだ――!!
「な……めるなぁぁぁぁぁっ!!」
失速した一瞬を捉え、一気に前に躍り出た。
「マ!?」
「おいおいおいおい! 空気読めやスペルマンーっ!!」
「キャーッ! 負けないでゆっきぃー!」
罵声と悲鳴が轟く。
なんとでも言え。俺は――
「俺は――勝ぁつッ!!」
――佐藤 雀次郎、7.8秒。 叡智 優姫、7.9秒。
「い……よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺は、勝利の咆哮をあげた。