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我、魔王スペルヴィアなり!!  作者: 黒っち
Phase 1.「目覚めし者たち」
10/41

010.「体力測定 その1」

 入学してひと月が過ぎ――全国の陰キャの忌むべきイベント、「体力測定」の実施時期がやってきた。


 普段から体育の時間に暴れまわっている体力自慢たちは、ここが自分たちの活躍の見せどころだと意気込んでいる。

 一方、チャラ男たちはそいつらと正面から戦うのはゴメンだとばかりに、しきりにダリー、軽く流してオケるか~とか「自分は本気じゃありませんよ」アピール。

 女子グループについては叡智さんを筆頭に、楽しいイベントの一つという感じでキャピキャピと盛り上がっていた。


 俺はまず、勇者に釘を刺しておくことにした。


「明日辺」

「……なんだ」

「わかっていると思うが、本気でやると目立ちすぎるぞ。抑えることだ」

「フン。いわれずとも」

「いーやわかってない。お前いつも体育の時間ヒドいぞ」

「……抑えているつもりだが」

「どこがだ。エグすぎてみんな引いてるぞ。我を見習え」

「キサマは悪い意味で目立っていると思うが」

「わ、我の力の制御はいわば1万単位。1か1万かどちらかだ。あいにく人間どもに合わせて5とか10とかそんな微妙な加減はできんのでな。あれ以上わずかでも気を緩めると、その場にいる者を消し飛ばしてしまいかねん」


 勇者の頬に冷や汗が流れる。


「……ならなぜ、さっさと俺を殺さない」

「ククク……なぜだと思う?」

「…………」


 本気で考えている。からかいがいのあるやつだ。とりあえず、緊張はここまでにしておいてやるか。


「ま、ホレ」

「……なんだ、コレは?」

「体力テストの評価点一覧表だ。握力なら45kg前後、50m走なら7秒前後。その辺を取るようにしておけば目立つことはない」

「なぜ、こんなモノを俺に渡す? 俺が目立つと、キサマが何か困るのか?」

「さぁ、どうだろうな。材料は渡した。どうするかはご自由に」


 ――そして、体力測定は開始した!


「1年C組、1番 明日辺 雅流!」

「はい」


 ググー、と、握力計測器具を握りこむ明日辺。数値はピッタリ、45kgを計測した。


「あれ、柔道の授業ではやたら強かったくせに、案外握力弱いなお前」

「そうか?」

「ふふふ見てろよ、俺の握力を」


 話しかけてきたのは野球部の小谷 稍平。中学ではちょっとすごい選手だったらしく、ここの野球部にも鳴り物入りでやってきた期待のルーキーだ。出席番号は4番で叡智さんの後ろ。いいところを見せようと鼻息を荒くしている。


「3番 叡智 優姫!」

「はいはーい!」


 彼女がふんぬと踏ん張り始めると、美少女の普段は絶対に見られない姿を見ようと、男子女子を問わず多数の野次馬が集まってきた。


「ファイト、ゆっきー!」

「ヒッヒッフー! ヒッヒッフー!」

「ああああああああああああーいっ!!」


 歓声や冷やかしの声が入り乱れる中、結果は――34kg。


「うおおおおおおお! すげぇぇぇぇぇぇ!!」


 ひと際大きな歓声が上がった。女子の30kg超えは、まぁまぁ強い。得意げにあちこちにピースを繰り返す叡智さん。何事にも一生懸命で、どこにいても何をやっても光り輝く子だ。


「さ、解散かいさーん」

「ちょー待てやお前ら! 真打登場はこっからだぜー!」


 小谷が吠える。


「4番 小谷 稍平!」

「うぉーす!」


 チラリと叡智さんの方を見て、パチンとウインクする小谷。それに気づくと、彼女も力こぶのポーズをとって応えた。


「え、叡智……♡ うおおおおお見てろよ、俺の愛の力をおおおおお!!」


 みよぉーんと針が上昇を続け、出た数値は――71kg!!


「ちょまwwwえっぐwww」

「すっごwwwww」

「はーはははははははは!」


 次々に寄ってきて二の腕にぶら下がる女子たちを持ち上げ、小谷は得意げに笑い続けていた。


 嫌な流れだ。さっさと終われ。早く解散しろ。

 俺の順番は9番目。まぁ、だいじょ――


「待てぇい!!」


 小谷のハーレム完成に待ったをかけたのは、出席番号8番――柔道部ルーキーの斎藤 常陸。体重100kgに迫るかという巨体を揺らしながら宣戦布告する。


「調子に乗るなよ小谷……1-C最強は――この俺!!」

「うおおおおお! こりゃアチィ勝負だぜ! お前らどっちに賭ける? 俺小谷!」

「じゃ俺斎藤」


 やんややんやと盛り上がってきた。

 結果は――66kg。

 軍配は小谷に上がった!


 さぁ問題はここからだ。なんと集まったやじ馬どもがまだ解散しない。さっさと散れヒマ人どもが!


「つづけーピヨじろ~♪」


 と、無慈悲な声援が飛ぶ。あぁぁやめてくれ叡智さん。アナタが旗を振るとあいつら全員……


「うぇーいイケイケピヨちゃーん!」

「小谷や斎藤に負けんな~ww」

「てかピヨちゃんって何ww」


 ぐにゃあ……と視界が歪んでくる。ばかな……ばかな、ばかな、ばかなっ!!

 どうしてこうなる……


「ふんぬっ……!」


 結果は――


 負ける……わけには……!

 そう……あの人だけには……負けるわけにはいかない……!!


 ――33.4kg。


「wwwwwwwww」


 陽キャたちの笑い転げる声が体育館に響き渡る。

 なんだよ端数って……せめて……せめて叡智さんには勝ちたかった……


 そんなこんなで、体育館内での体力測定がひととおり終了。上体起こしや反復横跳びなんかも、俺はもれなく平均以下。小谷たちが女子にチヤホヤされていい気になっている中、冬の時代を過ごすことになった――のだが。1つだけいいことがあった。


 それは――「毎種目、叡智さんが俺の点数を聞きに来てくれた」ということだ。

 彼女は忙しい。男女問わずあっちもこっちも常に話し話され続けているので、普通だったら1日にそんな何回も会話するチャンスはない。が、こと今回においては違った。


 ――といっても、それは「俺がすべての種目で彼女に点数が負けていたから」という悲しい理由のたまものなんだがな……喜んでいいやら、泣いていいやら。


 残りの種目は持久走、50m走、立ち幅跳び、ハンドボール投げ……何か……何か俺があの子に勝てそうなものはないか……?


 ――50mだ。


 50m走、俺なら8秒は切れるはず。女子が8秒を切るのはかなりしんどいはずだ。ましてや彼女は大きな重りを2つもつけてることだし……

 チラリと目をやる。あれもスタイルをよく見せる努力か、シャツを縛っておヘソを出しており、おかげでキュッとしまったウェストと豊かな胸部装甲が相乗効果で強調され眼福の極みであった。


「なにチラチラ見てんだテメェ……あァ?」


 目ざとくチャラ男どもが見つけて絡んでくる。

 溜まってる……ってやつかな? 昨今のアニメブームと運動部無双で出番がなく、相当フラストレーションが。


「ユッキーをエロい目で見てんじゃねーぞこのドーテー野郎が!」

「おめーよォ、ちょっとユッキーに絡んでもらってるからって調子コいてんじゃねーのあーん?」

「いや、別に僕はそんな……」

「勘違いすんなよモヤシ野郎。オメーはただの動物園のサルなんだよ。笑いを取ってんじゃなくてあざ笑われてるってことに気づけよバーカ」

「……あざ笑われてる……?」


 何が可笑しい。取り消せよ……今の言葉……!


「僕の成績が悪いことがそんなに面白いですか?」

「あ? なにメンチきってんだテメーコラ泣かすぞオォ?」

「僕は一生懸命やってます。手を抜いたフリして余裕ぶってる人たちにとやかく言われたくない。叡智さんのあの姿を見て恥ずかしいとは思わないんですか?」


 図星を突かれたらしい。チャラ男どもの顔がみるみる真っ赤になった。


「テメ、泣かす……!」


 と、そのとき。背後からチャラ男の肩がつかまれた。


「そいつに絡むのは……やめとけ……」


 勇者だ。


「なんだよ明日辺~マジんなんなってwwこんなのジョークじゃん……ッテテテテテッ!!」


 笑ってごまかそうとするクソダサムーブを見せるチャラ男だが、明日辺の手に力が篭る。


「ちょおまシャレならんてコレ! ホントに握力45かよっ!!」

「明日辺……離してやれ」


 俺が言うと、勇者はようやく手を離した。一目散に退散していくダサ男たちを見送って――


「あんな小物どもでも、同胞は大切かね?」


 肩をすくめてみせた。


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