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我、魔王スペルヴィアなり!!  作者: 黒っち
Phase 1.「目覚めし者たち」
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001.「魔王降臨」

 俺の名は佐藤 雀次郎。今日からピッチピチの高校生だ。

 中学時代は冴えない芋野郎だったけど、俺なりにバッチリ決めてきた。友達100人できるかな? 目指せ青春漫画の主人公!


 ――学校。


 張り出されていた座席表に従い皆が着席し、先生の到着を待つ。そうしている間にも緊張が高まりドキドキが収まらない。

 ふと隣を見ると、早くもグループが出来かけている。中心にいるのは金髪のド派手なギャル。周囲にはいかにもカースト上位といったチャラ男やギャルたちが群がっていた。


 いかん。出遅れている。先生ーーーっ! 早く来てくれーーーっ!!

 一刻も早く自己紹介をキメなければ、このままではグループが確定してしまう。


 と、やきもきしているとようやく扉が開いた。一斉に生徒たちの注目が前方に集まる。


 ……!?


 ペタシペタシとけだるそうな足取りでやってきたのは、どこの国の人間だと突っ込みたくなる長い銀髪を無造作に後ろに束ね、鼻にピアスという教師にあるまじきいでたちの長身の男だった。


「うーす、今日から君たちのクラスを受け持つ牛島 翔だ。よろしく」


 瞬間、キャーと黄色い声が上がる。女子たちの先生ナニ人? 何歳? どこ出身? 彼女いるの? バンドマン? てかLIZEやってる? と質問攻勢が始まった。

 が、先生は慣れたものという感じで興味なさげに教壇をペシペシ叩いていなす。


「はいはい、先生のことはいーから君たちの自己紹介を頼む」

「えーっ! つまんなーい!」

「先生のことも聞きたいしー!」


 食い下がる女子たち。先生はため息を一つつくと言った。


「わかったわかった。それじゃ君たちの自己紹介が面白かったらなんでも質問に答えよう」


 再びキャーと声が上がる。


「よーしみんな、気合入れて自己紹介しちゃいますかー!」


 音頭を取ったのは隣で先ほど会話の中心となっていた金髪ギャル。取り巻きのメンバーたちはピーピー口笛を吹きながら盛り上がった。


 …………さ……最悪の空気だ…………!!!!


 ヤバイヤバイヤバイヤバイ。どんどんハードルが上がっていく。

 鼓動が早まり続ける中、それは始まった。


「出席番号1番、明日辺 雅流です。よろしくお願いします」

「……以上? 他には?」

「いえ、とくには」

「……」


 一気に冷える教室。一番手がいきなりやらかしやがった。

 ……が。イケメン無罪か。次々にあちらこちらからフォローが入る。


「とくにはじゃねーよ明日辺くんー! 趣味とか特技はないのか何かー!」

「家はどの辺~? 休日は何しているの~?」


 明日辺はまったく感情の波を見せず、淡々と質問を処理していく。


「家は朝ヶ谷です。休日は勉強をしています」

「趣味はとくにありません。特技は雷魔法です」


 ここで一つ爆笑が起こった。


「雷魔法てwwwww」


 全然面白いことを言おうというつもりもなさそうなやつが、まんまと笑いを取りやがった。うらめしい。しかし一つわかったことがある。そうか。そういうネタはセーフか。


 2人目の自己紹介も無難に終わると、隣のギャルがたわわな胸を揺らしながら勢いよく席を立った。


「ハイハイハーイ! 出席番号3番、 叡智 優姫でーす♪ ヨロヨロ~♪ 叡智って名前だけどバカなんで~、みんな優しくしてね~♪」


 なるほど……叡智さんか……! 見た目と名前だけで得をしている。これは鉄板の挨拶ギャグだろう。案の定、教室からはこれだけで爆笑が巻き起こった。


 紹介を終え着席する叡智さん。周囲の生徒とハイタッチをし終えると、サッとこちらを向いた。


「けっこういい調子じゃね? キミも気合入れてこ~♪ お~♪」


 交わすハイタッチ。おっ母さん。人生で初めて触れた女の子の手は、とても柔らかくそして暖かかったとです……。


 ……と、感慨にふけっているうちに俺の番が来てしまった。


「……番。9番、佐藤~! いないのか~!?」

「……ハッ! ハヒッ!?」


 ドッと笑いが起こる。不意を突かれ、頭が真っ白になった。

 あれ……俺、何を言おうとしてたんだっけ……?


 そうだ。高校デビューするんだ。ファッションとかバンドとか流行りの動画のこととかいろいろ勉強してきたんだ。……なのに。


 ……全部とんじまった……。


 直立不動で固まったまま、何も言い出せないでいる俺。最初は笑っていた生徒たちも、だんだん冷えてくる。教室の空気がどんどん澱んできた。思考はとんでいるくせに空気だけは痛いほど伝わってきて、なおさら何も出なくなってくる。

 窮地に陥った俺は……俺は……


「フ……フハハハハハハハハ……!! ようやく気付いたか人間ども! 笑っている場合ではないということに!!」


「我こそは魔王――魔王、スペルヴィア! 闇の深淵より蘇りし死の先導者にしてこの世界の覇者となる者!!」


 ……


 …………


 ……………………


 お……


 終わった…………。


 ヒエッヒエの教室。誰もどう反応していいかわからずにいる。

 俺はただ一人机の上に片足を乗せ、大きく左手を前方に差し出したキメポーズのまま動けないでいた。し、死にたい……。


 そんな中、空気を打ち破ったのは先生だった。


「……お……おぉ……我が王! 我が主! あなただったのですね……!!」


 わなわなと感動に打ち震えるような様子で足元に駆け寄ってきてひれ伏す。


 ……え……えぇ……? いったい何が?

 俺がまだ混乱している中、一足先に冷え切った教室の空気が復活した。


「ブッ……」

「ドッワハハハハハハ!!」

「先生、ノリよすぎ~!!」

「やっべ~牛島っち超おもしれ~!!」


 何が何だかわからないが、こうして自己紹介タイムは大盛り上がりのまま終わった。


 ――休み時間。


 さっそくクラスの上位層の連中がからかい半分でからんでくる。大半は女子の前で陰キャをこき下ろすことで相対的に自分を大きく見せつつ、笑いを取ろうというくだらない野郎どもだ。が、そんな連中は早々に口を開けなくなった。

 なぜなら、上位層の中でも最も筆頭である叡智さんがかなり俺に食いついてきたからだ。


「おい佐藤――いや、スペルマーだっけww なにあれww」

「お前そういうのは中学で卒業しとけよww ここ高校だぞww」

「あ……う……」

「はいはいはいはいどいたどいた! ねぇねぇ佐藤くん――さとう……すずめじろ?」

「あ……こじろうって読みます……」

「こじろーね! ねね、魔王って何? スペル――ビア? って何? 闇のなんとか――って何のこと?」


 ありがとう、叡智さん……優しい……めっちゃ優しい……。でも頼む、今は放っておいてくれ……


 叡智さんの質問攻めにあいながらドギマギしていると、前の席から無遠慮に明日辺がやってきた。今度は何なんだ……?


「佐藤くん、ちょっといいかな」

「……? あ、叡智さん、なんかちょっと、ゴメン、またあとで……」


 促されるまま立ち上がり教室を後にする。


「はぁ……明日辺くんだっけ……あ、ありがとう助かったよ……」


 廊下を歩きながら声をかけるが、反応はない。


「……?」


 無言で突き進む明日辺。校舎裏までたどり着くと、ようやく向き直ってきた。


「えと……明日辺くん……何……?」

「ようやく見つけたぞ……魔王スペルヴィア」

「え?」

「この世界の支配を目論んでいるようだがそうはさせん。キサマには、ここで死んでもらう」

「…………」


「えぇぇぇえええええええ!!??」


 驚天動地。お前は何を言ってるんだ。


「ち、ちょっ、ちょっ、え? 何? どうして?」

「油断したな、魔王よ。まさかあんな場所で自ら名乗りを上げるとは――だがこの勇者アシェルの目の黒いうちはキサマの好きにはさせん!!」


 ゆ……勇者……!? いよいよもって話が飛躍してきた。


「いでよ神剣デヴァイングラム!」


 明日辺が天高く手を掲げると、何もない空中が光り輝き長身の剣が出現する。

 マジ? マジの話なの? 俺、ここで殺されるの……!?


 逃げ――ダメだ、間に合わない。


 逃げようと思った瞬間には、もう勇者の剣閃は目の前に迫っていた。身動きする暇すらない。終わった――


「アポストルランサー!!」


 刹那。何かが屋上から舞い降りてくるのと、地中から噴出してくるのは同時だった。

 噴出してきた巨大な槍は勇者の腕ごと神剣を吹き飛ばし、舞い降りてきたそれは鋭い爪で彼の体を八つ裂きに――したかに思えたが勇者の動きが一瞬速い。飛びずさった彼は吹き飛んだ右腕を左手でキャッチしふたたび構えなおした。


「……誰だ……貴様は……!」


 牛島だ。

 この状況――何が正解だ……? 一瞬の逡巡。すぐさま、俺は魔王の顔になった。


「遅い!」

「ハッ……大変申し訳ありません。魔王様。しかし勇者の一撃を前にして微動だにされぬその胆力。私が必ず来るというその厚きご信頼。敬服幸甚の極みでございます……!」


「誰だと聞いている!!」


 再び突撃してくる勇者。牛島の束ねた髪がパチンとほどけると、夜叉のような凄まじき形相に変貌していく。

 いびつに変形した左手をおもむろに薙ぎ払うと、勇者は軽々と吹き飛ばされた。


「久しいな、勇者よ。我が名はグガランナ。死の覇王たる御方の右腕にして地獄の宰相が一人。あぁ、まるでキサマに殺された古傷がうずくようだ……ここで会ったが百年目。散っていったわが同胞たちのため、そして私自身の誇りのため。キサマにはここで死んでもらうぞ!!」


 …………なるほど。完璧に理解した。


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