【短編】無能皇子にキメラ放ってみた。
「キララ・ティルサル、君に婚約破棄を願いたい・・・!」
王宮の内側、陛下のいる前で私は王子に告げられた。周りの貴族が沈黙の中見守る。
「どうしてですか、殿下?いままで仲良くやってきたでしょうに?」
「いや、そうなんだが・・・
君の力はこの私の婚約者として相応しくない・・・。」
「へえ、殿下でもあろうお方が何をおっしゃるかと思ったら、
私の魔獣創造の力が怖いと・・・!」
「そ、そうではなく、そもそも、王国にふさわしくないのだ・・・。」
私の持つ力は魔獣創造。その名の通り魔物や魔獣を作りだすことができるのだ。この力は理解されないだけで様々な利点があるのだが・・・
「馬鹿馬鹿しい。この力があればこの国だって守れるのですよ?」
―――そう、その通りだと王子ラティス・ゴンゴールは考えた。魔獣創造の力は他の国を圧倒し、この国を強国に変えることのできる力だ。
・・・しかし、それでは婚約者としての僕の立場がなくなるではないか!自分より実力が高い妻など王子である私には邪魔でしかないのだ!僕は生まれながらにしてこの国の頂点なのだっ!僕より強いやつなんてこの国にはいらないっ!
「そ、それにっ!君の力は邪悪だ!」
「では、私をこの国からでも追放しますか?」
「そ、そうだ!お前を追放するっ!」
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「はあ、まさか本当に追放するなんて・・・。」
今私は王国を一週間後に追放されることに決まり、屋敷に戻ったところだった。
王子に私の重要性を伝えるための売り言葉だった訳だが、王子はそれも理解できないらしい。自分はどうして今まで婚約者として過ごしていられたかと疑問になる。
「でも、このまま追放されるだけじゃつまらないし・・・。」
私の研究していた魔獣創造は従来の生き物に魔力を加えてより強くするというだけなのに、どうしてこんなに嫌悪されるのだろうか?見た目も角が生えるとかのレベルなのに・・・。
それに公表していた魔獣もだいぶ抑えていた方だ。できるだけ害のない魔獣だけを公表し、安心してもらっていたつもりだったのだが・・・。
「キララ様、国外への旅の準備はいかがいたしましょう?」
「スレイブ、あなたは最後まで私の味方なのね。」
スレイブは私の作った喋れるオオカミだ。家の留守番やさりげなく私の護衛を任せている。きっと王子なんかよりも頭がいいだろう。
「もちろんですとも。このスレイブは永遠にキララ様と共にします。」
皆がスレイブのようであれば、とキララは思う。どうして人は理解できないものを認めようとしないのか?どうしてこんなに愚かなのだろうか?ん・・・待てよ。
「まだ、準備は待ってて。今面白いこと思いついたから・・・。」
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「今日がキララを追放する日であったな。どうだ?あいつはどのような様子だ?」
「はい、昨日まで屋敷に引きこもっていたとのことです。この国から離れたくないのでしょう。」
「ふははは!そうかそうか!
あいつが落ち込むなんてなぁ!きっと今では俺との別れにさぞ悲しんでいるのだろうなあ!」
「そうでしょうね。キララ様は大変ラティス王子を想っていましたから・・・。
そうでした、今日そのキララ様から手紙が届いておりまして。」
「なんだなんだ?最後の一言くらい聞いてやろうではないか。」
「えーっと何々、
『この王宮並びにこの王国の様々な場所に魔獣を放った・・・。
最後の紅茶でも楽しんどけ』・・・!?」
「う、嘘だろ?こいつがたった一週間でそんなことできるはずがないではないかっ!
念のためすぐに騎士団に調べさせろ!」
王子ラティスがそう言い放った時、壁が崩れ、中から月光熊が飛び出してきたのだ!
「な、なんでこんなところに月光熊がいるんだ!?おい!誰か助けろ・・・・」
皇子はすでに魔力によって大型化した月光熊に食われていた・・・。
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「ふふ、人間がダメなら、全部魔獣にしてしまえば良かったなんて・・・!
なぜ今まで気が付かなかったのでしょう・・・!」
少女は恍惚とした表情で魔獣によって滅んでいく王都を眺めていたのであった。
このキララ・ティルサルが魔王ティルサルとして呼ばれるようになったのは数年後のことである。
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