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ブレーメンの聖剣 第1章 胎動<上>  作者: マグネシウム・リン


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物語tips:旧居住塔

高さ1町(約500m)の円筒形の住居。オーランド郊外に3本建っている。モノコック構造で構造材はマントルから汲み出した永久構造体なため壊れない。内部は筒状で中央は回廊で繋がれている。数万人が居住可能なように作られている。現在は廃墟/スラム化しており実際の居住人数は不明。

塔の中央部には支柱のない昇降機が備えられている。後年に増設されたエレベーターも故障している箇所が多く、実際に人が住んでいるのは地上から100mまでのエリア。それより上の階は幽霊が出現すると噂されている。人の住まない上層階は分離主義者の拠点、マフィアの違法な物品の製造工場があったりする。治安が悪いため軍警察も中ではなく出入りする物や人を監視するだけ。

これは人類が惑星に入植した当時に建築された。遺伝子プールからのクローン製造や地球環境の適合実験などが数世代にわたり行われた。今ではスラムと化している。上層階に現れる幽霊とは1000年前から駆動している保全ドローンやAIの映像のこと。

 左脇に小柄なネネが直立不動で立っていた。その右隣に背中の大きな巨漢がいた。宰相デラク・オハン。元第1師団 師団長で実質的に連邦(コモンウェルス)の頂点に立つ男。その体躯と威圧感はまさに肩書通りだった。

 ニケは慣れない新品の軍の礼装に袖を通していた。前線勤務ばかりで作るのを疎かにしていたが、近衛兵から直々に下賜された。つまりはリンを連れて(おう)に会いに来いという意味でもあった。

「で、あの後、近衛兵はどうなったんだ?」

 ニケは手持ち無沙汰のついでにネネに訊いてみた。

「先日の事件で、内通者については調査中ですの。(おう)のお忍びの外出を知っていたのは軍団幹部と貴族院のほんの数名。もちろんこの宰相も含めてですわ」

 ぎらり、と宰相の目が光る。しかし実力と経歴が100倍もある、そして齢500歳の侍従長に反論はないようだった。

「俺が知りたいのはお偉方のごたごたじゃない。亡くなった近衛兵たちだ。結局、遊園地の警護にいた全員が殺されていただろう」

「遺族には軍団からの弔辞と遺族年金が払われますの。事情が事情だけに真相の全てを伝えるわけにはいきませが。まったく、あなたという人は。少しは自分の心配をしたらどうですの? 全身100針以上も縫ったのでしょう」

「ヒト基準なら大怪我だろうが、こんなものすぐ治るさ。あと10日もすれば全快だよ」

 たしかに、銃で打たれた傷とキーウェイにえぐられた傷とガンマに殴られた内臓の損傷は致命的だった。医者に言わせれば、ヒトならもう3回死んでいたらしい。動くと節々がずきずきと痛いが、この程度の怪我で騒ぐようなら、ブレーメンの里では笑われてしまう。

「まったく、豪胆ですわね。(おう)が入れ込むのも無理ないですわ」

「それに医療費も軍が持ってくれるんだろ」

 宰相と一瞬だけ目が合った。

「ほんと、まったく」

 ネネは以前会ったときよりもしおらしかった。その隣の宰相も会ったときから一言も発しない。彼なりの自尊心の現れかとも思ったが、煮え湯を飲まされているような表情を見る限り、(おう)と知らぬやり取りがあったようだった。

 3人の正面の扉がゆっくりと開いた。その向こう側では礼服に身を包んだリンが、瀟洒なドレスのキエと仲睦まじく、別れの挨拶(ハグ)をしていた。ふたりの横顔は、オリジナルとコピーというよりよく似た姉妹だった。姉妹の再会を惜しむように、ふたりは別れた。

 リンは宰相と案内役の近衛兵に連れられて(おう)の謁見室を後にした。すれ違いざま、ニケにウィンクを投げかけた。

 ニケは神妙な面持ちのネネに連れられる形で謁見室に入った。背後で重い木の扉が閉められた。

「我が君、ご機嫌(うるわ)しゅう」

 暗記した挨拶を述べたが、キエに止められた。

「よ、よしてください。わたくしとあなたの間柄じゃないですか」

 キエは、本来ならその背後にある壇上の椅子に座るのだろうが、その素振りは見せなかった。遊園地での馴れ馴れしい態度はなく、落ち着きそれでいて表情は沈んでいた。

「まずは、先日のお礼と謝罪を。わたくしのせいで大変な騒ぎになっていまいました」

 キエは深々と頭を下げた。

「よせよ。(おう)こそ、そんなふうにするもんじゃない」

「じゃあ、あなたの友人として。ほんどうにごめんなさい」

「外を見たいという気持ちは、わかる。俺だって一生この狭い空間で過ごせと言われたら無理にでも抜け出したくなる。だが、それでももう二度と安易に外を出歩くのはやめてくれ。オーランドは俺が思っている以上に危険なところろだ」

「はい。そのとおりです」

「でもまあ、平和になったらどこかに出かけよう」

「本当ですか! でしたらあたくし、ショッピングモールに行きたいのです」

「ああ、行こう。もう変装なんかせずにリンとシィナもいっしょに」

 しかしネネがニケの横っ腹をつついた。わけも分からずネネに視線を向けたが、ぷいっとそっぽを向かれた。

「キエ、もう次にいつ会えるかわからないから聞いておきたいことがある」

「はい」

「居住塔での戦いでガンマと名乗る男に遭遇した。自在にテウヘルの姿に変身できる上に傷の治りも速い。若い見た目の割に手広く暗躍しているあたり、歳だって取らないのかもしれない。それとアレンブルグだ。無法図な戦術が取られて、一部の強化兵が脱走しているようだ。それと南部軍閥の権威主義と……すまない、いろいろなことが気になっているんだ。軍人としてあまり知りすぎるのは良くないとわかってるんだが」

「わたくしは、すべてを知っているわけではありません。(おう)とは古典的社会構造の構築のための機関にすぎませんから。(まつりごと)は宰相と貴族院が担っています」

「だが民衆は(おう)こそが連邦(コモンウェルス)の唯一の主権者で統合の象徴だ、と」

 学校でヒトの教師が言っていた文言の受け売りだった。

「それは勘違いです。(おう)とはあくまで、人類の種族的アイデンティティーを遠く後世に伝えるための装置でしかありません」

 初めて聞く言葉だった。

「つまり、ヒトの(おう)として振る舞っていたが、本当は皇じゃない、ということか」

 しかしキエは頭を横に振った。

「やはり、あなたにはすべてをお話ししたいのです。そのうえで判断してください。ガンマが話した事は、実は一理あります。すべてが妄言(もうげん)というわけではないのです。泥沼に陥っている我々人類を救うか見捨てるか、すべてを聞いた上で判断していただきたいのです」

 キエが謁見室のカーテンを開くと、金属質な扉があった。要塞の砲撃陣地(バンカー)で見かけるような重い防爆ドアだった。キエがその扉に触れると音もなくするすると扉が上昇し、細いトンネルとベルトコンベア状の通路が現れた。

 キエが先立ち、ニケの後ろにはネネが続いた。トンネル通路は緩やかに下降していく。

「ニケさん。わたくしの(いみな)をご存知ですか」

「あっ、何だったか。すまない。ヒトの教師が言っていたのは覚えているんだが」

「構いません。それが平均的なブレーメンですから」

 するとキエは瀟洒なドレスの脇のジッパーを下ろした。地下へ向かう動く通路の上でバサリとドレスを脱ぎ捨てると、胸の下着をさらにずり下げて胸元をあらわにした。

 胸元には大きな赤い宝石があった。

「わたくしの諱は赤月(せきげつ)の印。これが赤月(せきげつ)です」

「ただのブローチだろう。それが(おう)の象徴、ということか。わざわざ見せるために脱いだのか」

「脱がなければ見せられないのです。よく見てください。これはブローチなんかじゃありません」

 赤い大きな宝石は肌に張り付いていた。

「くっついている? というか皮膚のこの感じ。内側から生えている?」

「これは惑星の静止軌道にとどまっている量子記憶(・・)装置とわたくしの記憶とを相関関係(エンタングルメント)につなぐ媒体であり、歴代の(おう)の記憶を保存し数十万年にも続く人類の文明、アイデンティティーを保存しています。わたくしは体が成熟したら自身のクローンを出産し、新たな皇を育てます。わたくしの遺伝子調査、リンが生まれるきっかけになったのは、先代の皇が想定よりも早く亡くなり、遺伝子の欠損があるかもしれなかったからです」

「は、はぁ……」

 ニケは一度にたくさんの言葉が並べられ、理解に時間がかかった。

 キエは脱ぎ捨てたドレスを再び着た。そうこうしているうちにトンネルはガラス張りに切り替わった。方角的には王宮の中心へ向かっているはずだったが、そこは鍾乳洞を思わせるような巨大な空間だった。その空間の中央に円筒形の巨大なロケットがあった。噴出弾(ロケット弾)は軍でも使っている。効果は薄いが安全な兵器だ。しかしそのロケット弾よりも数百倍も巨大な建造物だった。

「これは一体……?」

「成層圏プラットフォームまで人と物資を運ぶための脱出艇です。そこから大気圏を滑空する軌道船(オービター)に乗り換えてこの惑星(ほし)の重力圏を脱します」

「俺の分かる言葉で言うと?」

「1000年前、この惑星(ほし)に我々人類が入植した際、もし入植に失敗したらこの脱出艇に乗り込み第2の候補地へ向かうはずだった、ということです。入植が成功したら既存の知識と機材をこの脱出艇に載せ打ち上げ、旧文明を破棄します」

「いや、わからない。ヒトにはすごい技術がある、ということか」

 キエは寂しそうに微笑んだ。

「すみません。なかなか他人に説明することではありませんの。宰相でさえ知らせていません。まあ彼のことですからうっすらと察している雰囲気はありますが。ガンマが知りたがっている真実とはこれのことです。旧文明の破棄は、本来なら入植と文明の萌芽(ほうが)の時点で行うべきでした。しかし戦争の発生で幾度となく延期され1000年が経とうとしてます。まあ、これも記録ではなく代々の皇の記憶(・・)ですからどこまで正確かはわかりませんけどね」

 キエはニコリと自嘲気味に笑った。

「つまり、ヒトは───」

「───人類はかつてこの惑星(ほし)にやってきた外星人で(わらわ)たちブレーメンがこの惑星(ほし)の先住民だった、ということですの」詰まってた言葉をネネが変わりに話してくれた。「旧文明の人類は、回帰(かいき)といって、入植後に記録も技術も破棄する風潮がありましたの。(わらわ)たちブレーメンも文字をもたず過去という概念がないため歴史を記録しません。故に、そうした入植やそれに伴う闘いの歴史もまた、時間という闇に葬られたのです」

「だが、疑問が残る。どうしてわざわざ手に入れた技術を捨てるんだ。ブレーメンの里からヒトの社会に出てわかったが、技術は便利だ。夜も明るく車があれば遠くまで速く移動できる。炭に火を熾さなくても煮炊きができる」

「はるか、昔の出来事です」キエは遠くを見つめた。ベルトコンベアの通路は終わり、ロケットへ伸びる通路までやってきた。「宇宙の最果ての星で人類の祖先が生まれました。しかしやがて文明は緩やかん衰退を迎え、それに気づいた人類はいくつものグループに分かれ文明の延命を図りました。それはもうさまざまな方法があったそうです。わたくしたちの祖先のグループは、文明の回帰(かいき)に希望を委ねました。新たな星に入植し、既存の知識を捨て、ゼロから文明を再構築すれば種族の延命を図れるとしたのです。いわゆる文明の回帰(リセット)です。そうすることで数十万年の種族の延命が可能となりました」

「それが延命に当たるのか?」

「たしかに。新たな惑星環境に適合するために遺伝子も大きく書き換え言葉も価値観(バリューオブライフ)も大きく変わるでしょう。しかし文明がある程度醸成(じょうせい)したのち、わたくしが───どこかの代のクローン(わたくし)が人類の出自を開陳します。そのための量子記憶(・・)装置なのです。数十万年分の記録(・・)は膨大でとても保存できませんし言語が変わればその意味を理解できなくなります。しかし記憶ならば、どの時代からでもアクセスできます。わたくしは過去全ての皇の記憶にアクセスできます。それはまるでいつか見た夢を思い出すかのような作業ですが」

 ごくり、と生唾を飲んで考えを整理した。

「それが連邦(コモンウェルス)の隠してきた真実、なのか」

連邦(コモンウェルス)。その言葉の意味がわかりますか」

「ああ。ヒトの社会のことだ。テウヘルはそれに敵対している」

 しかしキエは頭を振った。

「テウヘルもまた、連邦(コモンウェルス)の一部だと認識しています。遠い遠い過去において、我々人類が離散民(ディアスポラ)になるとき、皆で誓いあったそうです。銀河の各地への人類の播種(はしゅ)、それにより銀河連邦(コモンウェルス)を構築し、まだ見ぬ外銀河へ旅立とう、と」

「うまくいったのか?」

「いいえ。どうやら各々の星で時間の流れが異なりコミュニケーションが難しかったそうです。次第に連絡は途絶えがちとなり、そしてわたくしたちの祖先も入植を繰り返すうちに恒星間通信の技術も意義も忘れてしまいました。その名残が連邦(コモンウェルス)という名前なのです。本来なら文明の萌芽とともに原始的集団が形成され、(ネーション)を築くべきだったのですが、かないませんでした」

 ぞっとする感覚があった。

「じゃあ、“かないませんでした”というのは」

 しかしキエは鼻声になりながら自嘲気味に笑った。

「この惑星(ほし)への入植は今から約1000年前。それは4度目の文明の回帰(リセット)、入植だったそうです。先住民、あなたがたブレーメンはわたくしたち人類を暖かく迎え入れてくれた、と記憶があります。それどころかブレーメンを完璧な種族だ、と記録(・・)しました。傷はたちどころに癒え、疾病という概念すら無い。人類の言語をたちどころに理解する高度な思考能力、人類を凌駕する身体機能なのです。当時の人類はブレーメンを、遺伝子操作したものの退廃してしまった文明なのではないか、と疑ったくらいです。しかし人類は罪を犯してしまいました。それは、おそらくネネのほうがよくよく知っているでしょう。その光景を見たのですから」

「恐れながら、我が君」ネネはいつになく慇懃だった。「500年ほど前。人類は居住塔から出て多く大地に住まいを構えた頃ですの。すでに地球に飛来し10世代を超え、ブレーメンよりはるかに高い繁殖能力で人口を増やしました。当初はブレーメンも土地を分け与え、聖域を掘り返し鉱物を採取するのを黙認しました。それら人類の態度は次第に傲慢となりブレーメンを排除しよう、と試みたのです。人類はすでに大半の過去の知識を喪失していました。あるいは回帰の名の下に喪失したがっていましたの。だから戦争の一切を人造生命体に任せた。それがテウヘルなのです。武器の設計製造から戦闘にいたるまで、その全てをです。妾も獅子奮迅、戦いましたが次第にブレーメンは大陸の南の端まで追い詰められ、戦闘は終了しました。今いるブレーメンは人類に従順を誓った部族の末裔ですの」

「じゃあどうしてネネは人類に味方するんだ?」

「えへん。戦争はそれで終わらなかったのです。テウヘルは人類に反旗を翻しました。かつての人類の技術と知識を受け継いだのがテウヘルです。坊やも戦場で見たでしょう。空中要塞に多脚戦車。いずれも(ふる)い文明の名残ですの。500年前、妾はブレーメンのために戦っていた。しかしながら見ていられなかったのです。ごく普通の人類の子たちが抵抗もできないままテウヘルにすり潰されていく。だから妾は人類の側に立ったのです。当時の皇に忠誠を誓い、また彼女の意志を信じともに戦う覚悟をしたのです」

「どうりで、裏切りのマ女と謂われるわけだ」

「その言葉も今となっては妾の誇りですの」

 ブレーメンは思考力ではヒトに勝るが興味のないことへは一切頭が働かない。シィナは勉強できないしトラは戦い以外に興味がない。そして大多数のブレーメンは過去に興味を示さない。“由来”や“原因”や“出自”という概念に疎い。それゆえに辛酸たる史実をだれも覚えていなかった。500年なんてブレーメンの寿命で言えばほんの4世代だ。たったそれだけなのに全て忘れられてしまった。

 するとニケの手に冷たく重いものが押し付けられた。ニケは自分の手に収まった近衛兵仕様の拳銃と、続いてキエを見た。

「何の真似だ?」

「あなたの判断に任せます。大罪を犯した人類を許せないというのなら、わたくしにその引き金を引いてください。この惑星(ほし)への入植はとうに失敗しています。本来、全ての旧文明の知識を捨てねばならないのに、ブレーメンに対抗するため、テウヘルに対抗するためとまだまだ受け継がれています。強化兵の製造法、アレンブルグの地下研究所で行われている実験や過去の知識の電子採掘(サルベージ)。いっぽうで民草はその日の生活にあえいでいます。旧文明では誰一人飢えず寿命すら克服していたのに。こんなちぐはぐだらけの文明は間違えています。銀河中に災禍をふりまく人類は滅びるべきです」

 ニケはネネの方に振り返ったが(こうべ)を垂れたままだった。

「御心のままに」

 もう一度、ニケは手の中の拳銃に視線を向け、そしてキエを見た。大きな瞳いっぱいに涙を浮かべている。ここには他に邪魔するものはいない。ネネでさえことの運びを成るがままに任せている。

 かちり。拳銃で金属同士がぶつかった。そしてニケはキエをまっすぐに見たまま拳銃をバラバラに分解してしまった。金属ともコンクリートとも判別できない床に細々とした部品が散らばり、弾倉に込められた弾丸も一発ずつ床に転がった。

「馬鹿言うんじゃない。俺が命がけで助けてやったのに死のうとするんじゃない。しかも俺の手で、だ。馬鹿じゃないのか」

 キエは縮こまった。そして一筋の涙が流れた。

 ニケは一歩踏み出してガラスの壁に触れた。その向こうには巨大なロケットが鎮座している。

「これは、まだ動くのか?」

「わかりません。操作方法もその扉の開け方すらも記憶にないからです」

「そうじゃない。このロケットはたしかに大きいがそう多くのヒトを乗せて飛べるようには見えない。途中まで? だったか。それでもせいぜい100人程度でそれが3基だけだ」

「それは、脱出するのがわたくし───と同じ遺伝子のクローンと少数の選ばれたエンジニア、機材、そして数百万人分の遺伝子プール、つまり受精卵やDNAサンプルのみです」

「そうか。これを使っても全員は乗れないのか」逡巡。「キエはどうありたいんだ?」

「どう、といいますと?」

「これからどうしたい?」

「わたくしは、このいびつな文明を修正したいのです。にっちもさっちもいかなくなった戦争、ごく一部の人間にのみ富が集中する権威主義、そして願わくば、過去数十万年と未来数十万年 全ての皇に誇れるような人類文明をブレーメンと一緒に築きたいのです」

「俺は、キエ、あんたを信じるよ」

「本当ですか?」

「俺は、文明だとか政治だとか、そういう大げさなことはよくわからない。でもキエを信じるべきだとは思うしキエが嘘を言っていないのもわかる。そしてこの現状を変えてくれるのなら、キエに賭けようと思っている。ブレーメンは賭けが好きだからな。だろ、ネネ?」

「妾が人類を選んだのは賭けなんかではないぞ」

「ふっ、そうだろうな。俺がキエにできることは、皇の剣として戦い皇の盾としてヒトを守ることだ。その先にキエの理想があるなら、俺は共に戦う」

「わ、わ、わ、わたくしと一緒にいてくれるのですか!」

「ああ。お前が思うままに」

 しかしキエはニケに駆け寄ろうとしたがネネにがっしりと掴まれた。

「恐れながら我が君、この若造は、その(・・)意味ではなく文字通りの意味で言ったのだと思われます」

「だめ……なのですか」

 キエに潤んだ瞳を向けられた。

「何が?」

 この皇はまだまだ手がかかりそうだった。

挿絵(By みてみん)

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