表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレーメンの聖剣 第1章 胎動<上>  作者: マグネシウム・リン
19/22

17

物語tips:銃

三三式:制式ライフル。プルバップ式で全長はやや短い。歩兵部隊に広く普及している。プレス加工を多用し、規格化された部品で製造コストが格段に下がっている。扱いやすく故障も少ないが貫通力に欠けテウヘルのバイタルポイントを狙わない限り殺傷力は低い。.218公採弾。装弾数30+1。首都勤務の軍警察も採用している。公営ローランド工廠製


三一式:旧式バトルライフル。金属弾倉、小口径高速弾、フルオート射撃との切り替えが可能など初の歩兵用の自動小銃。閉所・近距離での戦闘を念頭に開発された。威力は高いものの、重量が大きく、コストも大きい。部品点数の多さから荒野で野営する兵士には好まれなかったため後の三三式開発につながる。在庫は十分にあるため、対人戦闘ではまだ需要がある。警備任務等で投入されている。.218公採弾。装弾数30+1


短機関銃:設計思想を三一式から受け継ぎつつ拳銃弾を使用した対人兵器。軍警察の武装小隊が主に使用する。民間用でもフルオート射撃を配したモデルが出回っている。軍や製造工場からの横流しでギャングなどにも流出している。テウヘルには効果がない。


八二式:旧式ライフル。木製ストック、ボルトアクションの全長が長いライフル。6発クリップ。やや特殊な口径の弾薬を使用する。命中精度が高く威力もある。コストが安いが機関銃を装備して突撃してくるテウヘルに対してはやや力不足。現在は偵察小隊や狙撃小隊などが使うが大半は退役済みで、予備役の軍人の訓練に使われるあるいは儀仗用に少数が運用されている。リンが付けたあだ名は“小枝ちゃん” 0.300サカイ弾


アモイ98:35口径。骨董品の拳銃。威力信頼性ともに十分だが既に2世代前の制式拳銃。民間用としてやや普及し護身用や犯罪に使われる。一部は彩色が施され記念品として退役軍人に支給されることもある。初期のモデルは職人が手作りしていたため部品に互換性がなかった。シィナからニケに贈られた拳銃で、ニケのサイドアームでもある。


ボア25:短銃身、長銃身モデルと存在する。45口径の回転式拳銃。民生用の護身用武器。口径が大きくストッピングパワーに優れる。ダブルアクションの回転銃で扱いにはやや力が必要。テウヘルに対しては傷をおわせる程度だが、緊急時に備えるに越したことはない。リンの初任給で買ったサイドアーム。

 挿絵(By みてみん)

がたん。

 隣で痛そうな鈍い音が聞こえた。

「ちょっと、あんた。まっすぐ運転しなよ」

「だったらあたしとハンドルを交代する?」

「嫌よ。こんなキカイ、誰が運転するってのよ」

「でも、シィナちゃんが自分の足で走るより速いでしょ。それにニケの居場所を知ってるのはあたしなんだから」

 リンはぎゅっとハンドルをまっすぐに保持した。そしてアクセルを踏み込む。エンジンの過給器の風切り音がウンウンと唸る。軍用四輪駆動車のナンバープレートは近衛兵所属のもので天井には赤色灯も光っている。道行く車は黙って先を譲るし、暴走運転も警察は黙認してくれた。

「くぅそ、いらいらする」

 シィナが歯ぎしりした。助手席から後部座席と荷台に至るまで斜めに大太刀を渡して器用に携えている。その膝の上にはニケの2振りの刀もあった。

 リンはキエは普段着る瀟洒(しょうしゃ)なドレス姿だった。その股の間には近衛兵から借りてきた三三式ライフルがあり膝の上には予備の弾薬を収めた弾帯もあった。

「それって、ニケに対して? それとも自分自身?」

「ヒィヤ。いちいちうっさいわね。そのアホ毛を引き抜くわよ」

 口が悪い上にうるさい。それでも重要そうな戦力だからわざわざ家に寄り道して呼び出した。ニケの刀も死ぬほど重かったけど抱えて持ってきた。

「ネネ、今3桁区に入った。そっちの状況は?」

『了解。そちらの位置はモニターしてます。(おう)は確保できたけれどニケの居場所が曖昧ですの。囚われているのはおそらく旧居住塔の上層階でしょう』

 車両のコンソールボックスに埋め込まれた通信機からネネの声が響く。

「敵の数は? 分離主義者は何人くらいいるの?」

『わかりませんの。大きく見積もって1個中隊でしょう。地元のギャングかもしれません……次の交差点を左折してください。渋滞を回避できます。その後16秒後に右折、狭いですが裏路地を進みます』

 どういう技術かさっぱりわからないけれど、キエは正確にこちらの位置を見ていた。

「ふん、そんなの全員斬っていけばいいじゃない。ヒトの法でも悪人なんでしょ」

「だめだよ。自治っていって警察がいない地域はそうやって荒れくれギャングから守るギャング達がいるんだから」

「めんどくさ。これだからヒトってやつは」

「嫌いなの?」

「普通。でもニケがヒトを守ろうっていうんだから、私も守ってやるわよ」

 心強い。隣に座るギャング顔負けの口調と入れ墨だらけの肌の少女。

 バラックに覆われた違法建築群を抜け、巨大な黒い円筒形の塔までやってこれた。もともとはロータリーだったらしいが、劣化したアスファルトは細かい(つぶて)に変わり塔の周りもバラックの商店が並んでいた。

『監視カメラの情報から、1号棟の70階付近にニケがいると思われます』

「1号ってどこに書いてあるの?」

『北側の背の低いほうですの。中にはいったら昇降装置を遠隔作動させます。それで上層階へ向かってくださいまし』

 リンは車を停め、ライフルを持ち、弾帯をドレスに巻き付けた。

 武装ギャングがわらわらと集まってきたがシィナの大太刀を見つけるとそそくさと道を開けた。たぶん分離主義者たちじゃない。

「って、どこよ? そのショーコーソーチってのは」

 シィナが大太刀の柄に手を置いたままブンブンと当たりを見渡す。そのたびに長いツインテールがぶんぶんと揺れた。

「その長い髪、邪魔じゃないの?」

「ふん、鈍いヒトの基準でいわないで。ニケはこの髪型が好きだって言ってくれたんだから」

「あたしだって! あたしだって、ニケは優しくしてくれるもん」

 リンは、若草色のシィナの瞳を睨み返した。無駄に背が高いせいで首が痛い。

 するとその時、筒状の居住塔の中央部分がせり上がってきた。上層階から投げ捨てられたゴミが溜まっている所で、換金ゴミを漁っていたスラムの住人が慌てて飛び退いた。

「行こっ! きっとあれが昇降装置」

 丸い部屋に低い欄干が備わっている。そして上にも下にも、支えとなる支柱やワイヤーは見当たらなかった。それ自体が浮遊している。

 リンとシィナが飛び乗るとふわりと真上へ浮かび上がった。

 シィナは呑気に遠ざかる地面を眺めていたが、リンはライフルに弾倉を叩き込んでコックを前後させて装填した。ふだん使い慣れている狙撃用のライフルじゃない、大量生産されたライフルのうちのひとつだったが、今はあまり贅沢は言えない。弾さえ出ればそれでいい。負革を背中に当てて左手でぐるっと一周させる。

 宙に浮くエレベーターは居住塔の空中回廊の横をスレスレで通過していく。エレベーターの内部にも光るボタンがいくつかあり、知らない言語の数字らしい言葉が横に書いてある。

「あとどのくらいなの?」

「天井部分と地上部分の……今は半分くらいかな」

 しかしエレベーターは上昇速度がゆるやかになり、そして止まった。目的地に着いたかとも思ったが乗り降り用の空中回廊までまだ距離がある。

「あっ、ゆっくりと下がってる。もしかして」

「飛ぶよ、リン!」

「無理無理、あんな距離」

「じゃあじっとしてて」

 シィナはリンを小脇に抱えると、欄干に足を置き蹴った。ふわりと空中に躍り出て、その背後では動力を失った昇降機が真っ逆さまに地面へと落下した。

 着地。リンを抱えていてもシィナの挙動は軽かった。呼吸も全く乱れていない。

「これが、ブレーメンの力?」

「ばかね。こんなの小さい子供だってできるわよ」

 はるか下方で盛大な音を立てた破壊音が鳴り響いた。旧居住塔の住人たちも何事かと顔を欄干から出して視線を下に向けた。

 ゾッとする光景だったが、事が落ち着くとよくよく周りを観察できた。独房のような家らしい空間。入り口のドアから顔が出され興味深そうにあたりから見られている。そして背中に当たる大きく柔らかく暖かな触感。

「うぁ、お(ちち)、大きい」

「ヒィヤ。いちいちうっさわね。アホ毛を抜くわよ」

 この触感、どうやらこのブレーメンの女、ブラをつけていない。

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ