表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦士たち  作者: Maxspeed
20/20

外伝2 サイラス・アーメンガード

「戦士たち」外伝 サイラス・アーメンガード


サイラスの誕生には複雑な事情が絡んでいる。地球連邦の支配のもと、月の裏側の中心都市として発達したツィオルコフスキーの現地統括者として、権力の中心にいたアレイ・グランには、天才の名を欲しいままにした一人息子、ギィがいた。そのギィは早熟で14歳の頃には20歳の女性と肉体関係を持っていたのである。そしてギィ自身は知らないことではあるが、その女性はアレイの一存でギィの元から去った。しかしその後彼女にとっても想定外であったのだが、彼女はギィの子供を孕っていたのである。これが後のサイラスである。そう、つまりサイラスはギィの子供となる。

ギィの元から去ったその女性は自分の妊娠を知り、ギィにではなく、アレイにのみそのことを知らせた。彼女なりに14歳のギィに余計な責任を負わせたくないという気遣いなのかもしれない。アレイは彼女に堕胎は勧めなかった。宇宙では生まれてくる子は貴重な財産であるという考え方があったためである。アレイは彼女の出産を待ち、生まれたその子引き取ることを提案した。もちろん母親には相応の金と、地球への移住権を提示したのである。最終的に彼女はその提案をうけ、生まれて初乳を与えた後にすぐその子をアレイに引き渡した。その後彼女は地球に移住するための準備を進めていたが、事故で亡くなっている。事故の経緯にアレイが関わっているという情報は確認できない。

子供はギィの年上の従兄弟で結婚したばかりのセオドア・アーメンガードに記録上は実子として引き取られた。もちろんセオドアはアレイに恩を売ることで将来の栄達を目論んでいた。また今後アレイの後継だけではなく、その才気からひと角の人物になるであろうギィへ干渉できるコマとしてもむしろ喜んで受け入れたのである。

アレイによりサイラスと名付けられたその子が自分の子供であることをギィが知るのはかなり後の、セオドアの死後のことであった。

セオドアもその妻もサイラスに愛情は注がなかった。乳母を雇い完全に任せていたのである。その乳母はスミという名だったが、サイラスがティーンになった頃にはセオドアに疎まれて他の都市へ移住させられた。そしていつしかオーベルトの地下スラムにて女性の生きる術としての娼館を開き、女傑として大勢の女性を救っていたのである。そしてその娼館ではヒュウも一時期保護されていた経緯があった。サイラスは幼少期スミに育てられたが、彼の伝法な喋り方はスミから影響を受けたものであった。


アタラクシアの独立闘争にサイラスは幼少であったこともありほとんど関わっていない。地球連邦が打倒された時、サイラスは15歳だった。しかし彼も多くのアタラクシア支持者と同じくジェイク・ハートマンの30万人粛清裁判を復讐であり、蛮行であると考えていた。それまでギィのカリスマ性に魅せられ盲従していたが、その価値観が覆された瞬間であった。

歴史に記録される「ゴッドサム終焉の夜」のギィとジョン・ハートマンの会談の時、サイラスは別室から彼らの会話を聞いていた。その時18歳であり、セオドアはサイラスをそばに置くことが多い時期であった。ギィは聡明な甥のサイラスを気に入っており、我が子とも知らずによく話をしていた。セオドアは何故か自分を煙たがるギィのお気に入りであるサイラスをギィとの緩衝材として利用するためにそばに置いていたのである。

ジョンとの話し合いが決裂したのち、サイラスはギィに問いかけた。人類の未来を考えるのであれば、この難局を乗り切るためには、アタラクシアは分裂すべきではないと。復讐裁判をあやまりであったと認め、流刑された旧連邦の権力者たちの罪を一等減じ、人間らしい最低限の生活は保証すべきであると。処刑した者の家族にも類を及ぼさない保証すべきであると。

その言葉を黙って聞いていたギィはサイラスが見たこともない、いや彼のことを知る誰もが見たことがない程の邪悪な、そう邪悪としか表現できない表情を浮かべてサイラスに言った。私の中の何かがやれと言うのだ。人類を壊し、世を乱し、不幸を積み重ね、その先に何が現れるのかを試せと。地球という閉じた苗床にいつまでも根を張る以上、その樹はいずれ根元から腐る。人は今以上の存在にはなれない。広大な荒れ野に放り出し枯れ果てるのか、それとも再生するのか、それを確かめるのは今しかないと。そのためであれば私は悪魔になる。悪意を持って世を動かす。

その言葉はギィとサイラスとの会話をモニタしていたセオドアにも聞こえていた。しかしセオドアにはギィの表情は見えなかった。その差が、サイラスとセオドアのこの後の対応に違いを生むことになる。

サイラスはギィに絶望した。彼をこのままにしておいては、人類のためにならない。そう考えてギィの暗殺計画を企てることになる。しかしサイラスの企てはことごとくセオドアによって阻止されてしまった。サイラスは自分の考えに共感してくれる同志を集めていたつもりだったが、もっとも信頼していた人物こそがセオドアの部下であった。その事を知った時サイラスは絶望した。更にこの時期に自分の出生の秘密を知ってしまったことから、アタラクシアからの出奔を計ったのである。時に後に第一次重力戦争と呼ばれることになる戦争が始まろうとしていた。サイラスは従軍し地球降下部隊に志願した。そして逆にセオドアの部下の力を利用して一隻の降下用宇宙艦グランドルークに同士を集めることに成功したのである。地球に降下後、アタラクシア領の人々を無理やり宇宙に運ぶ理不尽な任務を放棄して、グランドルークは連合側に艦ごと亡命した。その際にサイラスは裏切り者であるセオドアの部下を殺害している。グランドルークはサイラスとその同志11名だけを乗せて連合側に亡命したのである。奇しくも12セイバースと同じ人数であった。

かつてのコネを利用して連合首相ジョン・ハートマンの庇護を頼ったサイラスは連合軍人エルメス・フレイとなり、他の同志達もそれぞれ連合での軍籍を与えられて重力戦争を戦い抜いてきた。その間グランドルークは地球で空挺空母として運用され、悪夢のような第二次重力戦争も乗り越えてきた。その経緯で同志達も戦死や病死などで居なくなり、今やハリアーだけが残っている。

亡命当初、サイラスはロジャー・メイスコットの元で監視対象として従軍していた。その際にロジャーの息子、ユーリィと出会い意気投合したのである。ユーリィが政治の道を歩み始めた時、サイラスは彼の力になりたくて軍人を辞める事も考えたが、流石に亡命者が軍を辞めて政治運動に参加するのは難しかった。また亡命に使った宇宙戦艦グランドルークはアタラクシアの最新鋭艦であり、エリオット・ルーク直々の設計であった事から、連合には及びもつかない装備が数々搭載されていて、そのリバースエンジニアリング作業に協力することが優先されていた。ちなみにエリオット・ルークは第一次重力戦争が勃発する直前に研究室で事故死しており、グランドルークの艦名は彼を讃えるために命名されている。一部の陰謀論者はエリオットの事故はセオドアが仕掛けたものとまことしやかにネットに情報を垂れ流していたが、それは過ちである事をサイラスは知っている。エリオットの事故の報告を受けたセオドアをサイラスは間近で見ており、その時初めて彼はセオドアが膝から崩れ落ちて慟哭するところを見た。普段、ほとんど表情を変えない仮初の父親の初めて人間的な部分を目の当たりにしたのである。

軍人としてアデレードでの日々を過ごしていたサイラスを人生で何度目かの衝撃が襲う。第二次重力戦争の悪夢の最中、連合主席になっていたユーリィが爆破テロで命を落としたのである。からくも人類絶滅を避けるために和平合意が達成された直後であった。犯人は連合の戦争継続派の軍勢力だったが、ロジャーの素早い対応にて追い詰められ、アデレード近郊の小基地に立て籠った後、基地ごと自爆して果てている。全てのことに嫌気がさしたサイラスに、ロジャーは既に情報を抜き取り用済みとなったグランドルークを与えて、戦闘行為が少ない辺境警備任務に就かせた。時間と任務が彼の傷を癒せるようにという配慮かもしれない。

連合での辺境警備任務の日々はサイラスの心境に少しずつ影響を与えていった。ユーリィとの出会いと別れも要因かもしれない。いつしかサイラスはギィとの関係を捨て去り、このまま一連合軍人として生涯を過ごす覚悟が出来始めていた。

しかし、サイラスに思わぬ事態が発生する。歳を取らないのである。いや正確にいうと老けないといった方がいいかもしれない。エルメスとしてヒュウと出会った頃はすでに50歳を越えていたが、どうみても二十代後半に見えた。それ自体ギィと同じようにこの時代の医学では可能なことであったが、自身の特異な体質を受け入れるには時間がかかった。

その後同じくアタラクシアからの亡命者であるオルフィスをハートマンの要請で受け入れ、更に時間が過ぎ去り、やがてヒュウやマエジマと出会うことになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ