表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/18

第二話 十四歳への回帰

はじめはコンスタントに投稿した方が良さそうなので、短いですが第二話を投稿してみます。

 私が目を覚ましてから、数時間が経った。

 まだ時折意識がはっきりせず、身体もほとんど動かなかったが、枕元で聞くタチアナの話しぶりから判断するに、信じられないことが起きているようだ。

 帝国歴四三八年三月八日に斬首刑に処せられた私、ディートリンデ・アルトナー。

 死んだはずの私の魂が赴いた先は、女神の住まう天界でも悪鬼の庭たる地獄でもなく、十四歳の私自身の身体であった。


「夢じゃ……ないのよね……?」

「ええ、勿論ですとも!」


 何気ない呟きに、タチアナの力強い言葉が返ってくる。彼女は私が目を覚ましてからずっと、ベッドの側で甲斐甲斐しく世話を焼いてくれていた。

 身体を動かそうとすると、手足の筋肉が痛んだ。高熱が出ているらしい。痛みがあるということは、本当に夢ではないのだろう。

 もしかすると、私が現実だと思っていた出来事——稀代の悪女として処刑される未来——こそが夢だったのではと思ったが、夢にしては記憶が生々しく、鮮明だ。あれが夢であるはずがない。


 いまだに現実感が薄いが、ひとまずはこの状況を受け入れるしかない。

 ならば、まずは状況を把握しなければ。

 私が十四歳だというのは、タチアナの話からなんとなく理解した。となれば、いまは五年前——帝国歴四三三年ということになる。

 だが、いまは何月何日だ? そしてなぜ私はここに寝ている?


「ねえ、タチアナ」

「なんでございましょう?」

「私、こうなる前の記憶がないの」

「ああ、おいたわしや……! ずいぶん熱をお出しになっていましたからね。いまはじっとなさっていて!」


 いや、そうじゃなくて!

 私の求める答えは返ってこなかったが、大げさに心配するタチアナの声を聞き、私は自然と頬が緩むのを感じた。

 そうだ。彼女はいつだって優しく、私を自分の子のように気にかけてくれていた。


 ……あの痛ましい家事で命を落とすまで。

 思えば、私の転落は、タチアナの死がきっかけだったと思う。

 屋敷で起きた火事でタチアナが亡くなり、私は塞ぎ込むようになった。そのとき、あの悪魔が近付いてきたのだ。


 ——第一皇子、ヘルムート。


 黄金の髪と絹のような肌、怜悧(れいり)な美貌の奥底に、人並み外れた権勢欲と猜疑(さいぎ)心、そして狡智(こうち)を秘めたあの男が。

 ヘルムートは私を言葉巧みに(たぶら)かし、聡明な第二皇子エトガルに近付くように命じた。そして私を利用し、エトガルが皇室に謀叛を企んでいるという証拠を捏造させ、エトガルと彼の後ろ盾である有力貴族たちを排除していったのだ。

 そして最後に、真実を知る私にすべての罪を着せ、断頭台へと送った……。


「お嬢様、顔色が」


 タチアナの気遣わしげな声が私の回想を(さえぎ)った。


「平気よ、ちょっとクラッとしただけ」

「ですが」

「ありがとう、タチアナ。でも少し休めば大丈夫」


 タチアナはまだ何か言おうとしたが、今度は私のお腹が「ぐぅ」と間の抜けた音を立て、彼女の言葉を遮る。


「あら、あたしとしたことが!」


 タチアナが口に手を当てて立ち上がった。


「いますぐお食事をお持ちします。建国節のパーティの後で倒れられて、そのあと丸一日、何も召し上がっていませんでしたもんね。少々お待ちくださいませ!」


 慌ただしく早口でまくし立てると、タチアナは足早に部屋を出て行った。


 扉が閉まる音を聞きながら、私は自分の腹の虫に感謝した。

 おかげで状況が分かった。いまは建国節の翌日——帝国歴四三三年の四月十六日。


 タチアナの命を奪ったあの火事が起きるのは、来月の五月だったはずだ。

 まずは彼女の命を救うのだ。

 そして、近々暗躍を始めるであろうヘルムートの野望を打ち砕く。


 たかが十四歳の小娘にどこまで出来るかは分からない。

 だが、女神の気まぐれとしか思えないこの奇跡を生かさず、無為に身を任せるつもりはなかった。


 さあ、宿命を変えよう。

 自分の意志で未来を切り開くのだ!

次回は運命を変えるための第一歩。


「面白くなりそうだなあ」と思ったら、評価やブックマークをお願いいたします。

感想もいただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ