暗殺
美成が習字の稽古をしていると、城内が俄に騒がしくなった。剣介が腰を上げて様子を見に行こうとしたところへ、足早に家来の一人がやってきて、障子を開けた。
「ごめん!」
「どうしたのじゃ。」
美成が問うと、
「大変な事が起こりました!羅山様が、みまかられました!」
「何!?」
美成も、美成の師匠も、そして剣介も、同時に声を上げた。
「どういう事ですか!一体何があったのです?」
剣介が問うと、
「毒を盛られたのだ!羅山様は先ほど茶を飲まれた後に苦しみ出し、そのままみまかられた。」
「一体誰に・・・。」
剣介が尚も問うと、
「手を下したのは女中だ。そやつは逃げた。」
家来は答えた。剣介は美成を振り返った。美成は筆を持ったまま、家来の方を向いて固まっていた。
「美成様?」
剣介が近寄って目を覗き込むと、美成は大きく目を見開いていた。しかし、剣介の方を見てはいないようだった。剣介は美成の手から筆を取り、硯の上に置いた。それでも、まだ美成の腕が上がったままなので、剣介は美成の腕をそっと下ろした。すると、美成はやっと剣介の顔を見た。
「父上が?いなくなった、のか?」
「そのようです。」
「俺は、どうしたらいいのだ・・・。これから、どうしたら・・・。」
美成が動揺するのは無理も無い。羅山は名君と言われていた。まだまだ後を継ぐのは先だと思っていたのに、こんなに早く当主の座に着く事になろうとは、よもや美成のみならず、誰も思っていなかっただろう。
「とにかく、話を聞いて参ります。」
剣介が立ち上がろうとすると、
「待て、待ってくれ。まだ間者が近くにいるかもしれん。信用出来る物が近くにいてくれねば困る。剣介は俺の側を離れるな!」
美成が剣介の袴の裾を掴んでそう叫んだ。美成の大きな目には、涙がいっぱい溜まっていた。父を失った悲しみと、恐怖と、不安とで、美成の体は震えていた。
「美成様・・・分かりました。御意のままに。」
剣介は立ち上がるのをやめて、その場に座った。美成は手を伸ばし、剣介の腕を掴んでじっと涙を堪えていた。