冷凍庫の中の私
短編です。
周りは寒かった。
一日に何回も私を覗きに来る女の子がいた。
女の子が私を見に来る度にお母さんらしき人が「何回も冷凍庫を開けちゃダメって言ったでしょう!」 と叱る声が聞こえた。
それで私は冷凍庫の中に居るんだな。と思った。
一日に何回も覗きに来ていた女の子はとても嬉しそうな顔していた。
それがいつしか一日に一回になり、三日に一回になり、一週間に一回になりと、覗きに来る回数が段々と減っていった。
それまで私の周りにあった肉やら魚やらが、アイスクリームやかき氷に変わり、また肉やら魚に変わっていっても女の子が覗きに来ることはなかった。
私は女の子に忘れられたんだな。と知った。
…………………
恐らく私にとって途方もない時間、私はずーっと一人ぼっちだった。
誰とも話しが出来ない。冷凍庫から出ることも出来ない。
暗くて狭くて孤独で…。
この場所から解放されることもなく、ただただひたすら耐えた。
―――もしかしたら、また女の子が覗きに来るんじゃないかと、わずかな…。本当にわずかな希望を持って絶望と戦っていた。
…………………
そして…。
女の子が私の存在をすっかり忘れた頃、冷凍庫を開けた女の子は私を見付けた。
恐らく元の形も崩れてしまい、何だったか記憶を辿るしかないようなただの塊。
そして女の子は「ああ」と言った。
慌ててわたしを抱えて深々として降る雪の中にわたしを置いた。
「ごめんなさい」と呟き、跪いた。
女の子の思いが一杯溢れ、私の心の中に入って来た。
私はその時、初めて女の子の作った「雪だるま」だと知った。
ああ。
そうか。
私は雪だるまだったんだ。
女の子は泣きじゃくりながら私の周りに雪を足し、私を新たな「雪だるま」に仕上げた。
最後に小枝で手を付けて完成した。
冷凍庫に入っていた時よりいくらか大きくなった。
私は泣きながら「雪だるま」を作った女の子を見ていた。
ここに来てあらゆるものが心に溢れ、全てのことを知った。
仲間の雪達に出会って、自分がどういうものでこれからどうなっていくのか…。
私はあのままあそこにいたら…。と思うとぞっとしたが、だからといって目の前の女の子を責めるほどでもない。
季節が変われば、どうせ消えてしまうのだし。
長い時間、仲間達とはぐれて絶望や孤独も感じたが、それももうすぐ終わる。
今は仲間達に会えたことが喜びだった。
―――女の子は泣いて謝りながら去って行った。
そして…。
今度は私を連れて行かなかった。
私はしばらくこの深々と降る雪の中で存在している事を堪能しよう!
もう自由だ!!
ありがとうございました。