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メリー・シュガーの夢の星  作者: 小津 岬
─1─ クロックベルのメリー
7/66

第4話 ルシアとルイーゼ 1/2

「メリー、君は錬金術をつかえないか?」

 訪ねてきたウェイクが、いきなり言った。

 縫いものをしていたメリーは、針の先で指をつっついてしまった。

「痛っ!

 ……黄金がほしいの、ウェイク? 金色のこんぺいとうならつくれるけど」


「いや、人体を小さくできないかと思ったんだ。具体的には、身長をちぢめてほしい」

 身を乗り出す彼は、真剣そのもの。

 メリーは、お世辞にも長身とはいえないウェイクをまじまじ見つめた。


「……あなたって、ときどき不思議。小さくなって、なにをしたいの?」

「ちぢみたいのは俺じゃない。町役場のコーディーさんを知っているか」

「ええ、お顔はわかるけれど……」


 ミスター・コーディーは丸くて小柄。

 ピンポン玉みたいに駆けまわる姿が思い浮かんで、メリーの頭が疑問でうまる。

 彼女は針仕事の手をとめて、ウェイクに向きなおった。冬のブラウスにレースがつくのは、まだ先になりそうだ。


「意外だわ、あのおじさまが小さくなりたいなんて」

「いや、彼の娘さんが悩んでいるらしいんだ。その…… 不名誉なあだ名をつけられて」

「不名誉なあだ名?」

「ああ、ええっと……」

 ウェイクは、頭をかいて、ひとつせき払いをして、おごそかに言った。

「“時計塔”」




「ルシア、お友だちがいらしたわよ」

「えっ?」

 庭を眺めていたルシア・コーディーは、びっくりしてふり返った。

 肩でそろえた茶色の髪が元気に広がったけれど、顔立ちのおとなしさはぬぐえない。母にむかって緑色の目をぱちぱちさせた。

「ううん、今日は約束してないよ」


 “今日は”といっても、このところずっとそんな感じ。

 学校からまっすぐ帰って、どこにもいかない。一番の理由は、男の子たちに出くわしたくないからだった。

 町でうっかり行きあえば、

「おい、時計塔が歩いてるぞ!」

「サボってないで鐘鳴らせよ」

と、からかいの笑いが響く。


 ルシアが逃げようとすれば、友だちが反撃を──

「ちょっとあんたたち、やめなさいよ」

「先生に言うからね!」

 嬉しいけれど、いっそう注目が集まって、ルシアは背中を丸めるしかできない。そして、どれだけ背中を丸めても、その場の誰よりも大きい……

 本当をいうと、女の子らしい女の子たちと一緒にいるのも、ちょっとつらかった。



 そんなところに、突然のお客さま?

「どうしても会いたいって。

 メリー・シュガーってお名前で、学年は、ルシアの少し上かしらねえ」

 母がのんびりとドアの方を見た。


「シュガー先輩……?」

 やっぱり覚えがない。

 首を横にふろうとした彼女は、ベッドに目をむけた。

「どうしようかな、ルイーゼ?」

 特等席のクッションに、もうひとりの家族がすわっている。

 大好きなルイーゼ、私の大切なお人形。

 迷ったときは、必ずこの子に聞いてみる。きらめくガラス玉の瞳をじっと見つめてから、ルシアは決めた。


「いま行くね、ママ」

 立ちあがったとたん、ルシアはにょきっと伸びて、母を悠々と見おろした。

 また背が高くなった気がする……

 彼女は細いため息をつき、玄関へむかった。



 ウェイクから話を聞いてなければ、メリーも驚いてしまったかもしれない。

 ルシア・コーディーは、彼女より頭ひとつぶん(以上)大きかった。十四才の女の子ながら、青年のウェイクにも迫るくらい。


 けれどルシアは、とてもひかえめな子だった。

 輪っかのみつあみの謎の客人から事情を聞くと、

「パパってば、よその人まで巻きこんじゃって……」

とささやき、顔を赤くする。

 かわいらしく飾られた部屋で、メリーは穏やかに言った。


「あなたの悩みごと、なにかお手伝いできないかしら」

「ありがとう。でも、身長はどうしようもないよね」

 しょんぼりしたルシアは、お茶のカップから視線をあげた。

「そこの柱を見て、メリー。いっぱい印があるでしょう?」

「あら、ええ」

「私の成長の記録。

 あんまり伸びるから、一昨年からつけてないの。そしたら、背もとまってくれるんじゃないかなって」


 その願いも儚く、やっぱり彼女は伸びている。小柄な両親の背は、早々に追いこしてしまった。

「パパもママも、気にすることないって言ってくれるけど……

 拾った子がカカシみたいになるなんて、びっくりしちゃったと思うの」

「ちょっと失礼、“拾った子”ですって?」

 メリーが手をあげて聞き返す。ルシアは自然な調子でうなずいた。


「私、小さいときにもらわれてきたの。

 このお家にこられて、すごく幸せ。身長なんかで悩んでちゃいけないね、ねえルイーゼ?」

 少女は眉をさげて微笑み、ベッドに目をむけた。

 つられてふりむいたメリーを、巻き毛のお人形がにっこり見返してきた。


「まあかわいい! あなたのお友だち?」

「ルイーゼはね、私のお姉さんみたいな子。

 お家にきたころ、寂しくないようにってパパがつれてきてくれたの。それからずっと一緒」


 そのお人形は、古びていても大切にされているのが伝わってきた。

 栗色のカールした髪、ふっくらした頬。

 ぱっちりひらいた瞳は鮮やかな青緑色で、ひらひらのドレスによく映えている。これぞ女の子、といった感じだ。


 彼女を見つめたルシアは、ささやきをこぼした。

「……ルイーゼみたいになれたらよかったなあ」



 輪っかのみつあみが、すかさず揺れる。

 悩める女の子を見あげたメリーは、キリッとして言いきった。


「そういうことなら、ルシア。小さくなりましょう」

「えっ、できるの!?」

 つい立ちあがって、大きくなるルシア。

 メリーは強気な笑顔で答えた。

「できますとも! なにを隠そう、私はさすらいの錬金術師さん……」

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