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メリー・シュガーの夢の星  作者: 小津 岬
─5─ 夜空のかなたに
59/66

第30話 夢の星まで 1/2

 あたしのお姉ちゃん、ミミっていうの。

 かわいい名前でしょ? あたしたち姉妹は、赤毛も緑の目も、そばかす顔もおそろい。

「あーあ、そばかすが魔法で消せたらね!」

 って、よく笑ってた。


 けど、本当の願いごとは――



「あたしたち、お城をつくりたかったの」

 マリオンは、まじめな表情でみんなを見まわした。


「お城?」

 ぽかんとした声をあわせるのは、メリーとウェイク、それからクロウハイム。

 ここは魔法史調査局の事務所。

 骨董市で降参(?)したマリオンは、となり町から盗ってきた鏡をぜんぶ返して、ごめんなさいをしてきた。


 一夜あけて、ようやく相談タイムだ。

 おしゃれ青年クロウハイムが、前髪をかきあげて尋ねる。

「それは、君とお姉さんで一国一城の主になりたい、ということかい?」


「シープランドから独立、だと? なんて壮大な陰謀なんだ……!」

 ウェイクが武者ぶるいすると、マリオンがにやりと笑った。


「あら、ばれちゃった?

 お城に腕ききの仲間を集めて、この国を乗っとっちゃうの。名づけて “2頭のうるわしき赤ひつじ作戦”……」



 メリーがかわいらしく口をとがらせ、彼女をつっつく。

「マリオンったら、素直になってよ!

 つまり、お家がなくて困っている人を助けたいんでしょう?」


「まあ、そんなとこ。

 あたしとお姉ちゃんもみなしごだから…… そういう子たちで大きな家族になるのも、ありかなって」


 彼女は軽やかに肩をすくめた。

 それから、ちょっと気弱な表情になって、こんぺいとう少女を見つめる。

「お城の夢をかなえたくて、魔法のかけらを探してたの。サーカスの時は、ごめんね」



 今年の春、マリオンは、身分を偽ってこんぺいとうを騙しとった。

 ふしぎな少女がキリッと問いかける。

「ひとつ気になっていたことが。あのあと、こんぺいとうはどうなったのです?」


 マリオンもシリアスに証言した。

「なんと、夢がさめたら、色とりどりのかわいいお砂糖に。

 お姉ちゃんお手製の揚げたてドーナツにトッピングして、おやつにしました」

「それは…… さぞかしおいしかったでしょうね」

「ええ。落ちたわ、ほっぺたが」


 セピアの影がかかる大人ムードは、ここまで。メリーはにっこり笑って、手を差しだした。

「謎がとけたら、仲なおり!

 お姉さんに会えたら、私もドーナツをごちそうしてもらおうっと。魔法さがしの旅のつづき、聞かせて?」




 ごぞんじ変装上手・体力自慢・度胸一番のマリオン。

 身体は強くないけれど、しゃかしゃか頭をはたらかせるのが得意な、姉のミミ。

 ふたりのコンビネーションは抜群。

 町から町へ、機転とおしゃべりのうまさで、おもしろおかしく渡り歩いてきた。


 事件のはじまりは、この前の夏のこと。

 マリオンは、安宿で一日のかせぎを数えていた。


「銅貨、銅貨、また銅貨。

 あっ、これは金貨!

 ……かと思ったら、犬の首輪のかざり。お名前は “ミミオン” だって、なんか他人の気がしないなあ」


 すると、窓辺にいたミミがすっとんきょうな声をあげた。

「あっ、消えた!

 ねえマリオン、すみれ色の星が、ピカピカ光ってなくなっちゃったよ!」


「えー、紳士の幻にウィンクされたんじゃないの?

 昨日もそんな遊びしてたでしょ、夜空に理想の男の子を描こう会」


「ちがうちがう、今のはぜったいに魔法の星!

 ほんとにきれいで、すっごい力がありそうだった。これはボーッとしてらんない、望遠鏡をお借り(・・・)してくるわよっ」


 器用な姉妹は、すぐに観測の準備をととのえた。

 けれど、それから何日探しても、すみれの星は見つけられなかった。




 ウェイクが納得して口をはさむ。

「それで、望遠鏡につかえる魔法の鏡を手に入れようとしたのか。

 レオール王家のお宝、鏡のネックレスを。異国の王宮を相手どるとは、まったく大胆不敵だな」


「夢のためなら、なんだってできるもの。

 ……失敗しちゃったけど、どっちにしろ、あたしは間にあわなかった」

 マリオンは、ちょっとくちびるを噛んで、話をつづけた。



 あのあと、ライオンの国の仮面舞踏会から、あわてて逃げ帰った彼女。

 まっくらな夜中に、くたびれきって宿のドアをあけた。

「お姉ちゃーん、もう散々!

 あとちょっとだったのに、あやしいキラキラ道化師がひらひらしてね、邪魔されてね……」


 マリオンは言葉をきった。

 いつもの「おかえり!」が返ってこない。

 ミミは、窓ぎわに置いた望遠鏡をのぞいていた。なんにも聞こえていないみたいに、じっと動かない。

「お姉ちゃん、どうしたの。大丈夫?」

 不安になって、手を伸ばしたとき。

 ほっそりした後ろ姿が、淡くまぶしく輝きだし――



「光になって、レンズに吸いこまれちゃった」


 マリオンが言うと、事務所に静けさがおりた。

 3人は彼女を見つめ、ごくりとのどを鳴らした。メリーがおそるおそる口をひらく。

「それじゃあ、天文学が好きなカート・アスターさんも……?」


「ええ、きっとお姉ちゃんと同じ。

 ふたりはね、星を見つけたんじゃなくって、星に見つかっちゃったのよ!」





 夢に迷った青年・カートと、夜空にさらわれたミミ。

 ふたりを助けるためには、すみれの星を探さないといけない。

 あらわれたり引っこんだりの、気まぐれな星をつかまえるには?


 ──やっぱり、魔法の望遠鏡が必要!



「そういうことなら、こはくとうの出番ね。マリオンの夢の中で、魔法の鏡をつくってもらいましょう!」

 いったんお家に戻ったメリーは、スプーンをみがきながら気合いを入れた。


「ああ、そうだな……」

 むかいに座って鍋をみがくウェイクが、ちょっと曇った視線をなげかける。

 メリーは手をとめて彼を見た。

「どうしたの、ウェイク? なんでも言ってみて」


「この調査は、かなり危険だと思うんだ。

 星に目をつけられたら、誰でも吸いこまれる可能性があるだろう?」


「そうね、レンズをのぞく時の対策を考えなきゃ。

 メガネをかけたら、星のお誘いを防げないかしら。薄目で見てみるとか、寄り目で見てみるとか……」

 あれこれ案を出すメリー。

 ウェイクはいまいち心が晴れず、鍋をのぞきこんで黙ってしまった。



「大丈夫よ、ウェイク」

 ごちゃごちゃの机をこえて、メリーが手を伸ばす。

 うつむいた青年の前で、スプーンがひらりと宙をすくった。彼が顔をあげると、少女は静かに微笑んでいた。


「胸さわぎを、ひとさじもらいました。

 足りなくなったぶんは、いちばんあなたらしいもので埋めて。さあ、レシピはなあに?」


「それでは、高所恐怖症をひとさじ」


「 “やさしさ” です!

 前から言おうと思っていたけれど、もっと自分を誇っていいのよ、ウェイク! そこだけはヨルを見習ってほしいの!」


 ぶんぶんふられるスプーン。青年は、銀色の動きにあわせてガクガクうなずいた。

「俺はやさしいのか?

 君がそう言ってくれるなら、自称できるように努力する。ヨルの半分、いや、4分の1くらいは自信をもって……」


「ほんとに、本当に、あなたらしいわ」

 はぁ、と肩をおろしたメリーは、表情を引きしめた。



「あなたの不安は、私もわかる。

 なにが起こるかぜんぜん見えないから。けどね、マリオンとソフィーさんの気持ちになってみると、怖がってもいられないの」


 青い目がウェイクだけを映し、かがやいている。魅入られたように見つめかえす彼に、メリーは告げた。


「だって、もしもあなたがいなくなってしまったら、私は見つけるまで探すもの。

 世界じゅうぜんぶの夢を引っくりかえしたって、ぜったいに迎えにいくわ。なにがあっても」



 ふたりのあいだから音が消える。

 まばたきしたウェイクが口をひらいたとき、軽快なノックの音がした。メリーがパッと笑顔になる。

「マリオンかしら!」

「ああ、俺が出よう」

 ドアへ手をかけながら、彼は少しだけふりむいた。

 メリーは、ちょこんとイスに腰かけている。その横顔は明るかった。なにかすばらしいものを信じて、待っているように。


 夢とお砂糖、スプーンときらめき。

 ふしぎですてきな女の子、メリー・シュガー…… 一緒に追いかけてきた謎が、もうすぐ解けるかもしれない。


 しかしメリー、どうも心配なんだ。

 そのとき俺は、君のとなりにいられるだろうか?




 その日の夜。

 マリオンは、かがやきに満ちた夢の中で目を覚ました。

 なにもかもがこはくとうでできた、豪華なお城。とんでもなく広い壁一面に、数えきれないほどの鏡がかざってある。

 彼女は、メリーと話しあったとおり、大きな声で言った。


「そこにいる誰かさん、聞いて! あたしは魔法の鏡をつくりたいの」


 少ししてから、たどたどしい子どもみたいな声がふってきた。


 “魔法?”


「そうそう!

 望遠鏡につかえる、丸くて分厚い鏡。たっぷり魔法をこめてね。

 それですみれの星を探して、お姉ちゃんたちを助けて、ついでにそばかすを消して足を長く、ウエストも細く……」


 “ごめ、んね”


「えっ?」



 ぱちっ、と目がひらく。

 赤毛の少女は、宿のベッドで飛び起きた。

「う、嘘でしょ、これでおしまい?

 ご令嬢とフクロウは手伝ってあげて、あたしにはなんにもなし!?」


 急いでランプをつけて、枕の下まで手でさぐる。

 打ちきられた夢からは、なにも持ち帰ることができなかった。

 きれいなピンク色をしていたこはくとうも、小ビンの中から消えている。


「ど、どうしよう、注文をつけすぎたかしら。

 それとも日ごろの行いのせい? メリーががんばってくれたのに、こんなところでヘマするなんて!」

 大きな瞳から、ぽろりと涙がこぼれる。

 泣いちゃだめ、と思うほどあふれてきて、とまらなかった。


「お姉ちゃん。会いたいよ……」




 けれど、次の朝。

 鏡はちゃんとやってきた。

 ピカピカの白馬に乗って、ライオンの国から、まっしぐらにやってきた。


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