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メリー・シュガーの夢の星  作者: 小津 岬
─4─ 竜と海のドラゴニア
41/66

第21話 疑惑と海の草 1/2

 メリーのお気に入りの机は、いつでもがんばっている。


 小さな天板にのっけているのは、お砂糖つぼにてんびんに、とっておきのガラスびんがいくつか。

 それからペンとインク、リボンの切れはし、読みかけの本……

 はじっこにかわいいティーカップをささえて、そのほか数えきれないすてきなものがたくさん!


 今日は、その上に、地図まで広がっていた。

 紙に記された道を、ふしぎな少女の指がたどる。


「こはくとうづくりに足りないのは、“竜の海の草”。

 竜といえば、ドラゴニア公国。いったいどんなところなのかしら?」


 メリーは小さくつぶやいた。まだ見ぬ場所にキラキラの思いをはせて……

 とはいかず、青い瞳には心配の色がくっきり。

 以前、ライオンの国の王子さまが、ドラゴニアについてこんなことを言っていた。


 “こちらが手を差しだしても、あちらが突っぱねるのだ!”


 苦々しく顔をしかめた、それでもかっこいい姿を思いだして、メリーはちょっとうっとりする。

「黄金の王子さまは怒ってもすてき……

 じゃなくって、ドラゴニア! ハーティスさまを困らせるくらい、閉じこもりのひみつ主義なのね」


 行く手にただよう黒い雲。それでもメリーは、海草を手に入れたい。

 夢の恋人たち、ソフィーとカートを助けたいから。


 

 少し前、仕立て屋の令嬢は、両親にひみつを打ち明けた。

 夢の中に好きな人がいて、彼は記憶を失っている──

 話を聞いた夫妻は引っくりかえったけれど、一回転して着地した。そうして、新聞にこんな広告を出した。


 “カート・アスター氏をさがしています。

  彼は天文学が趣味で、すみれ色の星の発見者です。お心あたりの方はご連絡ください。

       クロックベル マーシャル縫製店、ソフィー”



 記事をうけおった新聞社の紳士は、難しい顔をした。

「ううむ、どうも情報が足りませんね。

 反応がないかもしれませんので、あまりご期待なさらずに」


 しかし、彼の心配とうらはらに、お手紙はぞくぞくやってきた。



 “まあ、とっても奇遇ですね!

  カート・アスターとは、先日わたしが産んだ男の子の名前です。この子が星のようにきらめき育ちますように!”


 “私の名前はカート・アスター。

  来年めでたく100歳をむかえます。

  天文に明るくはありませんが、お祝いのケーキは星の形にして、すみれの砂糖づけを飾ろうかな……”


 全部がぜんぶ、この調子。

 だけどソフィーはめげなかった。ていねいなお礼を書き、またお手紙を開けて、読んで、書いて…… と忙しい日々を送っている。




 彼女を訪ねた帰り道、メリーはため息をついた。

「幸せなカート・アスターさんがいっぱいいるのはわかったわ。ソフィーさんのカートさんはどこかしら?」

 となりを歩くウェイクが考えこむ。

「手がかりを得るまで時間がかかりそうだな。広告のほかに、いい方法はないだろうか」

 かたむけた帽子のつばに、あざやかな落ち葉が舞いおりた。灰色の瞳が色づく町を映し、静かにかがやいている。


 ――ウェイク、なんだか秋が似合うみたい。


 メリーの心は、ドキッとしてざわざわ。その勢いで高らかに宣言した。

「やっぱり、私のこはくとうが役に立てると思うの。ドラゴニアに行って、海草を見つけなきゃ!」

 すっかりやる気の、かわいいこんぺいとう屋さん。

 ウェイクはつい頬をゆるませたけれど、すぐに表情を引きしめた。


「気持ちはわかるが、慎重になった方がいい。

 前に君をねらった刺客が、どこかで待ちかまえているかもしれないからな」

「刺客って、サーカスのマリオンのこと? あれから音沙汰もないし、大丈夫じゃないかしら」

 はつらつとした赤毛の女の子を思い浮かべ、首をかしげるメリー。するとウェイクは、生真面目な調査員の顔になって声をひそめた。


「春先とは事情が変わっただろう。今の君は、推定・魔法つかいなんだ」



 夏の終わりに手に入れた、ふしぎなレシピ。

 そのおかげでふたつの事実が明らかになった。

 ひとつは、メリーのこんぺいとうが魔法だということ。それから、時計塔の番人が、知らないうちに魔法のタネをまいていたこと……


 どうやらこの町には、魔法つかいがふたりいる、みたい。


 クロックベル魔法史調査局(所長さんとウェイク)は、これまでのできごとをまとめて、遠い都にある本部へ報告した。

 返事はびっくりするほど早く届いた。


 “なんということでしょう、現代に魔法つかいがいたとは!

  あっまだです、まだ推定ですよ! 本部まできて、詳しい話を聞かせてください☆”


「いつもの堅苦しくて長ったらしい文章はどこにいったんだ!?

 終わりに星、いや、こんぺいとうまでついているぞ。これは偽造だ、陰謀だ!」

 激しくうろたえるウェイク。

 所長さんは、リスのレインにクルミをあげながら、のんびり笑顔を返した。

「本部長さんも、わくわくしているんだろうね。

 また魔法の時代がくるかもしれないなんて、わしも楽しみだよ」




 ということで、メリーは魔法の階段をひとつあがったところ。

 そんな彼女を守ろうと、ウェイクの使命感も一段高くなっていた。秋の並木道で足をとめ、まっすぐ少女を見つめる。

「俺は明日から町を離れないといけない。どうか気をつけてくれ、メリー」


「わかったわ、クロックベルのまわりで海草をさがしてみる。

 でもね、あの元気なマリオンと閉じこもりの国は、あんまり結びつかないなあ……」

 メリーがかわいらしく口をとがらせると、ウェイクは苦笑した。

「君は人がいいな。悪いやつほどなりすましがうまいんだぞ」


「まあ、それじゃあ、私のお友だちはみんなお芝居がヘタになっちゃう! あなたも役者さんになれないわね、ウェイク」


 いたずらっぽく笑ったメリー。けれど、彼を見あげてハッとした。

 青年の笑顔が消えている。

 硬い表情をしたウェイクは、影をまとって風に吹かれ、石みたいに黙りこんでいた。

「どうしたの、大丈夫?」

と尋ねた、そのとき。

 道の先から涼しげな美声が飛んできた。


「やぁメリー、ばればれの密会で仲よし自慢? 僕もまぜて!」


 ふたりがふりむくと、ベルベットのマントをはためかせたヨルが、楽しそうに手をふっていた。

 取りまきの女性たちが彼を引きとめる。

「あらヨルム、まだ会ったばかりじゃない」

「もっとおしゃべりしましょうよ!」

 甘くねだられても、謎の青年は平気ではねつける。冷たくて透明な氷の微笑みを浮かべて。

「だめだよ。君たちは、もうおしまい」


 ウェイクが息をつき、やれやれと首をふる。

「あいつこそ町一番の役者だな。

 どうするメリー、台風の目がスキップしながらやってくるが、避難するか?」

 冗談まじりの微笑みは、少しぎこちない。話がそれてホッとしているみたいだった。




 はせる思いは、竜の国から青年の疑惑へ。

 机についていたメリーは、大きな地図をちっちゃくたたんだ。

「いつものウェイクは、ぜんぶ演技でした…… なんて、まさかそんなことないわよね」

 笑い飛ばそうとして、またまた思い出す。出会って少したったころに、彼が口にした言葉を。


 “俺は檻に入っていた。今は聞かないでくれ”


「ううう、疑惑……」

 メリーは小さな足をばたつかせた。もやもやの気持ちが彼女を包んでいく。

 彼の裏側に、思いもしない一面があったとしたら……?

 少女は勢いよく首をふり、輪っかのみつあみを揺らした。


「ううん、そんなことない!

 私の知ってるウェイクが本当のウェイク。

 やさしくって一生懸命で、ちょっと不器用で高いところが苦手で、コーヒー党だけど紅茶を出せばおいしそうに飲んでくれて、かわいい動物が好き……」


 指を折りながら、彼の姿をはっきりさせようとする。でも、数えあげればあげるほど、心がキリキリしてきた。


 本当なの、メリー・シュガー。

 そのウェイクは、ほんとに本当?


 ついに両手をおろし、イスに沈んでため息をつく。

「……海草と一緒に、ウェイクの真相もさがそうっと。ああ、保護対象の私が、調査員を調査するなんて!」


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