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メリー・シュガーの夢の星  作者: 小津 岬
─2─ レオールはライオンの国
24/66

第12話 サーカス・ラビリンス(後) 2/2

 サーカスの迷宮が解ける、少し前。

 ヨルは、ちがう夢の中にいた。


「ここだと思ったんだよね。思ったけど……」

と、淡い金色の目をまたたかせる。

「これは予想してないよ、ウェイク?」


 そこは、木もれ日のそそぐ、ここちよい森の中。

 見あげるくらい大きなリスが、すやすや眠っている。ふかふかの身体にもたれて、夢の持ち主・ウェイクも眠る。


 そして、メリー・シュガーは、リスの丸まった尻尾に横たわっていた。

 かさねた両手に頬をのせて、目を閉じて。ほどけた長い髪がゆるやかに光る。

 ふたりと一匹の陽だまりは、呆れるほど平和だった。



「それでは、名探偵ヨルム・フォルス氏の華麗なる推理……」

 気どって歩みよったヨルは、メリーとウェイクを交互にのぞきこむ。


「こんぺいとうには、依頼主のウソが、スプーン5杯ぶんくらいまざっていた。

 思わぬ隠し味のせいで、ウソつきが見る夢がサーカスとかさなる。

 メリーをつれて帰ったら、たぶん大体もとどおり。完璧!」


 太陽にむかってばんざいすると、メリーの顔に影かかかった。

 ころんと寝がえりをうった彼女に、ヨルはささやく。

「君も異変におそわれた。

 それで助けを求めたんだね。サーカスなんて、なにがあってもぜったい観にいかない人間の夢に」

 人形のような、整った顔がくもる。


「……僕じゃダメだった。夢を見られないから」


 ちょっと怒ったようでいながら、涙の気配もふくんだ、もろい感情が走った。

 メリーの頬にそっとふれる。

 少しのあいだ愛おしそうに見つめて、


 耳もとで叫んだ。



「さぁ起きて!

 みんなが君を待ってるよ、かわいいかわいいメリー・シュガーッ!」



「きゃーっ!?」

 全身で飛びあがったメリー。

 にこにこする黒髪の青年を見て、目を丸くした。

「ヨル、どうしてここに。サーカスは? 町でなにがあったの!」

「まぁいろいろ、すごくいろいろ。

 帰りましょうか、お嬢さん? 道化の笑顔もかくれる、闇の時間へご招待……」


 ヨルは、王子さま顔負けの優雅なしぐさで、少女の手をとる。

 ついでに、優雅なつま先でウェイクをつっついてやった。彼は(夢の中で)眠ったまま、真横にたおれた。





 サーカスから一夜が明けても、メリーのびっくりは終わらなかった。

「竜の国のスパイ、ですって!? あのマリオンが、まさか!」


 輪っかのみつあみをはねさせて、みんなを見まわす。

 ルシア、工房の少年キッド、レオールのハーティス王子。

 集会場所は、魔法史調査局の事務所。

 なりゆきを理解できてないウェイクが、ミステリーな顔をする。


「ルシアはわかるが、なんだこの取りあわせは?

 恐ろしい乗り物が好きなキッド少年、はじめまして。ハーティス王子、あなたがなぜ俺のなわばりに……」


 すでに混乱している彼を、所長さんがなだめる。

「いいかね、ウェイク。ミス・シュガーの力が、何者かにねらわれたんだよ」

「それでは、所長!」

「ああ、陰謀だねえ」

「ついに。ついにやってきたのか……!」

 ウェイクの瞳が輝きだした。



 キッドが、ハーティス王子の肩を軽くたたいた。

「竜のドラゴニアって、めっちゃくちゃつきあいが悪い、閉じこもりの国だろ? 親方が言ってた」

「ああ、いかにも。

 こちらが手をさしだしても、あちらが突っぱねるのだ。どんな企みであれ、彼らが一枚かんでいると私は思うよ」

 ハーティスは、凛々しい眉を寄せ、難しい顔をした。


 西にライオン、東に竜。

 二つの大国にはさまれているのが、メリーたちのいるひつじの国。

 そして、ライオンと竜は、ずっと昔から仲が悪かった。



 メリーがかわいらしく首をかしげた。

「マリオンと、閉じこもりの竜……

 なんだかあんまり結びつきません、ハーティスさま。おしゃべりな極楽鳥みたいな子だったんです」


「メリー、君はとてもやさしい。純粋な心は、ときに悪を惹きつけてしまうんだ」

 王子さまは、親愛と心配をこめて少女に微笑んだ。

 メリーの頬が一瞬で染まる。

「そ、そう、かしら…… あなたがおっしゃるなら……」

 それを見ていたキッドが、

「王子ってすごいんだな」

と感心した。ウェイクは、恥じらう少女の横でひたすら無になっていた。

 


 みんなをまとめたのは、綿あめ頭の所長さんだった。

「それでは、調査局の本部に相談してこよう。

 ほかの町にも、その赤毛の子が現れているかもしれないね。王子には、わしから報告のお手紙をさしあげますよ」

「おお、それはありがたい!」


「ただし、本部にお願いするとなるとね、ミス・シュガー?」

 所長さんは、やさしく語りかけた。

「君に認めてもらわないといけないんだよ。そのふしぎな力が、魔法だってね」



 みんながいっせいにメリーを見る。

 彼女は、びっくり顔で背すじをのばした。なぜかウェイクがあわてだす。


「メリー、無理に答えなくていい。

 調査局の決まりは決まりだが、それは別として、君の意思は尊重されるべきだ!」


 青年は、必死になるあまり、パッと少女の手をとった。

 王子もルシアもキッドも、息を飲んでふたりを見つめる。

 目を見開いていたメリーが、ぱちぱちまばたきする。まっすぐウェイクを見て、言った。


「……自分でも、わからないの。

 あなたは、魔法だと思う? 私のこんぺいとう」




 会議はおひらきになり、みんなは事務所をあとにした。

「ああ、弟になんと説明したものか。私は、彼女が探偵だとたしかめにきたんだが……」

 嘆き節とうらはらに、ハーティスは楽しそうだ。

 キッドがくるっとふりかえる。

「結局、ますますわかんなくなったな!」

「まさしく、クロックベルは謎の町だよ。ウェイク、君は嬉しそうに見えるが?」


 王子に尋ねられ、青年はハッと首をふった。

「そんなことはない。ただ、謎につぐ謎は…… いかにもメリーらしいと思ったんだ」



 ウェイクは前を見た。ルシアと並んだメリーが、春の小道をとことこ歩いてゆく。

 キッドがニヤニヤして彼をつついた。

「なるほどねー、ウェイクさんは謎に恋してるわけだ」

「どうしてそうなるんだ?」

「どうして認めないんだよー?

 これってぜったいダメな例だよな、ハーティス王子。ライオンパワーで恋愛指南してやってくれよ」

「残念ながら、レオールにそういう秘術はないのだ……」

 男たちの雑談は、ぽかぽか陽気にまぎれて、のんきに消えていく。



 ルシアは、となりを歩く友だちをそっと見おろした。

「メリー、大丈夫? 疲れたんじゃないかな」


 しょんぼりしていたメリーが、パッと顔をあげる。

「ええ、長く眠りすぎちゃったみたい。今日はスプーンと徹夜しようかしら」

 おどけて答えたけれど、やっぱり元気がない。

 すると、ちょうちょがひらひらやってきて、輪っかのみつあみにとまった。

 ささやかな予感に、ルシアが微笑む。


「あのね、その赤毛の女の子、きっとまた会えるよ」

「マリオンに……?」

「そう。いつか本当に、メリーのこんぺいとうが必要になるの。

 あなたはマリオンを助けてあげる。今回のことを、ちょっとだけ叱ってから」


 背の高い少女は、すらっと長い腕を天にのばした。

「それからね、今度こそお友だちになるんだよ」



 空はやさしい色をしている。つられて見あげたメリーの笑顔が、やっと晴れた。

「そうね、そうなってほしい。きっとなるわ!」

「3人でお茶会しようね。ルイーゼも一緒に」

 にっこりしたルシアの瞳が、いたずらっぽく開いた。


「みんな大変だったけど、私、楽しかったなあ。

 不思議なサーカスをみて、王子さまともお話しできて…… ハーティスさま、本当にすてきだね!」

 これを聞いたメリーが、さっそく目を輝かせる。


「あら、あなたはキッドを気に入ったかと思ったのに!

 一緒に飛行機にのったんでしょう、どうだった、ドキドキした?」

 軽やかに笑いあう女の子たち。

 楽しい内緒話がはじまって、少しだけ早足になった。


    (第12話 おわり)


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