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メリー・シュガーの夢の星  作者: 小津 岬
─2─ レオールはライオンの国
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第12話 サーカス・ラビリンス(後) 1/2

 サーカスの迷宮にとらわれてしまった、ルシアたち。

 長い夢からすくいあげてくれるのは、きっとメリー・シュガーの銀のスプーン──

 ということで、謎の旅人もくわわって、出口をもとめて走りまわっていた。


「ねぇ隊長、二手にわかれた方がいいんじゃない? 僕とルシア、君と旅人さん」

 ヨル少年がものほしそうに言えば、先を行くキッドが怒鳴りかえす。

「ちっともよくない。なんだよ、その危険なわけ方!」


「キッドくん、前っ」

 ルシアがあわてて彼をひっぱる。

 貝がらのプールにはいった人魚が、わっせわっせと運ばれてきた。

「失礼、しつれぇい。出番だわ、急いでぇ」

 パタついたヒレからはねた水は、真珠になってはじける。


「次はだれ?」

「僕らの出番、まだ?」

 頭に花を咲かせた小人や、全身ピカピカ鏡のミラーマンがいったりきたり……

 ラビリンス・サーカスは、つぎはぎのおとぎ話へ変わってしまった。



「早くなんとかしないと、ぶったおれそうだよ」

 極彩色にくらくらしたキッドが、額をぬぐった。

 旅人の青年も、あたりを見まわして息をつく。

「まったく、なんでもありの極みだな。ああ、レオール王国の象徴がネコのように……」

 小さくなったライオンたちが、おとなしく檻にはいって「にゃおう」と鳴いた。ガオウ、と言いたかったらしい。


 ルシアは、

「かわいい、ぬいぐるみみたい! お家で飼えるかな?」

と思ったけれど、気をつかって、心にしまっておいた。

 嘆く旅人を見あげて(彼は、ルシアよりずっと背が高い!)尋ねる。


「あの大きさで、どんな芸をしたんでしょうか? 舞台もすっかり変わっちゃったのかなあ」



 すると、先頭のキッドがいきなり立ちどまった。

 ぶつかったヨルが「むぎゅっ」とつぶれてもかまわずに、空色の目を輝かせる。

「それだよ、ルシア!

 僕たち、まだステージを探してなかった。出口は舞台の上かもしれない、行ってみようっ」


 3人が駆けだして、ぽつんと残ったヨルがきょろきょろする。

「舞台にでるなら、髪の毛なおさなきゃ。あっ、鏡かして!」

「わ、わたしですか?」

 とまどったミラーマンとにらめっこ。

「んー、やっぱりぐしゃぐしゃ。ブラシ借りたいなぁ、衿もシワになってる……」


 永遠に身なりを整えそうなヨル。

 目をつりあげて戻ってきたキッドが、おしゃれなケープをわしづかみにした。

「誰も見てない、さっさとこい!」

「了解であります、いじわる隊長」




 そろってステージに走りでれば、司会のピエロが声を張る。

「さぁてみなさんお待ちかね、お次は “夢の夢と夢” 。一大イリュージョンをお見のがしなく!」


 おおげさなおじぎをした彼は、メイクの上からでもわかるほどの真顔になって、キッドに言った。

「これだけ盛りあげたんだから、ぜったい失敗するなよ」


「えっ、僕らになにしろってんだ?」

 あわてる少年をほうって、ピエロはひっこんでしまう。

 しかも、ルシアが困りきってささやいた。

「キッドくん。ヨルくんが消えちゃった……」


「なっ!」

と見まわせば、舞台に立っているのは、彼らと旅人だけ。

「こんな時にかよ! あいつ、一番ステージにむいてそうなのに」

「“夢の夢と夢” って、どうしたらいいのかな」

 キッドは髪をかきまわし、ルシアもぎゅっと手を握りあわせる。

 四方八方からふりそそぐ観声が、どんどん大きくなった。



 けれど、レオールの旅人だけは、落ちついていた。

「君たち、夢があるだろう?」

「えっ?」

 ふたりは一緒に彼を見た。高貴な青年は、少年と少女へにっこり笑いかけた。


「眠りの夢ではなくて、将来の夢だ。

 それを叶えてみてはどうだろう、今、この舞台で。君たちならできるよ」


 私の未来は、もう定まっているからね――

 そうつけたした青年は、満足そうで、ちょっと寂しげでもあった。




「あ、夢がはがれる」

 ヨル少年は、時計塔の上にたって、遠い野原へ目をこらした。


 森を背にしたテントが、リボンをほどくようにしゅるっとほどける。

 その中から、真っ赤な飛行機が飛びだしてきた。

 透きとおって響く少女の歌が、プロペラをまわしているらしかった。


 ヨルが、とがった歯をのぞかせて笑う。

「じょうずにやったね、ふたりとも。けど残念、メリーは留守だったよ?」


 ケープをなびかせた少年は、一瞬で青年の姿に戻った。

 笑みの消えた横顔が、星空に白くうかびあがる。ヨルは色のない声でつぶやいた。

「……どこよりも安全な場所に、いる」




「キッド、ルシア、よい旅を! メリーによろしくと伝えてくれ」

 ふたりを見送った旅人は、帽子をとって、目もとを隠していたマスクもひきはがす。

 たてがみみたいな金髪に、凛々しく青い瞳。

 彼こそは、レオール王国の第一王子・ハーティスだ。


「さて、私はこの夢の主を探すとしよう」 

 テントはほどけて、観客も団員も、みんな消えていた。

 草むらにむきだしになった舞台をゆっくり歩き、考える。



 あやしい少女は、サーカスの団員をよそおい、メリーのこんぺいとうを騙しとった。

 心配性の弟・ジェシオの部下かと思ったが、どうやら違うらしい。

 そこで気になるのは、さっき目にしたライオンたち。

 情けないほど小さくなって、檻につめこまれて、弱々しく鳴いていた。


「夢の主は、ライオンを…… わがレオール王国を手なずけたいとみえる。となれば、うたがうべきはただひとつ」

 ハーティスは、キッと顔をあげる。

 暗がりにむかってするどく手を差しのべた。

「姿をあらわせ。竜の国・ドラゴニアの手先よ!」



「あたし、うしろですけどー」

「おお、そちらに!」

 王子が焦ってふりむくと、すらっとした女の子が両手を広げた。


「あーあ、こんなおっちょこちょいに助けられるなんて。

 けど、いちおうお礼を言うわ。変なことになって困ってたから」

 砕けた口調の彼女は、元気なそばかすに、燃えるような赤毛。それに、ギラッと大きい緑の目。


 ハーティスは、きびしいまなざしを返した。

「ドラゴニアはなにを企んでいるのだ? メリー・シュガーに危害をくわえるなら、この私が許さない」


「あたしは奇跡がほしいだけ……

 そう怖い顔しないで、ハーティスさま。せっかくの美男がだいなしですわよ?」


 からかうように笑った少女は、あっという間にいなくなってしまった。

 それと一緒に、まわりの景色もうすくなっていく。

 王子はホッと息をついた。

「彼らはメリーに会えたのだな。サーカスの夢が、ようやく覚める……」

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