今、襲撃と共に成長を II
もっと敵や、自分の成りたい状態を鮮明に想像しないと自分のものにはできない。
「そう、もっとイメージして! そしてその戦闘をイメージしながらシャドーファイト!」
かれこれ三日連続同じ鍛錬の繰り返し。 筋力が無いわけじゃないけど休憩ほぼ無しで、イメージした相手との戦闘は自分の経験を底上げしていたと思う。
場所は裏庭、トンネル、廃墟色んな所でイメージで戦った。 ローナには黙って。 でも多分気づいてると思う。
その間毎日奢ることを約束してカインは酒場の見張りをしてくれている。
戦闘の型が身に染み込んで来た時次の課題にぶつかる。
「よし、じゃあ次は木とか物体に向けて攻撃してみよう!」
レイアは何故かいつも俺の特訓となると上機嫌になる。 廃墟のコンクリートで固められた柱は確かな練習台になった。
打ち付ける度空気でやっているものとは訳が違う痺れのような痛みが身体を襲う。 最初の方はめげそうになるも、レイアの叱咤激励によって何とか自分を奮い立たせることが出来た。 一日目は、普段の倍の血豆と擦れ傷が出来た。 それなりに手も硬くなってきていた。
物理に攻撃する特訓を始めて四日目には、既に一撃でコンクリートを壊せる程の力はついて手も思ったよりも分厚くなっていた。
レイア曰く、能力に身体が急速に成長しているからこれからどんどんとガタイが良くなってくるとの事だった。 元々ひょろひょろでは無いが細身で身長もさほど高くなかったが、最近は成長痛で寝ても関節が痛い。
「じゃあ明日は久しぶりに体を休めよう!」
「わかった」
久しぶりの休息は一歩も動きたくない気分だった。
だが運命というのは残酷で残忍で最低なクソッタレだって思い出させてくれた。
──村の前には、隣村が襲撃を受けたことを聞き高レベルの攻略者が防衛線を張っていた。
その中にはカインの兄であるアベルも居た。 全員の平均レベルは四十超している。 並大抵の襲撃、野盗などの奴らでは返り討ちに会うだけだろう。
近隣の村の中で強い者が集まる村、皆タカを括っていた。
カインはローナと一緒に買い物に出かけていた。 レイアは一人で街の散策をしていた。 それぞれがバラバラになっていた。
「来たぞ!」
砂埃を巻き上げながらその集団の全容は明らかになる。
それは二輪駆動。 新型の二輪駆動を使う国家はたった一つしかない。 村人達は一瞬にして死を悟る。 殺るか殺られるかの戦いに身を引き締め、一人は伝令に村に入り声掛けをしていく。 男には招集を、女、子供には隠れるように老人には逃げるように指示を出す。
束の間、それは起こる。 全速力で進行する鋼鉄の二輪駆動には人は本能で抗えない。 容易く村への侵入を許してしまう。
十人の村人は五人の敵兵を囲む。 流れ込んだ者を追うように他の人も村へと入る。
「この村に何の用だ、リベリオン兵」
「用? ねぇよ、んなもん。 ただお前らの村は蹂躙されて終わるだけだ」
村長の一声はその村全員への警報。 怒号のような大声は村に響き渡る。
「ーーーー戦闘準備!! 死ぬな!!」
その掛け声と同時に鉄と鉄がぶつかり合う激しい音が耳に響く。
アベルは1対1でリベリオン兵を食い止めていた。
「守護の御使い。 事の柱。 三本の誓は我が身体に」
その台詞と共に身体から触れられざる光の壁が現れ、相手の攻撃を一切受けなくなる。
「へぇ、あんたかなり強そうだな。 腕の鳴らし甲斐が有る」
リベリオン兵は肩を回すと紫色の光と共に右腕が激しく膨れ上がる。
「あんた、このスキル知ってるか? 名前を【光の暴食】って言うんだけどな」
アベルは一気に警戒し距離をとるも一瞬で詰め寄られてしまう。 光の信徒と闇の使徒では相性が悪過ぎたと言うべきだろうか、アベルの呪文は光の信徒のみが扱える者。 対極に位置し、闇に対抗する光の信徒の唯一の弱点である闇の使徒の特別スキル【光の暴食】は、全ての光をくらい尽してしまう。
「遅せぇ」
ニヒルな笑を零し一瞬にしてその光の壁を突破しアベルの心臓を貫く、血反吐を吐きアベルはそこに倒れてしまう。
「こんな奴らしか居ないなら二十人でも充分だったなぁ、おい」
アベルが対峙していたのは、リベリオン兵の分隊長だった。
そのリベリオン兵がアベルの元を離れ次の標的に向かっていくのをアベル自身が確認し先程とは違う呪文を唱える。
「御使いの光よ。 疑似の身体を以て。 我を再起せよ」
貫かれた部分は光出し血を止める。 辛うじて動ける程度だがアベルはカイン達の元へと急ぎ向かう。
カインはローナを建物の物置に避難させる。 不幸な事に装備を持たずに外に出ていた。
だが建物を壊すように大柄な男が扉を破って入り込む。
「ここにも。 居た」
大柄な男の振り上げた拳はカイン目掛けて飛んでくる。 しかしその大振りな叩きつけるような拳を瞬時に交し相手の後ろへと回り込むカイン。
その振り上げられた拳が叩きつけた場所は大きく凹み潰れていた。 カインは後ろに回り込むと手から擬似的に剣と盾を作り出す。
そのスキルは曰く、神ブローディアの者というより武器の神タレイスのスキルに近いだろう。
その名は【右手を剣に、左手を盾に】
名の通り右手は剣のように鋭くなり斬撃による攻撃が可能。 左手は盾のように一定のダメージを受けなくする。
大柄な男は身体大きいこともあって動きはのろく後ろを振り向く間もなくカインに首を落とされてしまう。
「ローナ、そこで隠れてろ!」
終わったのか確認するようにローナは物置から出てこようとしてしまう。 その大声で周りの敵を呼んでしまうとも知らずに。
レイアは一人で複数のリベリオン兵と対峙していた。 純粋な力技で何人もの男を戦闘不能にしている。
圧倒的な絶望的状況。 俺は二階の酒場の窓から覗き状況の確認をしていた、窓の外からカインがリベリオン兵に囲まれているところを目にしてしまった。
「クソっ」
居てもたってもいられず悲鳴をあげる体を無視して部屋を出る。 階段が軋む音が階段側から聞こえてきた。
おかしい、こんな時にこの酒場に来ることは。
予期していなかったわけじゃない。 ただ余りにも突然の事で身体は竦んでしまう。
「あぁ? んな所に隠れてやがったのかガキが」
しかし直ぐにその体の竦みが解消される悲鳴が外から聞こえてくる。 明らかにローナの悲鳴。 その悲鳴と外で今何が起こっているか分からないことが自分の焦りを生む。
「さてこのガキを殺して他の奴らも殺して次の村にいかねぇとなぁ」
あまりにも不気味な笑みが薄暗い廊下からチラつく、しかしそれ以上に身が昂っていた。
「……けよ」
「あ?」
「どけって言ってんだろうが!!」
自分でも自棄を起こしたのかと思うように言葉を殴り捨て、その男の元に走り込む。 男もそれに合わせるようにこちらにナイフを突き立てながら走り込む。
「ははっ!お前いい度胸してんな雑魚が!」
既の所でその刺突を交わし相手の顔を鷲掴みにする。 その後顔面が潰れるほどの勢いで相手の顔を地面に叩きつける。 もちろん一瞬で相手は戦闘不能になってしまう。
「うるせぇよ……。」
腸が煮えくり返る様な気分だった。 街の外に出ればそれは地獄絵図だった。 逃げまどう子供を追いかけ殺す者、女を犯し殺す者、無数の阿鼻叫喚が昨日までの村を見る影もなく姿を消していた。
──村の遥か外で、着物の和服姿に腰に打刀、背中に大太刀を背負った右側の髪が黒、左側の髪が白の灰色の目をした耳の尖った少女が屈伸などの準備運動と呼吸の調整をしていた。
相当の速度で刻まれる呼吸はまるでアドレナリンを出す様に体の温度を上げていた。
「よし! 身体あったまった! 準備よし!」
まるで無邪気な子供のようにハニカム笑顔をした。
耳栓をし、腰にある刀に手を添え左足を下げる。
だが突然少女を取り巻く空気、否、雰囲気がかわる。
「ーーーー絶刀・一閃
連なりーーーー」
それは刹那。 初動から人が反応できる速度零点五秒を優に超える音速の六倍の速度で村の方向へとその場から姿を消した。