今、襲撃と共に成長を
酒場の裏口の庭、その裏口を照らすランタンの下でカインはレイアを待っていた。
「悪いな、呼び出しちまって。 レックスの事で話があってさ」
「ちょうど私も聞きたいことがあったんだ」
話を譲り合うかのように手をお互いに差し出す。 無言で、そのやり取りは約30秒ほど続いた。 先に折れたのはカインの方だった。
「……じゃあ俺から。 レイアさん、貴方はレックスの何なんだ? まだ来て二日だが、妙にレックスに肩入れしている気がする。 別にやめろとか言う訳じゃないが旅人のあんたがレックスに肩入れする理由が知りたいんだ」
「私は才能を見る力があるんだ。 彼はいずれ強くなる、それをさらに早くするためにアシストしているんだ。 それに彼をこの外に連れ出してもあげたいしね」
カインは少し考えるような素振りを見せる。
「……それは難しいと思う。 レイアさんが強いって言ってもローナがレックスを外に連れ出すことを容認しないと思うしそれに……」
「それは、レックスが今まで弱かったからローナは心配して出したくないんだろう? でもさっきの出来事で少なからずみんな心境の変化はあったはずだ」
レイアは少なからず全員の心境に変化があると見抜いていた。 それはローナの容認やカインの今の行動。
そして何より戦闘時のレックスの性格の変容ぶりだ。
「あぁ……確かにレックスはレイアさんと一緒にいたら強くなるかもしれない。 でもな……、一つ俺たちの昔話を聞いてくれるか」
”どうぞ”というようにレイアは目を瞑る。 鈴虫のようなちりりとした音が静寂の中微かに聞こえてくる。
その昔話はレックスの幼少期。
「まだレベルの差が三人に無かった時の話だ。
──当時のレックスは今のように、真面目ではなく、どちらかと言うと俺の性格に近いような天真爛漫さとリーダーシップを持っていたんだ。
「カイン、ローナ! おっせぇぞ!」
「ちょっと待てよレックスー、足はやすぎだろ……」
そんなレックスは俺より遥かに強かった。 チャンバラをしてもいつも負けるのは俺だった。
「俺はめちゃくちゃ強くなってみんなを楽させてやりたいんだ、だから二人ともついてきてくれるよな?」
「もちろん」
三人はいつも一緒にいて、仲良し三人組と言われていた。 そんなレックスがローナは好きだった。 友としてなら俺も好きだったと言える。
だけどそんな日々でどんどんとレベルの差が開いていく。
次第にレックスは塞ぎ込むように俺達とは遊ばなくなっていった。
それでもレックスは強くなることを諦めちゃいなかった。 勉強して知識をつけて色んな事にチャレンジしていった。
でもローナは違う。 昔のレックスも好きだが、レックス自体が好きなんだ。 だからこそ失いたくないんだろ。 俺は正直、今のレックスより昔のレックスに戻って欲しいって思ってる。
だから今日、あいつが昔のレックスに戻った気がして少し嬉しいんだ。 あいつ酒飲むと昔のレックスに戻るから、多分今のレックスは自分を抑え込んでるだけなんだと思う」
静かにその話を聞いていた。 レイアは背を壁につけて星を眺めた。
「なら今日、元のレックスが見れるって訳ね」
「あぁで、レイアさん、あんたの話は?」
「いや、聞きたいことは聞けたからもう大丈夫。 それよりトイレと言って来たんでしょ? なら早く戻らないと怪しまれるよ」
カインは慌てて酒場に戻り、後を追うようにレイアも酒場に戻る。
いつもの呑んだくれ達が次々と来店してきて、いつもの賑わいを見せる。
「おっ!? なんだよ!今日はレックスも飲むのか?」
「まぁ、少しだけな」
そこからは色んな人に飲まされ食わされどんちゃん騒ぎ。
「俺は、みんな好きなんだよ! ついて来いコノヤロウ!!」
来ていた服を脱ぎ振り回し始めるレックス。 まるで宴会のように笑いが絶えない空気は酒場いっぱいに拡がっていた。
レイアはレックスの代わりに酒場のホールをしていた。
「ごめんねぇ、レイアさん。 手伝ってもらっちゃって」
「レックス、あんな風にはしゃいで笑うんだね」
ローナは少し寂しげな顔をしていた。
「うん、そうだね」
呑んだくれ達は徐々に減っていき、カインとレックスは突っ伏すように呑み倒れしていた。
また日が登りレックスは起きる。 カウンターの所に紙があった。
『二人共、お風呂沸かしたから入りなさい ローナより』
そういえば冒険に出て三日風呂に入ってなかった気がする。
すぐさまカインを起こし、厨房の裏手にある風呂場に向かう。 朝風呂はカインの目をしっかりと覚まさせ、さっぱりした俺はカインを家に帰し、酒場の清掃をしていた。
するとレイアが二階から降りてくる。 実は少し頭がフラフラする。 二日酔いだ。
「おはよう」
「おはよう、今日酒場が始まるまで、前言った事やるよ」
頭がガンガンするのに考えることなんて無理だ。
「いや、今日はちょっと頭が痛くて」
少し笑を零し、自慢げに背後から何かを取り出し見せつけてくる。
「そう言うと思って事前に二日酔いに効く胃腸薬もらってきてるんだ。 朝ごはんは私が作るから飲んで少し休んでて」
薬を飲みしばらく机に突っ伏しているとちょうどが運ばれてくる。
ベーコンとレタスと卵とチーズを挟んだサンドイッチだ。 あとは大量の水と砂糖。
何でも糖分とミネラルの摂取は二日酔いに効くんだとか。 あとは栄養面を考えてサンドイッチで失った体力を取り戻すためらしい。
たしかに普段の朝食より上手く感じた。 それに二日酔いも段々と落ち着いてきたような気がする。
「ありがとう」
「お礼はいいから特訓しましょ」
すっかり忘れてた。 まぁ朝食を作ってもらったお礼に少し付き合う事にした。 でもこれは俺の成長の為にしてくれてることではあるんだけど。
「えっと、何だっけ」
「だから"今、自分の能力は自分の現時点で持ち合わせてるスキルを見ること"つまり、TRPGの時のステータスとかを見るような感じ」
イメージ、思い込む。 いやそんなんじゃ足りない、もっと奥深くのもの。 元々全員見れていたものであると考えてみる。 TRPGでステータスを作れたように。
するとイメージがより鮮明に浮かび上がり自分の現時点の能力が映し出された。
「これが俺の──」
「そう! これがレックスの今の強さ。 でもこのイメージできたという進歩はかなり大きい」
・不運 A+(可変)
・リーダーシップ E(可変)
・天真爛漫 E(可変)
・剣術 D(可変)
・逃げ足 A(可変)
・努力 A(不変)
・解析 B(可変)
・研究 B(不変)
・不屈 A(不変)
・想像能力取得 SS(不変)
・熟練度制 SS(不変)
・レベル喪失 SS(不変)
・立体戦闘D(可変)
にしてもこの不運がA+なのは酷い。
「あっありがとう」
引きつった笑いしか出来なかった。
「さて、これからどんな能力を欲しいか決めてる?」
「あまり思い浮かばないんだよ」
「まぁあの化物を倒した自分を今の自分に重ねてみればいいんじゃない?」
それは、俺が現実では手に入れることが出来なかった強者のステータス。
確かに思い込むことで、レベル差はあれどあのカインと互角に近い戦いができた。 もしもっと思い込んであのステータスを俺だと思い込む事が出来たなら、それはカインを超える強さを手に入れたということになるだろう。
何の突拍子もなく不意にレイアは友達がこの村に来ることを伝えてきた、その時は軽く話を受け流していたが自分の人生のキーパーソンになるなんてこの時はまだ知らない。
それから約六日後、思い込む特訓の成果で俺はあのTRPGのステータスに近い強さを得たと思い込んでいる。 勿論、ステータス上でもその強さを持っていた。
これならあの時みたいに──
「おい大変だ! 隣の村がリベリオン兵に襲われてる!」
それは突然起きた爆発。 ダナ森の奥から上がった狼煙。
──村は焼かれ男や老人は殺され女は陵辱され、子供は逃げ隠れた。
「後村は二つか」
約四十人程のリベリオン兵はバイクに跨り陸路を高速で移動していた。
その次の標的となる村はレックス達がいる村だった。