今、友と共に遊戯を II
目を瞑りその場所をイメージする。 暗く狭い部屋に居る。
「皆さん目星を振ってください、1D100です」
目星とは、今見ている情景を自分がどの程度理解し、見えているかを知る為のスキル。 1D100とは一個のダイスで百面の物を振ると言う意味。 最も百面のダイスがない時は十面ダイス二個を使う。
目星は事前にステータス振りで、予め割り振っておく。 俺の場合は25と低めだ。 最低値は10なのでそれ以下を下回ることは無い。
それぞれダイスを振り、全員が自分のステータス以下の目を出す。 それは成功の意味を指す。
「皆さん成功ですね、ではこの部屋には自分含めて五人居るようです。 暗いですが次第に目が慣れていきます。 ただ何故ここにいるのかの記憶はありません。 ここで幸運1D100を振ってください、成功した人の装備はそのままです。 失敗した人は1D6を振っておいてください」
指示通りダイスを振る、まだ楽しさがあまり分からない。 カイン、ローナ、アベルは失敗。 俺とレノアは成功した。 幸運は30振っていたから良かった。
「失敗した人で六面ダイス振った人は以下の物が無くなります」
レノアはテーブルにある紙を置いた。
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1.武器などの装備が無くなる。
2.防具などの装備が無くなる。
3.衣服等の装備だけが無くなる。
4.持ち物が全て無くなる。
5.武器と防具の装備が無くなる。
6.衣服や武器、防具、持ち物全てが無くなる。
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6だけ圧倒的に不利。 そしてまさかの6になったのはローナだった。 カインは2、アベルは4。
「それでは、話し合いを始めてください」
その合図と共に、全員が話始める。
「まずは自己紹介をしましょう」
ローナが仕切り始める。 俺は何言ってるんだ? 記憶本当に失ったのかと心配した。
「いや、何言って──」
レイアが耳打ちをしてくる。
「皆、記憶が無いフリをしてるのでレックスもしてください」
そういう事か。 演技をする、まるで本当にそこにいるように振る舞う。
全員が自己紹介を始め、記憶が無いことを伝える。 そしてローナが一言。
「なんか肌寒くないですか?」
思わず全員失笑してしまう。 そりゃ裸なんだから寒いのは仕方ない。 裸である事をカインはローナに伝える。
「服くれよ」
俺は自分の荷物にある布を取りだし、とりあえずの服代わりにさせた。
──それからはその部屋を出て、何故ここにいるのかの謎を突き止めていく、その道中に奇妙な人影が現れる。
「四足歩行で走ってくる明らかに目がおかしく、まるで獣のような顔をした全裸の男が襲ってきます。 SAN値チェックをしてください1D50」
SAN値チェックとは正気度が減るかどうかと言う数値のチェック。 確かに現実で居たら恐ろしくて逃げてしまう。
全員がSAN値チェックを終え、一人だけ正気じゃなくなる。 それはローナだった。
「不遇過ぎるだろ」
カインは思わず吹き出してしまう。 それもそのはず、ローナは衣服がないだけではなく、道中の罠に引っかかる商人に騙される等の不幸とも言える散々な目に会っているのだから。
「では、ローナさんは1D6を振ってください」
ローナはダイスを振る。 出目は3。
「3はえーっと気絶ですね。 戦闘シーンはローナさん抜きですね、はい」
だがここで一番不幸なのは俺達だ。 ローナは不幸ではあるが、何故か戦闘は成長する事を知らず、この五人で一番強いのだから。
その成長とは、ダイスの出目が5以下の時に発生するクリティカルとその後の成長判定で失敗する事が条件で成長が出来る。 そして成長とは真逆の致命がある。
それはダイスの出目90以上で起こるもの。
戦闘シーンで何とかその獣の様な男を倒し、俺はこの戦闘で幸運にもかなり強くなる。
その後の流れはこの場所からの脱出と戦闘を繰り返す。 ただ、確かに想像力はかなり鍛えられたと思う。
昼時になりTRPGもその章は終わった為、休憩がてら昼飯にする。
昼飯後もTRPGをし、三回やった頃にはもう夕方だった。 そして場面は最終局面、ラスボスとの対決にまで迫っていた。
この章で終了であり最終局面の時、一番強かったのは何故か俺だった。
逆に一番弱かったのはカインと言う現実とは真逆な状態だった。 その最終局面で敵の情報を伝えるべくカインは目星で敵の偵察をする。
「目星で成功したので情報を公開します──それは黒く目が赤いまるで化け物、そんな一言では語る事もできない容姿をしたおぞましいものでした。 タコのような口、甲殻類のような爪ヌメヌメとした体が淡い光で確認できます、今回かなり戦闘を積んで内情も理解している皆さんなのでSAN値チェックは無しです」
その情報をカインは全員に伝え、戦わなければ帰れないと言う理由でその化け物と相対する。
5Rで俺以外の全てが致命で倒れ、俺もあと一度攻撃を受ければ倒れてしまうそんな危機的状況。 しかしその化け物もかなりのダメージを負っている様子。
「ではレックスのターンです」
恐らくこれが正真正銘のラストアタックになる。 そこでダイスが出したのは
”一”
クリティカル。 そして成長判定もクリアし最後の成長度も最大レベル。
確実に勝った。 相手に80のダメージが入る。
──しかしそれはまだ蠢いている。
「致命ダメージは入りましたが、昏倒しませんでした。 そして化物のターンに移ります」
──終わった、確実に全滅だ。
「40のダメージが入ります、回避判定します」
諦めるな。 ここで回避出来ればまだ可能性はある。
「──回避成功。 6ラウンド目、レックスのターンです」
そしてゲームは終わった。 TRPGは現実とは全く違う新鮮味を与えてくれた。
「いやぁー、盛り上がったなぁ。 しっかしレックスめっちゃ強くなってよぉ!」
確かに少し嬉しかった。 しかし同時に虚しさが湧いてきた。
それは現実との格差が押し寄せてくる。
「まぁこのゲームだけの話だし……」
「レックス、一回カインと闘ってみたら?」
レイアは何故かカインと闘うように仕向ける。
「おっ、いいねぇ! さっきのボス倒したのレックスだし、いっちょやってみようぜ!」
首を横に勢い良く振る。 無理無理、絶対無理。
「大丈夫だ、あの化物と比べたらカインなんて弱く感じるでしょ? 自分を信じれば勝てるさ」
レイアに背中を押され渋々闘うことになってしまう。 審判はレイア、木刀による試合。 どちらかが負けを認めるか審判が辞める迄闘うこと。
酒場の庭を使って試合が執り行われる。 結果は見えているが、全力でやらなきゃ男が廃ると直感する。
「それでは──始め!」
カインは開始の合図と同時に大きく踏み込み懐まで一気に詰寄る。 そして斜め下からの斬撃。
ギリギリの所でその斬撃を防ぎ、勢いで吹っ飛ばされるも、木に足がつく。 なんだろう、いつもより身体が軽く熱い。
「へぇ、一回もこう言うこと無かったから楽しめそうだなレックス!」
「ガキの頃よくやってただろチャンバラくらい!」
木の側面を踏みたいにして思いっきり突進と突きを行う。
難なく避けるが足元が少しふらついた瞬間を見逃さずに、振り上げるように木刀をあげる。
カインは驚いたようにバク転でその振りをかわす。
「お前、そんな強かったか? レベル1とは思えないぞ」
正直俺もびっくりしている。 身体が熱いだけじゃなくて自分が想い描いた戦闘が出来ている。
「俺も正直驚いてるんだ!」
踏み込んだ瞬間地面が割れ足元をすくわれる。
その隙をつかれ喉元に木刀が向けられた。
「ま、参った」
木刀をおろし手を上げる。 カインはそんな俺に手を差し伸べて立たせてくれた。
「レックスめちゃくちゃ強ぇな、びっくりしたよ」
「今それ言ったら嫌味だぞ」
アベルやローナもびっくりした表情で近付いてくる。
「本当にびっくりした、まさかカインと互角に近い戦いをするなんて」
「いや、防御系特化のカインにも攻撃では勝てなかったんだよ。 ローナ」
神ブローディアのスキルは基本防御系。 だから攻撃系は不向きだと考えた。
そんな自分の謙遜を援護するようにアベルは俺に拍手をおくる。
「そんなことは無いよ、カインは防御系のスキルを持ってはいるが、基本攻撃主体のタンクなんだ。 それに攻撃を利用した立体的な戦い方はそうそう出来るものじゃない」
まさかそんなに誉められるとは思っていなかったから照れくさかった。 カインは俺と肩を組み笑顔で酒場に連れていく。
「ローナ、悪いけど今日はレックスと酒飲むから」
「まぁ、今日はいいよ。 でもレックス、明日から馬車馬並に扱き使うからね!」
明日からが億劫になると感じる。 溜息をつき肩を落としてしまう程に。
「レックス悪い、ちょっと小便」
「あぁ、分かった」
もしこれがレイアの言っていた思い込む力だとするならば、もしかして──
そんなことを考えていた時、ふと目線を上にあげると酒場の窓から裏庭にいるカインとレイアの2人が見え、何やら話しているようだった。
「悪いな、呼び出しちまって。 レックスの事で話があってさ」
「ちょうど私も聞きたいことがあったんだ」