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今、神と共に反逆を  作者: 天乃 ロガ
始まりの話
2/21

今、神と対話する

 ──星暦8865年 初春。

  世界に20カ国ある。 ここは神ブローディアが作った西側にあるダリオス国。


  その中央区より馬で4日ほど離れた村のこのバーニル酒場で、多忙な日々を送っていた。


  朝日が昇る前に起き、荷馬の世話、酒場の掃除、買い出し、接客、飯、接客、就寝。

  休み以外は全てこの日常だ。 この世界で働けるだけマシとも言える。


  大半は攻略者となり大金を稼ぎに向かって帰ってこないか遊んで暮らすか。


  人の作った法律はなく、法や秩序は国ごとにそこの神によって決められていた。

  神が実体化してから千年。 俺は未だに神を信仰できずにいた。 理由は今まで会ったどの神も真摯に話を聞いてくれていたのに俺の家名"ストゥルトゥス"と聞いた途端に「穢らわしい。 貴様に家名を与えたとて恩恵は末代まで与えん」と言われる程に嫌われている。 だから名前を捨ててまで神を信仰しようとは思わない。


  両親の知り合いが営んでいる酒場で、幼い頃に両親を盗賊によって亡くした俺は、この酒場でお世話になっている。 居候と言うやつだ。


  酒場の手伝いをしながら、憧れの攻略者になってはや四年。 あの頃から一切レベルが変わらない。

  攻略者に憧れたのは単純で、強くなりたいから。


  神に仕えればその恩恵を受ける事が出来るけど、その代わりに家名も捨てなければならない。 ほとんどの人は使えている神の名前が家名になっていて、むしろなってない人の方が珍しい。


  昼に酒場は開店せず、強いていえば泥棒が来ないようにする見張りだろう。

  "自分の身は自分で守れ、他人に頼るな"がこの世界だ。


「よぉ!レックス!元気かよ」

「カイン……どうしたぁ、まだ営業時間外だぞぉ……」


  酒場のテーブルで怠惰に突っ伏し、気だるそうにしているとカインがやってきた。


  昨今は更に少子化が進み、この街では俺と同じ16歳の人は4人しか居ないため珍しい。

 

「おいおい、つれねーな。 同い年の好だろ?」

「要件はなんだよ」

 

  昔からコイツは毎回ろくな事をしてこない。 5歳の頃虫をサンドイッチの中に入れて食わせようとするバカヤロウだ。 そんな奴でも12歳でレベル18になったスゴいやつだ。 レベルは基本的に自分の年齢と同じであれば普通と言われている。


  だが残念な話、俺はレベル1だ。 よく生きてられたものだが運がいいのかもしれない。


「まぁそんな怖い顔すんなって、お前にとっても悪くない話なんだしさ」

「何だよ」

「最近最初級の洞窟が作られたの知ってるか?」

「あぁ、らしいな。 ギルドでも"誰が行くんだよ"って言われてるってのも聞いてるけど」

「実はこの近くなんだわ。 俺と一緒ならお前も死ぬ事もないだろうし」

 

  俺がレベル1なのには不運だったとしか言い様がない理由がある。 横取り、カウンター、滑落。 あらゆる不運が重なって魔物を倒せないでいる。 生きてこられてるのは幸運だが、レベル1なのはとても不運だ。


  この世界のレベル上げは簡単で、魔物や攻略者を倒して経験値は貰える。 しかし、倒すまでの過程や方法はどうでもよく、あくまで素手や能力で倒したもののみが経験値を得るため、敵の自死や誰かの漁夫の利、事故でやられてしまえば自分のものにならない。 因みに剣を振って殺したとしても、能力では無いのなら経験値にならない。

 

「お前にメリットはあるのかよ」

「たはっー! ねぇよ!ただ同年代の好でレベルアップ手伝おうって話じゃねーの」


  とてつもない笑顔で肩を叩いてくる。 こういう時のカインは何かを隠してる事が多い。


「どうせ、つぎ酒場に来たら奢ってくれとかそんな理由だろ」

「まぁ、それもある」

  にんまりとした無邪気な笑顔でピースサインをしてくる。 こういう無邪気さが憎めないところでもある。


 時計の秒針がカチカチと音を鳴らし、時間が過ぎていくのを伝える。


「今から行くのか?」

「さすがに今からは酒場のおやっさんに怒られちゃうだろ、だから明日とかどうだ? 確かお前の休日だろ」

「なんで知ってんだよ。まぁ、明日なら予定ないしいいか」

「決まりな。 じゃ明日鐘が12回なった時に南口で」

「あいよ」


  カインは結局その日の営業時間に顔を出さなかった。 体調作りか、女性と遊んでるかだろう。


  夜、次の日の荷造りをしていると、貸してもらっている宿のドアをノックする音が聞こえた。

「はーい」

「レックス、あんたまた攻略しに行くの?」

「げっローナ。 何しに来たんだよ」

  このバーニル酒場の一人娘で俺と同い年のローナ。 昔から口うるさく、何かあるとすぐ言ってくる。 歩くスピーカーだ。

  このローナでもレベル14はある。


「"何しに来たんだよ"じゃないでしょ。 あんたがまた攻略なんてしようとしてるから止めに来たんじゃない。 レベル一何だから大人しくお皿洗いでもしてた方がいい、命を奪われる事ないんだし」

「悪いけど、レベル一で逃げ出すほど俺は弱い人間じゃない」

「あんたくそ弱いじゃない。 変なプライド捨てなさいよ、命取りになるから」


 図星でぐぅのねも出ない。今更同レベルを倒した所でレベルが上がる訳でもない。


「明日が最後にするから、もう寝るよ。 おやすみ」

「死んじゃっても知らないんだからね!!」


  戸を閉めてローナを追い出す。 心配してくれて居るのは嬉しいがレベル一で人生が終わるのはいただけない。

  しかし明日行くところは魔物のレベルが1と2しか出ないと言われている最初級の洞窟。 流石に死ぬ訳……ないと思う。


  約束通り南口で待っていると剣の装備意外なんの荷物も持っていないカインが眠そうに歩いてきた。


「おはようカイン」

「おう、おはよう」


  気だるそうにカインは右腕を上げた。


「その洞窟ってどっちだ?」

「ダナ森の手前に洞穴あったろ。 ガキの頃よく遊んでたあの閉ざされてた洞穴。 あそこ」


  近場の森のダナ森、その街側に奇妙な洞穴の近くで幼い頃よく遊んでいた。 まさかあそこだったとは思いもしなかった。


  その洞窟までは歩いてさほど遠くない。せいぜい20分くらい歩けば着く程度だ。

  その道中、ようやく頭が起き始めたカイン。


「ん? あれ!? 俺、荷物は!?」

「最初から持ってきてなかったぞ」

「まじかよ、嘘だろぉ、飯抜きはさすがにきついって、レックスゥ……飯ィ」

「洞穴の入口に着いたらな」


  カインは子供の頃から朝に弱い。 反して俺は朝に強かった。 満面の笑みを浮かべているカインを見ると、本当に無邪気な奴だと思う。


  程なくして洞窟の入口につき、腹拵えに持ってきた弁当を二人で分け合う。

「サンキュー! このサンドイッチめちゃくちゃうまそー」

「そりゃ、どうも」


  しばらく黙食していると、空を見上げながらカインは俺にふとした疑問を投げかけた。


「そういやなんでお前、神に仕えないんだよ? そうすりゃレベルなんてすぐ上がるのによ」


  最もな意見だった。 恩恵は神からの賜り物だし、主神を持っていないからこそレベルが上がりにくいんだと思う。 それは分かってる。


「……なんて言うんだろうな、今の神様達の考えとか教えとか合わないんだよ」

「例えばどんなだ?」

「カインの神様、ブローディア様の教えを要約すると"自分を盾に"だろ?」

「まあそうだな」

「それを家名変えた時に意識統一しなきゃいけないってのがな」


  これは心に残る痼のようなもの。 何故か今の神様は信じる事が出来ない。 それなら生にしがみつく方がマシだと思える程に。


「まぁ、昔の神様は放任主義で、干渉せず姿も魅せなかったそうじゃないか。 そんな胡散臭いのより見えてた方が何倍もマシだとは思うけどね」


  宗教の話は怖い。 その価値観は本人の意思とは反していても浸透していくし溺れるように飲み込まれてもいく。

  信じるのを辞めるのが怖くなる。 失うものと非難が大きくなると考えると身が震えるなんて話はよく耳にする。

  家名を変更すると言うリスクと未来永劫結婚するまではその考えから逃れられないのもリスクだ。


  この荒廃した世界では、縋るものが神か己かしかない。

  もし、神以外のものが宗教じみた事をすれば神が直々に粛清に来るだろう。 この世に存在しているのだから。


「おし、元気でたわ。 サンキューサンドイッチくん」

「俺には礼をしないのかよ」

「それはこの手助けの前払いだと思ってる」


  荷物から松明を取り出し火をつけ、カインに渡す。

  腰に携えた剣を抜き、カインは洞窟に向かう。


「俺が先行して様子を見てくる。 明かりで足元が見える程度で着いてきてくれ」

  ゴクリと固唾を飲む。 戦闘や探索などは俺より数倍も経験があるカインの言う通り少しずつ後を追う。

「わかった」


  入口のあかりがちょうど見えなくなった坂道で後ろから足音が聞こえる。 それも複数の。


「……え?」


  目の前の光景が、グラグラとしていた。 思考も停止してしまった。

  明かりも何も見えない中、俺が真っ先に取った行動は──


  "逃げる"


  動物も魔物も同じで逃げるものを追いかける習性がある。

  当然追いかけてくる。


  俺は全力で洞窟の坂を駈けた。 後ろには魔物の大軍。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!! ひやァァァァァ!! アベエエェエエエ!!」


  俺は涙目になりながら意味不明な叫びを上げてしまうがその先は行き止まり。 変わらず魔物の大軍は押し寄せてくる。


「おいレックス!! こっちに飛び込め!!」


  小さな脇道に居たカインが声を掛ける。


「……はぁ。 はぁぁぁ、助かった。 サンキュー、カイン」

  俺は汗を大量に流しながら魔物の大軍が去ってくのを待つ。


  嗅覚があまり鋭くない魔物なのか、こちらに気づかずに通り過ぎていく。


  魔物が散り散りに分散し脇道から見える範囲に居なくなった。

「よし、そろそろ行くか?」

「待てレックス」

「なんだよ」

「この道の奥に奇妙な扉があってな」

「出口か?」

  「いや、にしてはなんというか……」


  カインは言葉を詰まらせていた。 出口では無いが何故か俺の心は酷く高鳴りをしていたのを覚えている。


「ともかく見た方が早いと思う」


  目算5mはくだらない程大きく禍々しい見た目をした石の扉。


「何だこれ」

「俺はこれに似たやつを何度か見た事があってな。 扉に見えるが全く開かないんだ。 推しても引いてもあかないから飾りみたいなものだろうさ」


  確かに扉には取手のようなものが付いてはいるが大きさからして人間用ではないのは分かる。

  それよりも最初級と言われたこの洞窟で起きたさっきの出来事を思い返す。


「そういえばさっきのやつ、あれはなんだったんだ? 他の所でも起きるようなものなのか?」


「グッドラックモンスターフェスだよ。 魔物が発生するどの場所でも超低確率で起きるイベントで、魔物もレベルがランダムな上に高確率で高レベルが大量に出現する。 そのイベントに当たれば帰って来れないって言われてる奴。 レックスいつも何読んでるんだよ」

「あぁ、そういえば確かにそんなのがあったような。 ん?この扉の前にある石版、何か書いてない?」


  大きな扉の前に人が見るサイズの石碑があり、そこには文字が書いてあった。


「なぁレックス、これはなんて書いてあるんだ?」

  それはこの時代のこの地の言葉ではなく、千年前に使われた言葉だった。


【Gaia sleeps here. Between Tartarus.】


「これは……古代エフェルン語だ、英語とも言われてる言語だよ」

「エフェルン語?亡国エフェルンの言葉か?」


  亡国エフェルンは最後まで神に抗おうとしたと言われてる最後の人類国家。


「いや、古代の人が使ってたとされる言葉だよ、えっと書いてあるのは……、【大地ここに眠る。 冥界の間】って書いてあるね」


  まるで発した言葉に反応したかのように突然地面が大きく揺れ、今まで全く動きを見せなかったその扉が大きく動き始める、まるで誘うかのように扉を開かれた。


  様々な思考が頭を過る。 開いた意味や、なぜ開いたのか。 そんな事を考えているとカインがその思考を壊しに来た。

「……レックス。 お前に強制はしないが、俺はこの中に入りたい」


  攻略者としての本能というべきか、ただの興味本位なんだろう。 額から汗が流れ落ちる。


「死ぬかもしれないんだぞ」

「だとしても見ないで居るよりかはマシだろ?」

「わかんないな、その考えは」

「そうかよ。 なら着いてこなくていいぞ」


  カインは強気でいるが、その手は酷く震えていた。 だけど何故か俺は、そこに恐怖はなかった。


「いや、行くけど」

「来るのかよ」


 そんな冗談交じりな相槌を打ちながら二人で扉の中に入る。 部屋の中央らしきところに差し掛かると突然隣にいたカインは足元から崩れ倒れた。


「おい、カイン!?」


  驚きと動揺が隠せない。 そして瞬時に後悔した。 カインが倒れ込んだ瞬間に部屋の明かりが灯り、その部屋の全容をさらけ出した。



  それは、神聖と言うにはあまりにも邪悪としており。

  それは、邪悪と言うにはあまりにも神聖であった。



  青い炎が揺らめきのぞかせるとても大きな人の顔。 否、神の顔。 それは鎖を巻き付けられ、壁一面を覆い尽くすような大きさの体は身動きを取らせないようにされていた。 まるでその顔は深淵を見据えるかのように息絶えていた。


  ふと気配を感じ後ろを振り向くと、人と全く同じ見た目、だがそこにはいないと思えてしまう空気を漂わせたものがたっていた。 整いすぎた顔は不自然だとも感じた。


「ねぇ、君」


  話しかけられた。 透き通るその声と見た目は、まるで沈むかのようにその一言で惹かれてしまう。


  今まさに起こっていた出来事を忘れてしまうほどに。


「君は、レックス??」

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