今、鋼鉄の国に妹探しを
ジークロードの車はライトで道を照らしながら西側に向かう。
その日の夜は早めに車を停め、まだアレイスのある方向の空が街の明かりで照らされているのが分かる程の距離にいる。
その日も日課のように疲れた身体に追い討ちをかけるようにカグラの動きを追う事、基礎トレーニング、想像力を鍛える事に加え、ジークロードが組手をしてくれた。
「レベル1でもこんなに動けるんだな、すげぇな」
「いや、俺はなんと言うか」
正直ズルしているような気もしていた。
その時にレイアが補足説明をしてくれるようにジークロードに話した。
「毎日鍛錬して、並の攻略者よりも強くなるようにしてるからね」
「そうか、って事はレイアの嬢ちゃんも並の強さじゃねぇって訳だな? しっかしまぁカグラの嬢ちゃんはおっかない動きだなぁ。 俺でも目で追えないのによく追えてるな! レックス」
ノリは故郷の酒場に来てた攻略者達を思い出すようで、懐かしく親しみやすかった。
車で移動し5日経ち、そろそろホールムス国に着くという頃だった。
「ジークロードさん、ホールムス国ってどんな所なんですか?」
「一言で言えば権力に弱ぇ国だな。 ほら、あそこの主神は権力の神ワルスラ様だしな、強さよりも産まれとか肩書きにしか興味がねぇって言うウチとはそりが合わねぇ国だな」
「俺達3人は大丈夫なんですかね」
「まぁ心配ないだろ、いざとなれば俺がいるしな。 問題は妹の方だ」
ハンドルを握りバックミラーに映りこむジークロードは少し不安を抱えたような面持ちで運転をしていた。
「そういえば、どんな人なのか知らなかった。 画像は見ましたけど、名前と年齢と性別以外の情報ないじゃないですか、探せるんですか?」
「それだけありゃ、あの国では十分だしな。 一応アレイス国王の妹っていう肩書きがあるから探しやすい 」
「なら他にどんな問題があるんですか?」
頭をかきジークロードは言うかどうか迷っていた。
そして踏ん切りが着いたようにハンドルを叩く。
車に揺られながら、レイアとカグラは肩を寄せ合いながら寝ていた。
「会えばわかるってところだなぁ、アリエル王が大衆の中心とするならば妹のレオーネは蚊帳の外に置き去りにされた一匹狼って所だな。 最も強さでいえば傷さえも受けない獅子と言えるな」
「……会えばわかるんですね」
ジークロードは車を走らせ徐々にホールムス国の国境が見え始める。
空が完全に明るくなり始め、レイアとカグラも目を覚ます。
「よし、とりあえずはホールムス国の国境は超えるな」
アレイスやダリオスの中央区のような大きな外壁とは違い、国境には大きな塔が並び立っていた。
塔を横切ろうとすると機関銃を装備した複数の兵士が現れ車を静止させる。
「止まれ、違法入国か?」
「違法入国だとしても正直に言うバカいねぇだろ。 ほらよ。アレイス国王直接の入国書だ」
ジークロードは車の中にある日差しの眩しさを防ぐ所に入れていた紙を1人の兵士に見せる。
その紙を凝視し、驚いた表情と共に敬礼をした。
「こ……これは失礼しました!! レオーネ様の件でございますね! レオーネ様であればこのまま直進していただいて見えてくる大きな街に居ます! その町にいる兵に連絡させて頂きますのでよろしくお願いします!」
「おう、よろしく頼むわ」
ジークロードは車をすぐに発進させ、兵士達から遠のく時に少し笑いながらに呟いた。
「な? これが権力者には従順な手の平返しがすげぇ国民ばっかいる国だ」
確かに険悪そうな顔が一気に歓喜に満ちた顔になった時は笑いが吹き出しそうになった。
日照りが1番強くなり始めた頃。
車内に腹の音が鳴り響く
「お腹すいたよぉぉぉ……」
ぼやいたのはカグラだった。 確かに普段からいっぱい食べているカグラにとって朝も食べず昼になっても食べないのは死活問題に近いかもしれない。
「ジークロードさん、後どのくらいで……」
「お前さんらはホールムス初めてだと思うからこれでもつけとけ」
ジークロードは運転をしながら助手席にあるゴーグルと大きめの布を俺達が居る後部座席に放り投げた。
後部座席には窓がなく、前方にしか外を見渡せるガラスがなかったのと、あまり外を見なかったから気が付かなかったが外は砂埃が物凄い勢いで舞っていた。
直感で布を口を塞げるように巻き、ゴーグルを頭にかける。
「ジークロードさんはしないんですか?」
「外に出る時はゴーグル位はするさ」
数メートル先の道も見えない中、車のライトを照らしワイパーが砂を払っている。
「砂嵐だからまぁ、あと数十分もすりゃあ止むだろ」
ジークロードは車を停め、椅子を少しだけ後ろに倒しうたた寝をし始める。
その間も鳴り止まないカグラの腹の音。 こっちもそれを聞いているとお腹が空く。
ジークロードの言う通り砂嵐は止み、目の前にはアレイスで見たような歯車と大きな塔から立ち上る燻煙と、黄色く濁った空が姿を現した。
車を街の外に停め全員で降りる。 多少の砂が舞っている為、ゴーグルと布で防塵する。
外に出て改めて思うのはその風の強さ。 アレイスと隣同士の国とは思えないほどの強風。 これでも砂嵐の時よりから風が強くないのだろう。 砂が素肌にあたり少し痛い。 街の外には兵服を来た人がライトをこちらに向けて振っていた。
「ジークロード様とその御一行で合っていますか?」
「おう」
「良かったです! レオーネ様にお会いするとのことでしたが申し訳ありません。 ただいまレオーネ様は攻略に出かけているようでして夕方頃にはお戻りになるそうです」
「わかった、よし。 んじゃあ飯にすっか」
その言葉を聞きカグラは、飛び跳ねて喜びを表現していた。
街の中に入るが人が見当たらない。 鉄と鉄がうちつける大きな"ガコン"という音以外には風の音しか聞こえない。
「こっちだ、着いてこい」
「ジークロードさんは以前もこの街に?」
「あぁ、同じ任務でここに来たんだが、レオーネは門前払いしやがった。 今回もそうならないといいが……っとここは飯と宿がある所だ、今日からここに泊まるぞ」
完全に締切ったドアを押し、更にその奥にもドアがある通路。 その通路には【砂埃を落として下さい】と書いた紙が貼られていて、俺たち全員その紙通りに砂埃を落とす。 ゴーグルと口に巻いてた布を取ると隙間から砂が落ちてきた。 髪にかなり砂がまとわりついてきてて落とすのも一苦労。 服の中にも砂が入るほど。
砂を落としていると他の客が入ってきた。 その人は髪などを完全に布で覆い少しだけ身体を叩いて中に入る。 なるほど。 次、外に出る時は同じようにしよう。
とりあえず砂埃を落として店の中に入ると活気に満ち溢れた酒場が階段下に見える形で広がっていた。 かなり広く、壁は完全に地面の岩だったが、今まで見たことのない光景に少しワクワクしていた。
「んじゃ部屋を取ってくるが俺とレックス。それと嬢ちゃん2人の2部屋でいいよな?」
「はい、それでお願いします」
俺たちは、ジークロードと同じように下の階の酒場に向かい席に座る。
その席も石を切り出したような面白い作りになっていながらも、座るところはクッションの様にふかふかだった。
ジークロードが受付で何かを話しながら俺たちの方に指を指す。
すると1人のお姉さんが注文を聞きに来た。
とりあえず食事の注文を済ませ、カグラの待ちきれないという様子が身体に現れていた。 厳密に言うと料理が出てないのにヨダレを垂らし、ナイフとフォークを握りしめ、机を見つめていた。
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アレイス王国会議室に集められたアレイス王国の役員達。 アリエル王はこの会議の始めにこう告げた。
「"世界の真実を共有する"」