今、過去の話とこれからの任務を
鎧に身を包んだその王は、見た目が若くその澄んだ瞳でこちらを見ていた。隣にいた騎士風の男が号令をかける。
「攻略者。 レックス、レイア、カグラの3名、無事到着致しました!」
「御苦労、急な呼び掛けで困惑しているところ申し訳ない。 私はこのアレイス共和王国の統治者、アリエル・アロスである。 レベル300を超えた者がいると聞いた為に勝手ながらに呼び出したことの非礼を詫びよう」
アリエルは玉座からたち、3段ある階段を降りて俺たちの目の前で少し頭を下げた。
「ふむ、貴姉がカグラ殿か。 ……なるほど世界の真実はそこのレイアが知っているようだな」
カグラの目を見た瞬間に目の色を変え、レイアの方を見始める。
カグラもレイアも動揺していただろうけど、アリエルの威はとてつもないものだった。 油断すれば殺されると錯覚するほどに鋭く、それでも信頼できると感じさせるオーラ。 まるでレイアの本体、ガイアと会った時のような、神とあった感覚。 さらにその感覚を感じさせながらも、親近感のある妙な感覚さえ湧かせる。
「レイア殿、後程個人的に話し合いたいのだが、来て貰えるか?」
「え? 陛下とですか?」
「私が個人的に、旧時代の話と真実について話し合いたい、これ以上を言われて困るのは貴姉であると思うが」
レイアの顔色が一気に変わる。 レイアがゴクリと固唾を飲むのがはっきりとわかった。
「わかりました」
アリエルは返事をきき笑顔を見せまた玉座に座る。
「貴公らの生い立ちはもう把握した。 そして現状3名は特殊な存在であるとも把握した。 その上で私から依頼がある。 入国してきた理由もわかる。 金銭は医療費の3倍出そう」
3倍ってことは9リブラってことか。 依頼内容によるけど……。
「ホールムス王国にいる私の妹、レオーネをここに連れ戻して欲しい。 本人の情報はその端末に共有しておこう」
「それだけですか?」
「あぁ、私とはあまり合わないが素直な妹だ。 今この国には妹の力が必要だからな」
「わかりました」
アリエルの顔は威厳を保とうとするもどこか不安げにしていた。
多分アリエル王はただ心配なんだと思う。
「それでは、レイア殿こちらに来てもらってもよろしいか」
アリエルは席を立ち玉座の後ろ側にあるドアにレイアを案内した。
もしかしたら、レイアの秘密について何か気がついたのかもしれない
レイアは大人しくアリエルについて行き、カグラと俺はそのまま脱衣所に戻され、元の服を着せられて街に戻された。 その間、レイアとアリエルは何かを話していたようだった。
アリエルに案内されたレイアはアリエルを酷く警戒していた。
「そう警戒しないで欲しい、私の能力で相手の過去を全て見ることができるものがある。それで貴女の事がわかった」
「つまりは、この世界の真実にも気がついたって事ね」
レイアはさらに警戒を強めた。長い廊下を歩く2人以外に誰もいなかった
「そうだな。 魔物がなぜいるのかやレベルとは何なのか、今の神の正体は何なのかはわかった。 だが唯一分からないのは彼、レックス殿になぜ隠すのかだ」
「それは……」
レイアはその理由を語りたくなかったのだろう。 あくまでアリエルが見れるのは過去の映像だけ。 感情とかは見れないのだ。
その記憶を見た上で推測しても、レイアがレックスに真実を話さない理由がわからなかった。
「貴女はレックス殿に対する隠し事が多過ぎる。彼に能力を与えた時、その代償とルールについても言うべきだった。 能力を得る代償として1度死ぬ事、再び生き返りはするがそれは確実では無いこと。 そして自分自身で思いついたものでないのスキルに出来ないと言うこと。 なぜ伝えない」
「貴女は私の記憶を知ってるよね、私は今のこの世界を純粋にレックスに知って欲しい。 そして死ぬ事に怯えることなく強くなって欲しい。 だから伝えなかった。 彼に神を殺す本当のやり方を教える前に」
アリエルはすこし感情をむき出しにして声を荒げる。
「わかっているのか!? あと5年後にはこの世界は滅んでしまう、そんな悠長なことをしている場合ではない!それに、時が来ればレックスには話すのだろう? なら今でも──」
アリエルの肩に手を乗せてレイアは首を振った。
「それだとまた同じ結末になってしまうから……」
アリエルは肩の力を抜き、レイアの手をゆっくりと退ける
「そうか。 ならば私は私のやり方でこの世界を救わさせてもらおう。 その時までに彼がそのスキルを手にしていなかった時、私のやり方で世界を救う」
先程の間からレイアは街へと戻っていく。
扉がしまった時にアリエルは覚悟を決めた顔で端末の音声送信を使う。
「各員、至急会議室まで来るように」
俺とカグラはレイアが来るまで西門で待機していた。 すると近衛兵の1人が紙の地図を持って走ってきた。
「レックスさん達ですよねー?」
「そうですけど」
息を切らしながらその紙を渡してきた。
「今から行くホールムス国までの道のりです、これはアリエル王から事前に渡すように言われた資金です。 そんなに大変じゃないと思いますがお気を付けて。 あとこれは入国時の封書です、審査しなくても通れると思います」
「ありがとう」
「また旅行に行くんだ!」
あー、急いで出発した方がいいんだろうけど宿代無駄になっちゃったなぁ。
意外にも早くレイアは戻ってきた。
「おー、おかえり。 王様と何話してたんだ? ちょっと顔色悪いぞ」
「ん? あぁ、これからの事をな。 ん?なんだその金と地図」
「あーこれはアリエル王の依頼で向かう場所までの地図とその旅費の資金だよ」
レイアは少し気が抜けたかのように肩の力を抜いた。
「そうか、それじゃあ買い出しして出発するか。 レックス、今日の昼の反省を活かして特訓だな!」
あぁ、そうだ。 俺は今日改めて自分の今の強さを知った。 そして自分の思い上がった心と未熟さを知った。
宿に戻り荷物をまとめ、買い出しをしていると、日が落ち始めていた。 流石に夜帯に出るのはまずいと思った。
「王様から妹を吊れ戻せって依頼が来てんだって?」
「おわっ、ジークロードさん。 びっくりしたァ……」
その時、突然後ろから話しかけてきたジークロードにビックリした俺は変な声を出してしまう。
「おぉ、すまんすまん。 ホールムスまではちと距離があるからな。 何なら俺の車で運んでやってもいいが」
まじか、これはラッキーだ。 でもなんでそんなことをしてくれるんだ?
俺はその優しさに少し疑問を抱いた。
「何で親切にしてくれるんですか?」
「んぁ? だって申請受けたの俺だし、契約されたのも俺だし、第1レックスとレイアの2人の強さがまだわかっちゃいないからな。 心配でよ」
まだ攻略者補助団体の庇護下にあるらしい。
「そういう事ですか、ならジークロードさんよろしくお願いします」
「おう任せとけ」
ジークロードは車を取りに行き、俺達3人はまた車に乗り込んだ。