今、幼馴染の為に仕事を V
カグラは不思議そうにしていたが、明らかにこの場で浮いているのは彼女だ。 ここは俺が責任を持って場を和ませないと。
「いや、ほらあれですよその……」
「嬢ちゃん人間じゃないな? さしずめエルフってところじゃないのか」
ジークロードの口から架空の生物エルフの話が出てくる。 それはおとぎ話にしかいない人間によく似てはいるけど、跳躍力や語感が優れた種。 耳が少し長くとがっているのが特徴とまさにカグラに似ていた。
俺は困惑し沈黙しているとカグラは空気感を気にしないでいた。
「うん!そうだよ!なんでわかるの?」
「まずレベルの高さ、耳の形。 あとはもう憶測ってところだわな。 まぁ、この世界には魔物だって多いんだ架空の生物が居たってなんも不思議にゃ思わねぇさ。 さて色んなことが起きちまったが改めてよろしくなレックス、レイア、カグラ」
ジークロードは手を差し出してくる。 主にカグラですみません。 差し出された手をそう思いながら握り返した俺の顔はきっと引きつった笑顔だったろう。
「仕事の話に変わるが、カグラが強いってこたァわかった。 だから難易度は高めのところに行こうと思う。 その方が手っ取り早く稼げるしな、攻略はこちらで斡旋する。討伐系だがそれでもいいか?」
「あぁ、頼むよ」
3人は立ち去り、やっと俺達3人になる。 入れ替わりでちょうど良かったと言うべきかルルワが帰ってきた。
「あれ? レックス? だよね! どうしたのこんな所に! そっちの方々は?」
「久しぶりだな、ルルワ。 こいつはレイア、こっちはカグラで俺の旅仲間って所……んで、ちょっと話があるんだけど、どっか個室空いてないか?」
ルルワは旦那さんの方を向いて許可を目だけでとる。
「いいって!」
「そうか、すみません旦那さん、奥さんとちょっと身内の話をしてきます」
そう断りを入れて2階の個室に2人きりになる。 レイアとカグラは、一応置いてきた。 ルルワも困惑するだろうから。
「んで、話って何?」
「実はな──」
俺は村が襲撃されて、アベルの死亡とカインとローナの怪我を伝える。
「嘘。 なんでアベル兄さんが……」
「すまない。 俺が弱いから──」
するといきなり頬を思い切り引っぱたかれる。 無理もない、昔から俺は弱いくせに無茶をしてその度にアベルとカインに迷惑をかけてた。 それを間近で見てたのはルルワだ。
ルルワは目に涙を貯めていた。 やり場のない怒りを精一杯ぶつけようとしてくれたんだろう。
「なんで、あんたは無事なの!? アベル兄さんが死んじゃったなんて嘘なんでしょ! じゃなきゃ……」
ルルワは床にへたり混み涙で濡れている顔をぐしゃぐしゃにしていた。
「俺が生きてるはずがない……か。 だけど、本当の話なんだ。 カインとローナはダリオス国の中央区の医療施設にいる。 多分治ったらまた村に戻るんだろうけど」
「今はちょっと1人にして……」
「……わかった」
1階に降りるとカグラは俺を心配して駆け寄ってくる。
「どうしたの!? 大丈夫? 左頬赤いよ!?」
「カグラその辺にしておけ。 言ったのか」
「あぁ、言った。 そりゃすぐには受け入れられないよな」
ルルワの旦那さんに一応お礼を言って酒場を出るとすっかり暗くなっていた。
「宿を探すか。確かに機能で地図を見れるのが──」
何も無い空間を操作しているのは不思議な感覚だった。 そして宿を見つける、地図によるとさっきの酒場を出て役所の方まで戻った所に宿が1件あった。
「ねぇ、レックスは何してるの?」
突然カグラが俺の顔をのぞき込む。
「端末の操作だよ」
「え? 何か捜査するの!? 楽しそう!」
何か話がズレているような……。
「いやこれが大変でさ」
「そりゃ捜査だもん! で、何を探してるの?」
「宿だよ、でももう見つかった」
「え!? 宿に犯人いるの?」
なるほど、ズレてたのはこれか。
「"捜査"じゃなくて"操作"な。 探す方じゃなくて操る方」
最近わかったことがある。 カグラはのんびりマイペースなアホの子とかじゃなくて純粋で天然なんだ。
でも天然の癖にやたら強いとか、怒らしたら絶対怖いやつやん。
3人で宿に着くと内装はさほど凝ってはいなくて、一人部屋しか無い様子だった。
受付は無人。 大きい端末で何泊泊まるのか、食事は朝昼晩の選択できる、支払いは前払い式だった。
何日泊まるかは決まってないけど、とりあえず4日間、朝飯だけありにし300リブラで会計を済ませる。 かなり良心的な宿だ。
流石に4日くらい水浴びだけだった為、髪がギトギトでゴワゴワしていて気持ち悪かった。 幸いお風呂は浴場だったので、綺麗さっぱり体を洗い流す。
着衣室を出ると自販機がありそこには様々な飲み物があった。 やっぱり定番はこれだろう。 すかさず1リブラを使って購入したのは"牛乳風豆乳"。 もうこの世界では牛乳なんて代物は飲めないが、この飲み物で牛乳というものを味わっているような感覚を得れる。 牛乳自体、飲んだ事はないけど。
腰に手を当て勢いよく飲み干すとさっぱりした気になり、気持ちが少し軽くなる。
着衣室の外の椅子で少しくつろいでいると、女風呂側からレイアとカグラが出てきた。
「あっ、レックス」
カグラとレイアの程よく乾かされた髪からはふわりとした女の子のいい匂いがした。 いや決して変態とかではなく、今まで旅で気にしなかった匂いが嬉しかったというか……って誰に言い訳しているんだ俺は。
「よォ2人とも、風呂はどうだった?」
「久しぶりのお風呂ってやっぱりいいねー!気持ちいい!」
「そうだね、今回はカグラと同じ気持ち」
2人は同じく自販機の前に立ち、それぞれ違う飲み物を買う。 レイアはフルーツ豆乳、カグラはコーヒー豆乳を買っていた。
レイアは思い切り飲み干し、カグラは少しづつ飲んでいた。 飲み方はやっぱり性格が出ると思った。
「明日は何時起きにする?」
「あっ、そういえばジークロードさん達と時間の約束とか全くしてないじゃん」
すると腕の端末が光"メッセージが1件"と書いてあった。すぐさま耳の端末を起動させ、届いたメッセージを読むとやっぱりジークロードさんからだった。
『すまねぇ! 明日の場所と時間伝え忘れちまった、とりあえず10時に西門でいいか?』
多分このメッセージの上にある返信というボタンで返信できるんだろう。
そのボタンを押し、メッセージを打ち込もうとするが全く打てない。 どうやって打つんだこれ。
苦戦しているとレイアからもメッセージが来た。
『どうした』
なぜ直接言わない。
「いやぁ、メッセージの打ち方が分からなくて」
カグラがすごい不思議そうな顔をしていた。 無理もない、突然レイアの方を向いて謎な発言をしているんだから。
「え? 何? どうしたの?」
「いや、こっちの話」
「えー、教えてよー!」
「すごく難しい話だけどそれでもいいなら聞く?」
レイアはカグラと旧友だったこともあり扱いには少し慣れているようだった
「じゃあ大丈夫です!」
またレイアからメッセージが届く。
『今目の前にメッセージ画面があるならその右下に変な板みたいなマークあるだろ、そこを触ると打ち込めるようになる』
なるほど、流石レイアさん。
早速レイアにメッセージを送る。
『ありがとう』
ジークロードにもメッセージを送信する。
『わかりました、よろしくお願いします』
一段落し、明日の予定の打ち合わせをする。
「明日、朝の10時に西門集合らしいからそれまでにご飯食べて置こう、あとはちょっとした観光とかね」
それぞれが自分の部屋に行くが、これは部屋なのか?と疑うくらいに狭く、寝る場所しかないようなところだった。 まぁ、4日間朝食付きで300リブラは安いからいいか。