今、俺は逃げている
人は平穏と保身の為に日々成長し、レベルアップしていく。
街中、洞窟、平野等の様々な場所で魔物や攻略者と戦い、経験値と報酬を得るもの達をこの世界では【攻略者】という。
世界総人口およそ20億人。 富裕貧困の格差があり、その全ては権力と恩恵によるもの。
弱者は基本淘汰され、強者のみが生き残れる世界。
だから人は神に縋り己の力で恩恵と共に道を切り開いてく。
──その世界で密かに神同士の代理戦争は行われていた。
──星暦8867年。 この四人の男達もまた、賢人の言葉を無視して魔物の生息が多い洞窟を攻略する。
「おっしゃ! レベルアップゥ!レベル45だぜ」
「おぉ! やったなぁ! この調子なら1年後には50レベにいけるんじゃねぇか?」
「なんか新しいギフト貰ったわ」
大柄の男は、レベルアップしたと同時に上位者から与えられる恩寵【ギフト】の詳細を天の声から授かる。
「……なるほどな、強ぇな!」
【ギフト】はレベルアップした際、攻撃力などの基礎的なものから、今まで得てきたスキルと新しく得たスキルを教える天の啓示。
「どうした、なんか新しいスキルでも手に入れたのか」
その大柄の男によく似た男は魔物を倒した際の返り血を浴びていた。
「あぁ、兄貴。 これは役に立つスキルだ、【窮鼠猫噛み】圧倒的不利な状況の時、一時的に自分と相手の基礎能力を入れ替えるスキルだ。 ただ、その後の1日は全く動けなくなるらしいがな……っと忘れないようにメモしとかねぇとな」
レベルアップした大柄の男はバックからメモ用紙とペンを取りだし、そのスキルの名前と詳細や今の基礎能力を書き込んでいく。
「運がいいな、俺のスキルと併用すればなかなか面白いことになりそうじゃねぇか」
「ボスゥ、運がいいといやぁ最速で50レベに達した5歳のガキ知ってますか?」
「あぁ、確かあれだろ。 最初に得たギフトが経験値系って話だろ」
「そうです。 そのガキを妬むやつめちゃくちゃいるんで、もしかしたらうちに拉致の依頼とか舞い込んでくるんじゃないすか?」
ボスと呼ばれる大柄の男は不気味な笑みを浮かべる。
「あぁ、そういやぁ変な噂が最近出回ってるよなぁ。 確かレベルアップ出来ない攻略者。 確か名前は──」
「【レックス・レヴェル・ストゥルトゥス】だったか」
──2年前
男は全力で洞窟の坂を駈ける。 後ろには魔物の大軍。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!! ひやァァァァァ!! アベエエェエエエ!!」
涙目になりながら意味不明な叫びを上げる男の先は行き止まり。 変わらず魔物の大軍は押し寄せてくる。
「おいレックス!! こっちに飛び込め!!」
小さな脇道に一人の男が声を掛ける。
「……はぁ。 はぁぁぁ、助かった。 サンキュー、カイン」
俺は汗を大量に流しながら魔物の大軍が去ってくのを待つ。
──弱者は淘汰される世界で、果たして生き残れるのか。