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それぞれの答え


 窓の外を眺める。また雨。


 ミアは外を眺めながらチビを考える。あの日、バァサの店に寄ってチビの傷の状態を伝えた。バァサはにやりと笑いながら「ほれ」と薬を出してくれたのだ。

「この卵の殻を持ってきた時に、まだいたと言ってたからな、もしやと思ってな」

だけど、約束もさせられた。

「この薬を塗ってやれば、治るだろう。ただし、もう行ってはならないぞ」

約束しなければ薬はくれない。しかも、最初に頼まれていた竜の卵の欠片から作られた特効薬。全部お見通しだったようで、ミアは渋々頷いた。

 もし、約束を破ったら、チビのことを皆に知らせるぞと脅されもした。

 バァサなんて大嫌い。チビちゃんのこと可愛いと思ってくれていると思っていたのに。

 だから、ただぼんやりと窓の外を見つめるのだ。それに、チビちゃんに会わなくなってから、なんだかミィアがミアを監視するようにして一緒にいるようになった気がするのだ。


 だいたい、ミィアは学級委員だから帰りが遅いんだよ……。


 一週間は経っている。チビの怪我はどうなったのだろう。ちゃんと治っているのだろうか。ミアはそんなことばかり考えていた。

 ミアが溜息をつきながら、教室の窓の奥の方をぼんやり眺めていると、話し声が聞こえてきた。教室と廊下を繋ぐ壁の窓に三つの人影が見えた。最初に見えたのがミィアだったので、ミアは思わず「もう、遅いっ」と叫びそうになったが、残りの二つが見えてぐっと言葉を押し込んだ。

 ノルドとマリエがミィアと真剣な表情で話しかけていたのだ。二人はすでにここの制服になっている。白いロングスカートのマリエに白いスラックスにサスペンダーのノルド。

 その雰囲気は話しかけるというよりも、訴えかけると言った方が良いかもしれない。それに、ミィアが困って苦笑いしているのは、珍しい。そのミィアがミアに気付いて、ほっとした表情を浮かべた。

「あ、ミア」

急に声を掛けられて慌てて手を振り返したミアは「待ってたよ」とミィアに助け船を出した。

「ごめんね、姉を待たせてるから」

ノルドとマリエにそう言ったミィアにはもう余裕が出ていた。

「その話はもう終わり。……ごめん、ミア」

捨て台詞のように二人に背を向け、ミィアはミアの傍まで駆け寄ってきた。

 ノルドとマリエが恨めしそうにミアを見ていたが、ミィアはそれに気付かないように、ミアに話しかけた。

「遅くなっちゃった、ほんとにごめん」

「うん、私は良いけど……。ノルドとマリエはもういいの?」

「うん」

そう言うミィアはどこか怒っているようにミアには見えた。

「行くよ。早く」

「う、うん」

ミアは、ミィアに引っ張られながら教室から出て行った。


 外は雨のせいで色を失っていた。それなのに、なぜかピリピリとした臭いが漂っている。手を繋いだままのミィアからも緊張の色が見える。差した傘のせいでその表情は見えないが、ミィアはミアの知らない何かを知っているようにも思える。

「ミィア?」

「あのね、ミア、このまま真っ直ぐバァサの店に行くわ。きっと歩いているうちに分かると思うから」

 ミィアの言った通り校門を出ると、町の雰囲気がさらに殺伐として感じられた。いったい何が……。ミィアの手に力が入った。

「あのね、ミア」

「うん」

ミアは真っ直ぐ前を見ながら頷いた。雨だからじゃない。人が少ないのは。

「ミアは最近、町よりも外に出ていることが多かったから知らないかもしれないんだけど、ノルドがあたしにしつこく言ってくるの、あれ四回目なんだ」

「うん」

ミアはそのミィアの話を聞きながら、町の異変を感じていた。どの店も、こんな時間なのに、シャッターを下ろしている。

「一度ノルドが怪我をして帰ってきたの。ほんの擦り傷。大したことじゃない。多分勝手に転んだだけなんだろうと思う。だけど、彼が言ったの」

―――竜にやられたって。

「えっ」

心臓の辺りでずんという重みを感じた。竜? 竜って……。

「だって、誰にも……」

いや、ノルドに見られていたのかも知れない。ミアは一呼吸して自分を落ち着かせた。

「うん。ちゃんとした場所は分からないって。ノルド、この辺りのことまだあんまり知らないから。多分、ミアの後をついていって、びっくりして逃げちゃったんじゃないかな? だけど、分かる?」

「うん」

嫌な予感を感じながら、それでも、ミアは落ち着こうとしていた。

「ノルド、私と勘違いしてたみたい。だから尋問されるとしたら私なんだけど、多分、ミア正直に言っちゃうでしょう?」

「言うに決まってる。だってミィアは関係ないんだもん」

そう言うミアにミィアは少し頬を膨らませた。

「ミアだって、悪いことしてるわけじゃない。それなのに、ノルド昨日、言っちゃったんだって。大人に」

ミアは大きく瞳を見開いた。大人に言った。そのことが何に繋がるのか、ミアにもすぐに分かった。

討伐隊が来るのだ。町中がそれを望んだ。


 イヴァールの二の舞になりたくないから。


「私のせいだ」

「ほら、真っ直ぐ前、見たままで」

思わずミィアを見て、声を大きくしたミアにミィアが注意する。

「ごめん、でも、私のせいで。いつも私のせいで」

ミアと繋がれたミィアの手がさらに強く握られ、ミィアがそのまま静かに続けた。

「私、バァサから竜のこと聞いてたの。その竜、悪いことしないんでしょ? バァサが言ってた。竜と友好関係を結ぶことは出来ないけれど、敵じゃないって。共に生きることの出来るもの同士だって。それに、ミアがとってもいい顔でそのチビちゃんのことを話してるって」

うん、チビはいい子だ。いい子が討伐されて良いわけがない。

ミアは熱くなる思いを胸に抑えながら呟くように、ミィアに伝えた。

「助けたい」

「助けよう」

ミィアがミアに声を重ねて手を握り返した。

「バァサにはちゃんと伝えてあるから」

 二人の持つ雨傘がバァサの薬店の前で畳まれた。そして、ふたりで扉を押し開けると、そこにはいつも通りのバァサがいた。

 二人はバァサの前で深く頷いた。


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