6 満を持して悪役令嬢参上ですわ!
時は遡って、ネモフィラさんに接触したときのこと。
ジャックからの許可を得てネモフィラさんを探すと、ネモフィラさんは海辺で足を投げ出し、ぽかんと空を見上げていた。
ざざ…、ざざん。
ゆっくりと波の打ち寄せる音がまた長閑な風景を彩っている。
ーーこの人、何のために孤児院にいるのかな?
ネモフィラさんが孤児院で何か仕事をしている姿を見たことはほとんどない。日がな一日ボンヤリしているか、院長先生のもとへすり寄って、頬を染めている姿くらいしか思い浮かばない。
孤児院にきたばかりのときは、子供達がネモフィラさんに懐いていると思ったけれど、あれは子供達がネモフィラさんが何かお菓子をくれたりしないかと群がっていただけで、普段から世話を見て遊んでくれていたわけではなかった。ほんの気まぐれにネモフィラさんが子供達にお菓子を配るのを、子供達は期待しているだけ。いつその気まぐれが振る舞われるかわからないのに、子供達はいつでもネモフィラさんを期待に満ちた瞳で見ている。待っている。
でもネモフィラさんは、そんな子供達を全く気にしない。ただボンヤリと空や海を眺めたり、院長先生と楽しそうにお話ししているだけ。
この孤児院では無口無表情を貫いている私がネモフィラさんのことを言えた義理はないけど、ネモフィラさんが子供の頃、この孤児院で相当浮いていたんだろうな、と思う。
そんなネモフィラさんが修道院に入って、さらにまた孤児院にお世話係として戻ってくるなんて、どれほど院長先生に恩を感じているのだろう。その感謝と尊敬の念が恋愛感情になったんだろうか。
恋愛事はよくわからない。
年の差を考えると、ネモフィラさんにとって院長先生はよい相手ではない気がするけど、いつもボンヤリしているネモフィラさんには、院長先生のような頼れる大人の男性が必要で、そして孤児院と修道院がネモフィラさんの世界の全てだったから、院長先生以外に頼れる大人の男性がいなかったのかもしれない。
たぶんネモフィラさんを慕っているだろうルークさんには気の毒なことだけど。でも院長先生は正直もう老い先短いだろうし、その後にルークさんがネモフィラさんを支えればいいのかも。
まあ余計なお世話か。
そんなことを取り留めとなくつらつら考えながら、ネモフィラさんの元へ足を進める。白い砂が靴の中に入り込んで、足の裏がジャリジャリとする。
「ネモフィラさん」
背後から声をかけると、ネモフィラさんが勢いよくこちらを振り返り、その反動でウィンプルが外れた。豊かに波立つブルネットの髪が、太陽の光を浴びて煌めく。
私の姿を認めたネモフィラさんの目が大きく丸く見開かれて、淡い水色の瞳がキラキラと星が瞬いたように光る。
これまでジャックの背に隠れてほとんど一言も喋らなかった私が、こうして一人ネモフィラさんの元へやって来て話しかけてくるのは、いつもボンヤリ何事にも無関心なネモフィラさんにとっても驚くことだったんだろうか。
そう思って、ネモフィラさんの反応を待っていると、ネモフィラさんは時が止まったかのように固まった。そして即座に立ち上がって、物凄い勢いでこちらに詰め寄ってくる!
えっ。なに、怖い。
「まぁまぁまぁまぁっ!ヒロインちゃんが話しかけてくれたわ!!」
ヒロイン?なんのこと?
真っ赤に蒸気した頬と鼻、瞳孔の開ききった淡い水色の目には、異様な情熱の色が浮かんでいる。率直に言って、とても怖い。
「あ、あの、私、ネモフィラさんにお聞きしたいことがあって…」
ネモフィラさんの勢いに押されながらも何とか切り出すと、ネモフィラさんにガッシリと両手を握りしめられた。
ネモフィラさんからは逃さないぞ、という強い意志が見える。気がする。なぜ。
「ええ、ええ!ヒロインのリナさんがこのわたくしを頼ってくださるのなら、何でもお応えいたしますわ!」
わあ。とても友好的。これまで子供達に全く関心を寄せていなかったのに、この歓迎ぶりはなんだろう。
ネモフィラさんの興奮っぷりに、少し身を引きながら、気になっていたことを思いきって聞いてみる。ネモフィラさん本人が何でも応えるって言ってくれてるし。
「ええと。ネモフィラさんの目が綺麗な水色だなあって思っていて。それであんまり見ない色だから…」
言葉を濁すと、ネモフィラさんが首を傾げる。うん、まあ察してくれというのは無理かなと思ってた。
「あの、私平民だからよくわかってなくて。ただネモフィラさんのような綺麗な目をお貴族様に見かけたことがあって…」
ネモフィラさんにお貴族様に関わりがあるのかと直接尋ねることはしない。不敬だと罰せられたらたまらない。それでも私はお貴族様じゃないから、婉曲的な聞き方なんてよくわからない。これで精一杯。
私のはっきりとしない質問に対して、ネモフィラさんは、思い当たったというように頷いてくれた。
「ええ。リナさんが疑っていらっしゃる通り、わたくしは平民ではございません。ちなみに庶子でもなくってよ」
あっ庶子じゃないんだ。孤児院から修道院という経歴から、てっきり庶子だと思った。
「実はわたくし、ここキャンベル辺境伯の長女で、第二王子殿下の婚約者でしたの。ちなみに傲慢俺様クソ王子ですわ」
第二王子殿下の婚約者!?
とんでもないことを言い出したネモフィラさんを見ると、ギリギリとハンカチを噛んでいる。
えっ。婚約者?ホントに?第二王子殿下の?
でも今ネモフィラさん、第二王子殿下のこと、とんでもない言い方しなかった?
クソ王子…クソ王子って…。
ネモフィラさん、貴族令嬢なんじゃないの?クソって。私でも言わない。
しかも王子殿下相手に。すごいわ。婚約者だから打ち解けてるのかな?
いや、それより第二王子殿下って、もしかしてあの…。
「えーと…。第二王子殿下のご尊名ってユーフラテス様?で合ってます?あと金髪でした?ちょっとこう、くすんだ感じの…」
「その通りですわ。ああ、リナさんはもうお会いになられてるのね」
「お会いになられてるっていうかね…」
攻撃されて家族離散させられた諸悪の根源のような気がするのだけど、それを婚約者のネモフィラさんに伝えてよいものか。
苦笑するとネモフィラさんが心配そうに眉を寄せて私の手を取り、ふくふくと柔らかい両手でぎゅっと握る。
「リナさんのお母様を捕えたのも、あの下衆でしたわね」
ナタリーのことを知っている?
一番聞きたかったことを私が問いかけるまでもなく、あっさり提示された衝撃に動けない。ネモフィラさんは眉を寄せて私に同情を示しているようだ。
ネモフィラさんは、あの襲撃のことも知っているというの?婚約者だというのなら、ネモフィラさんも共犯なの?
心臓がドクドクと激しく脈を打つ。肌が粟立って、皮膚の下、血が荒れ狂う兆しを感じる。だめだ、こらえないと。
ぐっと唇を噛む。
「ええ遺憾ですわ。わたくしもさすがに王族のなさることに手は出せなかったのですけれど、お母様は間もなくこちらにおいでになると思いますわ」
「ま、待ってください!!ナタリーは…母は無事なんですかっ?」
カラカラになって張り付いた喉の奥から、振り絞って声を出す。思わずネモフィラさんの手に縋りかけ、この人は第二王子殿下の婚約者なんだと思い出して、やめる。
ネモフィラさんがパチパチと目を瞬いた。
「ええ。ゲームではそうでしたの」
「ゲームって…」
ゲームとはチェスのようなものだろうか。盤上の様子から未来を分析して読むということ?
「お母様はナタリーさんでいらっしゃるわね?」
「はい」
「わたくしのご先祖様でもありますわ。今もキャンベル辺境伯家にとって特別なお方ですの」
ああ、やっぱりナタリーはキャンベル辺境伯家の人間だったんだ。
ネモフィラさんはナタリーが先祖だと言った。その上で私の母だと言った。そして今も無事だと言った。
つまり特別、というのはナタリーが約150年前の人間で、なおかつ今も生きていることをキャンベル辺境伯は知っているということだろうか。それとも知っているのはネモフィラさんだけ?ネモフィラさんだけが知っているから、婚約者のユーフラテス王子殿下と通じてナタリーを捕えた?
でもネモフィラさんは王子殿下に好感情を持っていないように聞こえる。ナタリーさんは嘘をついていない?どこまでが本当のこと?私にも青い血が流れていることも知っている?私のことも利用するために、優しい顔をしているのか。
予想していなかったとんでもない話に、頭の中がぐちゃぐちゃだ。
ジャックに言われた言葉を思い返す。
――それこそ演技かもしれない。
そうだね、ジャック。私はネモフィラさんのことを見誤っていた。それは間違いない。
目を閉じ深く息を吸ってから、ゆっくりと瞼を開ける。ネモフィラさんの水色の目をまっすぐ見る。
嘘を吐くのなら、探ってやる。
ネモフィラさんは私の目に宿る敵意など気にも留めず、のんびり小首を傾げ、独特の変わった話を続ける。
「わたくしはキャンベル辺境伯家の歴史をこちらの世界ではきちんと学びませんでしたけど、ゲームの設定なら覚えておりますわ」
さっきからネモフィラさんの話す中で出てくるゲームとは一体なんなのだろう。
「あの、ネモフィラさん、ゲームってなんですか?」
「乙女ゲームですわ!」
乙女ゲーム?
「ナタリーさんはお助けキャラでしたわ。どのルートのときもシレッとヒロインの側にいて、ただの友人かと思いきや、ユーフラテス殿下ルートのみでリナさんのお母様だと判明するのは驚きでしたわね」
ルートとは。お助けキャラとは。
息つく間もなく興奮して捲し立てるネモフィラさん。何を言っているのかさっぱりわからない。わからないことだらけで、何から質問していいのかわからないくらい。それでも何とか追いつこうと質問しているのに、返ってくる答えが要領を得ない。
乙女ゲームってなんですか。さっきから尋ねても、いまいち答えが返ってこない。誤魔化されているというより、私が理解出来ていないことをネモフィラさんが理解していない気がする。
あれ?話が通じないな。この人、ただの間抜けとは違うな?狂ってるだけかな?
「王子といえば、あら、もしかしたらまだ婚約は解消されていないかもしれませんわね。わたくし解消にあたって何もサインしておりませんわ。婚約なんて王家と当家との取り決めですし、わたくしの意思なんて無関係ですので、勝手に解消されているかもしれませんが。それだと嬉しいですわね。婚約破棄のイベントがなくなってしまいますけれど。オススメはしませんが、あのクソ王子も攻略対象ですわ。本当、クソなので、全くオススメしませんが。もし攻略なさっても、わたくし悪役令嬢にはなりませんので安心なさって」
婚約破棄。イベント。コウリャクタイショウ。アクヤクレイジョウ。
なんだろう。お貴族様の中でだけ通じる言葉なのかな。
それにしてもまたクソって言ったな、この人。とんでもないな。
「ちなみにここの孤児院の院長は、わたくしの曽祖父の弟の三男坊で、貴族籍はありますが、爵位がないのですわ。ですからわたくし、修道院へ入ってこちらに来たんですの。もうずっとお慕いしておりますのよ」
あっ。ここで院長先生が出てくるんですね。そして院長先生もお貴族さまだったんですね…。なんで横領してるんだろ?
「…いろいろ聞きたいことはあるんですけど、院長先生のことで気になることがあるんです」
よくわからない言葉の数々はとりあえず後に回す。どこから何を聞けばいいのかもわからないし。まずは理解できそうなところから。
そう思って院長先生の名前が出たところで質問を挟んだら、ネモフィラさんの水色の目がぎらりと光った。
「院長ですか?院長は攻略対象ではなくってよ。ですからリナさん、他の方を当たってくださいましね」
攻略対象が何のことかもわからないのに、他を当たれとか、本当に意味が分からない。院長先生に聞かなければわからないことなら、他の人間を頼ることはできないから、これには頷けない。
「いえ。攻略対象?の意味はよくわかりませんが、気になったのは…」
どう切り出したらよいものか、言い淀んでしまう。でもどうやらネモフィラさんは何か誤解しているようだ。さっきまではとても友好的というか情熱的というか何というか、よくわらない熱情を向けられていたのに、私が院長先生の名前を出した途端に目を吊り上げて、警戒心と敵愾心を露わにしている。
これは婉曲に横領のことを匂わせて探るより、直接的に問いかける方がいいかもしれない。遠まわしに聞けば聞くほど、ネモフィラさんからの返事は軌道を逸らし、これまで繰り広げられたよくわからない話が、さらに遠く理解の及ばない世界へと旅立ってしまう気もする。はっきりきっぱり他に想像の余地がないくらい直接的な言葉で言おう。
「その、院長先生がこの孤児院の資金を着服しているのではないかと…。私、院長先生のお部屋で裏帳簿を見たんです」
覚悟を決め目に力を込めてネモフィラさんを見上げると、ネモフィラさんはぱちぱちと何度か目を瞬いた。ネモフィラさんは「えーと」と指を口元に当てて小首を傾げる。
「横領はしていないと思いますわ。院長は、単にわたくしの実家からわたくしが不便ないよう毎月送られてくる金品と食材とをわたくしに受け渡しているだけです。わたくしが一人で食事をとるのは寂しいので、付き合っていただいているのです。裏帳簿はおそらく辺境伯家からのわたくし宛ての支援を記載してしまっているのですわ。わたくし、算術は苦手ですの…。簿記チートなどないのですわ」
簿記チートってなに。
「院長も孤児院の帳簿とわたくし個人の帳簿を書き分けるのが面倒だったのか、それとも重要性を認識していないかのどちらかじゃないかしら。おそらく後者だと思いますわ。あの方も算術が苦手ですし…。ええ若い頃から落ちこぼれでいらしたのよ。お可愛らしい」
ネモフィラさんがポッと頬を染めた。ああ本当に院長先生に恋してるのね…。
いやそんなことより、横領でないのはよかったけど。よかったけど、帳簿の在り様については重要性を認識していないだとか、算術が苦手だとか、そんなんでいいの?院長先生、仮にもお貴族様として育ってきて、今は孤児院の院長先生やってるんだよね…?あっ。だから落ちこぼれだったのか。いやでもお可愛らしいって。全然お可愛らしい事態じゃないと思うんだけど。
それにこれまでの話を聞いてると、矛盾してくるのは、ネモフィラさんとルークさんがここで育ったということ。どう考えても生粋の貴族令嬢様が孤児院で育てられるはずがない。しかも第二王子殿下の婚約者。
孤児院暮らしが婚約前のことであれば、孤児院で育ったご令嬢に王族との婚約は打診されないだろうし、婚約後のことであれば、王族の婚約者に孤児院暮らしなんて許可されるはずがない。
「ネモフィラさん、辺境伯令嬢なんですよね?でも私がここに来たばかりの時、ネモフィラさんもここで暮らしていたって教えてくれましたよね。あれって嘘だったんですか?」
「ここで暮らしていたことですか?孤児院には自ら入りました。ゲーム開始前のヒロインの物語が知りたかったのですわ。ナレーションだけでは不十分でしてよ。そうしましたら、院長と運命の出合いをしたのですわ!!わたくしと年が離れているからと相手にしてくださいませんが、わたくし、諦めませんの!」
なるほど。二人は恋仲ではなく、ネモフィラさんが一方的に追いかけているのね。
ネモフィラさんの突拍子もないお話も、奇天烈な感性にも、聞いているとなんだか力が抜けてきてしまう。
「…じゃあルークさんは関係ないってことでしょうか?」
一緒に孤児院で育ったというルークさん。偶然同じ時期にいただけの他人ということかな。ルークさんはお貴族様っぽくないし。貴族…貴族かぁ…。
はっと気がつくとネモフィラさんのペースに呑まれていると気がついた。
話に信憑性はまるでないのに、ネモフィラさんの不思議な言動を見ているうちに、ネモフィラさんくらい奇天烈な人だったら、そんなこともあるのかな、という気持ちになってくる。妙な説得力がある。
「ルーク?ルークは辺境伯家からの監視じゃないかしら。もとは我が家の厩務員ですわ。なぜついてきたのか不思議でしたけれど、父の差し金かしら、と予想しておりますわ!」
そうですか。ルークさんもただの下男ではなかったんですね。
「…不敬かもしれませんが…。ネモフィラさんは孤児でなかったから、ここの子供達に興味がないんですか?」
不敬だと罰せられるかもしれなくても、抑えようとしても、言葉に棘が混ざってしまう。
あなたは貴族で、人間は貴族だけで、孤児は人間ではないと思っているから、彼等を気にしないのか。
心の中に溜まっていた澱のようなものが表に出てしまう。それと同時に不穏な力が、血が。またもや体中にふつふつと沸き立っているのを感じる。
抑えなくては。
私だって人のことをとやかく言える立場じゃない。子供達と壁を作って交流を拒んてきた。私だって子供達を見捨てるつもりでいた。
「子供達のことですか?わたくし、申し訳ございませんが、子供が前世から苦手で…」
ネモフィラさんは悪びれることなく言う。
「ええ、あまり関わりたくなくて。どんな生活を送っているかですか?こちらに住んでいるのなら、特に不都合もないのでは?寝食に困ることはないのでしょう?」
この人は、よくわからない想像力は豊かなのに、孤児院にいる子達へ向ける想像力がないんだな、とわかった。
寝食に困ることはない。確かにそうかもしれない。食事が足りないとはいえ、餓死するほどではない。薄っぺらい布団が数人で一枚、隙間風も吹きすさぶけど、眠れる場所は確保出来ている。
子供達が大きくなって、手に芸も職も何もなくて、どう身銭を稼いで生きていったらいいのか、きっとそんなことは考えたこともないのだろう。
力が解放されないよう、抑えようと強張った体から力が抜けていく。
ネモフィラさんは、悪い人ではない。でもいい人でもない。関心のないことに向ける想像力がないだけ。無関心なだけ。そういったことが許される立場だっただけ。
お貴族様なだけ。
平民の私がお貴族様の考えることを理解しようなんて烏滸がましかった。お貴族様のネモフィラさんに、平民の、ましてや孤児のことを考えてほしいだなんて、とんでもない誤りだった。
ネモフィラさんは不思議そうな顔をしたかと思うと、ぱっと笑顔を浮かべて手を叩いた。
「それより攻略対象の方々のことですわ!」
それより、で済んでしまうことだったらしい。
攻略対象が結局よくわからないのだけど、もうこのまま話を聞こう。
「お相手となられる殿方は沢山いらっしゃるのですけれど」
殿方なんですね。
攻略だとか対象だとか。院長先生を頑なに攻略対象ではないと言い張る様子だとか。そのときの嫉妬に満ちたネモフィラさんの目だとか。
もしかして。なにかこう、色恋沙汰でしょうか。まさかね。
「わたくしのオススメはキャンベル辺境伯家次男、ハロルド・キャンベルですわ!」
「キャンベル辺境伯家のご令息ってことは…」
「ええ!わたくしの弟ですわ!」
ご遠慮願いたい。
「わたくしの弟のハロルドはとても美しい子なのです。ちなみにハロルドルートの悪役令嬢もわたくしですけれど、もちろん邪魔は致しません。女性に偏見があったり選民思想があったり、ちょっと残念な子なんですけれど、とにかく容姿がいいのですわ!」
そんな性格に難のあり過ぎる人は嫌だ。容姿がよくたってどうしようもない。ネモフィラさんと親族になるのも勘弁してほしい。
ナタリーが私の母である以上、血の繋がりがあるようだけど、出来るならキャンベル辺境伯には隠し通したいし、問題が片付いたらネモフィラさんとも関わりたくない。
けれどネモフィラさんはウキウキと楽しそうに弟さんを薦めてくる。やめてほしい。
「攻略対象キャラで一番見た目がよいのです。前世ではわたくしの推しキャラでした。さすがに実弟とどうにかなろうとは思いませんが、是非ともリナさんには攻略していただきたくて!!!金髪碧眼でまるで夢の王子様のような顔をしておりますの。溺愛キャラでハロルドルートのスチルは本当に美しかったわ…」
推しキャラとは。スチルとは。
わからない、わかりたくない単語が次から次へと出てくる。
「ちなみにわたくし、兄もいるのです。兄のヒューバートは優良物件なので是非オススメしたいのですけれど、兄は残念ながら攻略対象キャラではないのよね…」
ネモフィラさんは、「なぜなのかしら残念だわ」と口元に手を当てた。
何か何だかさっぱりわからない。




