表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

1 平和な家族は疑似家族です

 私の父は約150年前の、この国の王様らしい。


 母に聞いたとき、それ程までレオン(父替わり)が嫌なのかと思った。それにしても嘘が下手すぎじゃないかとも思ったけど。


 我が家は四人暮らしだった。医者もどきのレオンと魔女の(ナタリー)と、ジャックと私。

 レオンとナタリーは夫婦じゃないし、恋人でもない。

 ジャックと私は兄妹みたいに育ったけど、血の繋がりはない。


 ジャックはレオンの義弟。親子くらい年が離れてる。

 レオンのお父さんの後妻さんが、レオンのお父さんとは違う男の人との間に作った子供らしい。複雑だ。

 レオンのお父さんは、ジャックが生まれる前に亡くなっていたようで、複雑だけど、そこは重なっていなくてよかったな、と思う。

 それからその後妻さんは、ジャックを生んですぐお亡くなりになったらしい。

 ジャックの本当のお父さんは、わからないみたいだ。


 私はナタリー(母と呼ぶなと言われている)と約150年前のこの国の王様との子供。

 ……うん。よくわからん。

 まあ、とにかくレオンとナタリーの愛の結晶ではない。


 あれ。なんで私達一緒に暮らしてたんだろ?よくわかんないな。


 我が家のことを聞いたのは、私が4歳の頃。


「なんでレオンはお父さんじゃないの」


 それがキッカケで、ナタリーがこのめんどくさい家族関係を幼児の私に説明しだして、よくわかんなかったけど、とにかく私達は家族じゃないんだな、と思って泣いた。泣きわめいた。

 そしたら玄関の扉が割れた。


 え、なんで?


 物凄い音だったから、一瞬にして泣き止んだ。ビックリして固まってたら、ナタリーが片手を頬に当てて頷いてた。

 「あら。やっぱりリナはあたしとレオンの子なのね」って。


 いやいや。

 ナタリー、私のことレオンの子じゃないって言ったよね。


 何言ってんだこいつっていう顔をしてたんだと思う。たぶん。

 そしたら、私はレオン(約150年前の王様)の子供だけど、レオン(医者もどき)の子供じゃないんだと言う。

 うーん。本当に意味がわからないぞ。

 つまり同じ名前の違う人なんだな、とそのときは思った。

 約150年前の云々は忘れることにした。

 それより突然扉が割れたことが衝撃だった。

 あれ、私がやったんだろうか…。

 おうち壊しちゃった、怒られる。4歳の私はぶるぶる震えた。


 けれどナタリーは、手を叩いて大喜びしていた。

 「さすがあたしとレオンの子!」って叫ぶから、ちょうど買い出しから帰ってきたレオンが、「あなたとの間に子はいない!」って真っ赤な顔して怒ってた。

 ジャックは壊れた扉をツンツン突付いていた。平和だった。





 そうやって四人で平和に暮らしてた。

 レオンとナタリーはよく喧嘩してたけど、仲良しなんだってジャックも私もわかってた。

 レオンはナタリーにはツンケンしてたけど、ジャックと私には優しかった。お勉強も教えてくれた。

 ナタリーはよくレオンをからかって遊んで、私とジャックのこともからかってた。ナタリー、大人気ないな。

 あと私が、ビックリしたり、すごく怒ったり、どうしようもなく悲しくなったりしたときは、ギュッと抱きしめてくれた。

 感情が昂ると危険だから、まだ外には出ないように言われてた。

 なぜなのかと聞くと、ナタリーはキョロキョロとあたりを見回して、レオンの顔を見た。

 ナタリーと目があって、顔をしかめたレオンを横目で見ながら、ナタリーは魔女の力だと言った。


「この力は悪い力なの?」


 レオンが顔を反らしたから不安になって、ナタリーの上着の裾を握って、ナタリーを見上げた。

 ナタリーはしゃがんで、私と視線を合わせると、ニッコリ笑った。


「とても素敵な力よ! レオンとあたしの力!」 

「そのレオンは僕じゃないけど、リナの力は僕も素敵な力だと思うよ」


 不安がった私に気づいたレオンが、ナタリーの隣りに並んで、私の頭を撫でてくれた。

 ナタリーがそんなレオンを見て、ふふん、と口の端を上げた。

 ジャックが「オレもリナと同じ力が欲しい!」ってベソをかいた。


 そんな毎日。




 そうしたら突然、平和な日常にヒビが入った。

 突然、身体の大きな男の人達に家の外が囲まれた。


 顔が見えないフードのついた、黒っぽい服を着て、腰に剣を下げたその人達は、無理やり家に押し入ってきて、そのうちのリーダーみたいな人が集団の後ろから出てきた。

 偉そうな人が、ぐるっと家の中を見渡した。


「我が名は、フランクベルト王オットーの息子、ユーフラテス!」

 偉そうな男は、そう名乗った。


「魔女ナタリー・キャンベルよ。王子の権限を行使し、貴様を反逆罪で捕える!」

 王子だとかいう人が叫んだ。


 それから、真っ黒で大きい熊みたいな男の人達が、家の中をめちゃくちゃにして。

 ナタリーが突風を起こしたり、大きな雹をいくつも落としたりして。

 レオンがナタリーを背にかばって。

 私はただもう、怖くて。


 動けない私をジャックが引っ張っていった。

 ジャックと一緒にクローゼットに隠れて、ガタガタ震える私をジャックがギュッと抱きしめて、ジャックも震えてた。


 リーダーみたいな人のかぶっていたフードが外れて、その人はくすんだ金髪の王子様みたいな見た目をしていた。

 その人は、眉間に深いシワを寄せて、ナタリーをつかまえようとして。


「やだやだやだやだやだやだやだやだぁぁぁぁぁ!!」


 体を丸めて頭を抱えて、ジャックに抱きしめられながら、大声で叫んだ。


 目の眩むような、真っ白な強い閃光が当たり一面広がって、レオンとナタリーとジャックと私の大切な家は崩壊した。

 パーン、という大きな破裂音の中、何かが焦げたような、ジュッと嫌な音が聞こえた。色んなものが壊れていく中で、小さな音だったけど、いくつも聞こえた。


 ナタリーとレオンがジャックと私の名前を呼んだ気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] あーーー!! このシーンは覚えがある!! 「魔女の恋」だーーー!! [気になる点] そして、テスがナタリーを!? えーーー!!ネモフィラの『予言』のせい!? [一言] こっちも気になって読…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ