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冬の空気

作者: コトのハナ

http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=561279

即興小説トレーニングにて、終わりきれなかったので、終わらせました。


Twitter。@kotono_hana

クスクスと腹立たしい声が充満していったのは2年生の10月頃だった。

私も友達から伝え聞いただけだけど、実感が芽生えたのは、すっかり緑がなくなって、寒さで唇が乾くその頃だった。

幸い、イジメと言うほどにはなってないと思う。私の暮らす地方田舎では、ニュースになる程のようなことは起きない。

毎日が慣れきった日常の無刺激の繰り返しだ。私たちの人生の流れは鈍く、濁ってしまっていた。

永遠に続くとさえ思われるそんな現実が、もしかしたら今のクラスの空気を作っているのだろうと思うけど、頭の中で考えていても何も変わらない。

イジメは見て見ぬ人も同罪とか言われるけど、実際、どうしようもないのが真実だ。そうやって他人事で悪を定義するなら、親身になって正義を定義して欲しい。『××をするのが正解』とか、そんな風に。

でもだから、私は心惹かれたのだと思う。

「なにぃ」

本当に悪気もなく、ただの不注意でぶつかってしまった時だった。

私の視界を塞いでいた荷物が音を立てて落ちた。

荷物は部活の備品で、壊してしまっていないか心配になったけど、彼女のその一言で緊張とお腹の痛さみたいな感覚が混ざった。

「ごめん……」

口をついて出たのは、美徳とされる謝罪だった。

「気をつけてよ」

「うん……」

その時は、普段の様子をあまり知らない子だったから、執拗な罪悪感みたいな気分で胸がいっぱいになってしまった。

気分を悪くさせるほどのことをしてしまったと思った。

ふん。と、短い息が聞こえると、彼女はその場を立ち去った。

私は散らばった備品を集める。

「おい! ○○○!」

離れていく背中に、男の人の声が投げかけられた。

思わず、下を向いていた顔を上げる。

「おまえ、それはないだろ。またセイリかよ」

「はぁ⁉︎ なにそれカッコつけてんの⁉︎ きも! ばかしね!」

再び離れていく歩みには、明らかにズンズンと怒りが燃え盛っていた。

そのやり取りが心配になる私だったけど、彼は、ごめんな、と言った。

「あいつも、親がキツくてさ、それでイライラしてるんだよ」

「なら、あんな風に言わない方が良かったんじゃ……?」

彼は、拾うのを手伝ってくれながら、それもそうだねと笑って言った。

でも、そのうちに知ることになる。こんな地方ではニュースにならないなんていうのは私の偏見で、私の通う学校に限って言えば少なからず、彼のおかげだった。

あんなやり取りをしていても、彼と彼女の仲は険悪でなかった。むしろ、喧嘩してもそのうちに距離感が戻るあたり、仲の良さすら垣間見える。

そしてある時、私は彼の悪い話を聞かないことに気がつく。彼はいろいろなところでバランスをとって、摩擦が生じないようにしていた。意図してそれを成しているのかは知らない。

けど、私は鬱屈とした無刺激の檻から釈放されたような気がした。

全くもって彼のように振る舞うことは私には難しいけど、彼のように自分で毎日を作れるようになりたいと思えた。

流されて淀むのではなくて、流れを選べるようになりたいと。

それはまるで、正解は示されてないけど、私にとっての模範解答ではあった。

まだ乾燥した冬は続いている。

私は唇が乾かないようにリップを塗るようになった。

Twitter。@kotono_hana

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