冬の空気
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即興小説トレーニングにて、終わりきれなかったので、終わらせました。
Twitter。@kotono_hana
クスクスと腹立たしい声が充満していったのは2年生の10月頃だった。
私も友達から伝え聞いただけだけど、実感が芽生えたのは、すっかり緑がなくなって、寒さで唇が乾くその頃だった。
幸い、イジメと言うほどにはなってないと思う。私の暮らす地方田舎では、ニュースになる程のようなことは起きない。
毎日が慣れきった日常の無刺激の繰り返しだ。私たちの人生の流れは鈍く、濁ってしまっていた。
永遠に続くとさえ思われるそんな現実が、もしかしたら今のクラスの空気を作っているのだろうと思うけど、頭の中で考えていても何も変わらない。
イジメは見て見ぬ人も同罪とか言われるけど、実際、どうしようもないのが真実だ。そうやって他人事で悪を定義するなら、親身になって正義を定義して欲しい。『××をするのが正解』とか、そんな風に。
でもだから、私は心惹かれたのだと思う。
「なにぃ」
本当に悪気もなく、ただの不注意でぶつかってしまった時だった。
私の視界を塞いでいた荷物が音を立てて落ちた。
荷物は部活の備品で、壊してしまっていないか心配になったけど、彼女のその一言で緊張とお腹の痛さみたいな感覚が混ざった。
「ごめん……」
口をついて出たのは、美徳とされる謝罪だった。
「気をつけてよ」
「うん……」
その時は、普段の様子をあまり知らない子だったから、執拗な罪悪感みたいな気分で胸がいっぱいになってしまった。
気分を悪くさせるほどのことをしてしまったと思った。
ふん。と、短い息が聞こえると、彼女はその場を立ち去った。
私は散らばった備品を集める。
「おい! ○○○!」
離れていく背中に、男の人の声が投げかけられた。
思わず、下を向いていた顔を上げる。
「おまえ、それはないだろ。またセイリかよ」
「はぁ⁉︎ なにそれカッコつけてんの⁉︎ きも! ばかしね!」
再び離れていく歩みには、明らかにズンズンと怒りが燃え盛っていた。
そのやり取りが心配になる私だったけど、彼は、ごめんな、と言った。
「あいつも、親がキツくてさ、それでイライラしてるんだよ」
「なら、あんな風に言わない方が良かったんじゃ……?」
彼は、拾うのを手伝ってくれながら、それもそうだねと笑って言った。
でも、そのうちに知ることになる。こんな地方ではニュースにならないなんていうのは私の偏見で、私の通う学校に限って言えば少なからず、彼のおかげだった。
あんなやり取りをしていても、彼と彼女の仲は険悪でなかった。むしろ、喧嘩してもそのうちに距離感が戻るあたり、仲の良さすら垣間見える。
そしてある時、私は彼の悪い話を聞かないことに気がつく。彼はいろいろなところでバランスをとって、摩擦が生じないようにしていた。意図してそれを成しているのかは知らない。
けど、私は鬱屈とした無刺激の檻から釈放されたような気がした。
全くもって彼のように振る舞うことは私には難しいけど、彼のように自分で毎日を作れるようになりたいと思えた。
流されて淀むのではなくて、流れを選べるようになりたいと。
それはまるで、正解は示されてないけど、私にとっての模範解答ではあった。
まだ乾燥した冬は続いている。
私は唇が乾かないようにリップを塗るようになった。
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