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学校楽しいです

 あれから二年が過ぎた。今でも時々、ボイジャーの写真を眺めることはあるが、今更どうすることも出来ない話だし、割り切って考えることにした。

 ちなみにボイジャーは色々調べてみたものの、正体が全くわからないと言うことで、地上へ移送、どこかの研究機関に持ち込まれたらしい。まあ、壊れてるようだから仕方ない。多分そのまま倉庫の奥でホコリをかぶることになるのだろうが、それでいいと思う。何万年、ひょっとしたら何十万年も宇宙を旅してきたのだ。ゆっくり休ませてやろう。


 それにあれこれ考えている余裕はあまりない。今年から学校に行くようになったので、忙しいというか楽しいというか。勉強自体は日本の小学校レベルから始まるのだが、何十年ぶりにやる一桁の足し算引き算とか、逆に楽しい。なにしろ十二進数だから、一から十一まで一桁なんだぜ。来年からやるらしい掛け算とか割り算はどうなるんだと、ワクワクが止まらない。

 字の読み書きも楽しい。この星の文字は日本語のひらがな・漢字のように表音文字と表意文字がある。今のところ、ひらがな・カタカナに相当する表音文字しか習っていないが、それだけで三百近くある。もちろん十二進数で。五十音表のような物もあって、子音・母音の概念もある。文字の練習は大事だろう、と自分で考えて、毎日家に帰ると字の練習。そんな様子を見て、サラサが感激して褒めてくれる。カールもニムもこんなことはしなかったらしい。


 そして、学校に通うようになると、専用の端末――スマホサイズだ――を持たされる。これひとつで教科書・ノートになるし、図書館の役割もしていて、いろいろな本を閲覧できる。通信機能もあるのだが、通信できる相手は家族のみ。家族以外との通信は親の許可がいるし、通信内容が記録される。子供の安全のため、というのはどこでも同じだな。

 図書館の機能というのがなかなか充実している。学年別におすすめ図書が表示されるし、いろいろなキーワードで検索も出来る。そして、電子書籍だから貸し出し中という概念が無い。そして、何を読んだか、と言う履歴からおすすめの内容が変わる。ア○ゾンか。今は、低学年向けに編集された名作文学とかが面白くて、ついつい遅くまで起きていてしまい、怒られる。図鑑なんかも結構充実しているが、読めない字が多いので、読んでいない。それに、家にある方が充実している。マーティが集めまくっているし、一緒に読むと色々解説してくれる特典付きだ。


 友達も大分増えた。休み時間は学校中走り回り、「廊下を走るな」と先生に怒られる、学校の行き帰りは小石を蹴りながら、家に帰るとおやつを食べてから公園に集合して日が暮れるまで、この辺はどこでも同じなのかね。


 家族は相変わらず、と言いたいところだが少しだけ変化があった。カールが星で一番難しいという大学――と言う位置づけで、大学とは呼ばないが――に合格。家から通うのは大変なので、寮に入った。ニムもスポーツ――野球によく似た球技だ――で活躍。全国大会でいいところまで行ってプロが注目しているらしく、スポーツ特待生という扱いで進学。朝から晩まで、学校のない日も練習に明け暮れているらしい。「らしい」というのは学校がこれまた遠くて寮生活になったからだ。

 四人の親は相変わらずだが、子供が家にいない時間が増えて少し寂しそう……と言いたいのだが、俺に構う時間が増えている。さすがに少し鬱陶しいのだが、ダーツだけは例外で、月に一度くらい帰ってきては俺がクタクタになるまで遊び倒す。そういえば、芸能人にそんな感じの人がいたな。


 前世でも子供の頃はこんな感じだったな、と言いたいが、実のところ小学校に上がる前に母親と死別しており、父親は仕事で忙しく……というやつで、こういうのって初めてなんだ。だから、なんと言うか、人生充実しすぎてて目が回りそうだ。でもきっとこれが幸せって奴なんだろうな。


 転生して、特別な能力に目覚めるわけでも無く、『普通の生活』をしているだけ。まあいいじゃ無いか。人並みの幸せバンザイ、だ。


 そして、学校に入って一年が過ぎ、二年生になる頃、『それ』がやって来た。


「スマン、二週間ほど帰れないと思う。最悪、電話できなくなる」

「そっか、仕方ないね」


 仕事なら仕方ない、と電話の前では聞き分けのよい子になってみる。どうやら、また人工物が飛来したらしく、その対応に追われるらしい。まあ、そういうこともあるか、とベッドに潜り込む。久々にボイジャーの写真を眺め、気の遠くなるほどの距離をたった一人で旅してきた足跡に思いをはせる。そういえば、地球から最も遠くまで到達した人工物、とかでギネスに載ったんだっけ?さすがにもうギネスブックは無いが、俺が認定してやるぞ。


 一週間ほどした頃、ダーツから写真が送られてきた。超望遠で画質も荒いが、とりあえず最新映像だそうだ。機密情報?大丈夫、送られてきたタイミングで既にニュースとして公開されている。

 長方形、というか直方体。んー、丸みを帯びている?色も形もぼんやりしているのでよくわからない。


「今回のは結構でかい。多分だが、有人の宇宙船か、貨物船か、そんな感じっぽい、と言うのが周りで多い意見、というより願望だな」

「願望?」

「連合じゃないところの未知の文明とか、ワクワクしないか?」

「する!」

「だろ?」


 二人で大笑い。そんなやりとりをやや生暖かい目で見る三人の親たち。いいじゃないか、別に。


 三日後に送られてきた写真は結構鮮明になっていて、ステーションでは、有人か無人かわからないが宇宙船、と言う線が濃厚に。と言っても、写真は見せてもらえなかった。色々事情があるらしい。だが、宇宙船自体が慣性で飛んでいるらしく、ステーションをよけていく気配は無し。と言うことで、近くで様子を確認してからの判断だが、回収することはほぼ決まったらしい。


 今のところ教えて構わない範囲で言うと、という前置き付きでダーツが教えてくれたのだが、大きさは小さな家1軒くらいあるらしい。結構大きいと思いきや、星間航行する宇宙船としてはやや小さいらしい。そりゃそうか、短くても数日間はその中で暮らすのだから、燃料とか食料とか積み込むと、普通はもっと大きくなるよな。冷凍睡眠(コールドスリープ)を使っている可能性もあるのでなんとも言えないらしいけど。回収は三日後になった。と言っても、ダーツが回収に行くわけじゃ無い。


 二年前の人工物――ボイジャー――に比べると、明らかに『有人の宇宙船』ぽいと言うことで、世間ではやや大きなニュースになっていた。新たな文明との接触となると、何百年ぶりということで、テレビでは『ナントカ評論家』が訳知り顔で「平和的な種族だと思われます」とか根拠の無い持論を述べている。あんなぼやけた映像で何がわかるのだろうか、と思ったが、武器らしいモノがついていないように見えるから、だってさ。うん、こういう人ってどこにでもいるんだね。それを聞いて「やはりそうですか」とか答えているキャスターも似たようなもんか。

 一方、回収の前後は定期船が止まる、と言うニュースも流れた。結構大がかりな作業になるのと、万一故障していた場合には爆発する可能性も、と言うことで安全策をとるのだが、「回収反対」「他の文明との接触は云々」という抗議デモをする人たちもいるらしい。ステーションに直撃したら地上に墜落してきてどれだけの損害が出るのか考えていないんだろう。


 そして四日後、回収が無事に成功したとのニュースが流れた。映像は公開されなかったが、二日後にステーションに収容されるという。回収のために宇宙船が近づいても動きが無く、完全に慣性で飛んでいて、そのまま行けばステーション直撃だったらしい。映像が公開されない理由は色々あるらしいが、収容された日からダーツは連絡をくれなくなったので理由もよくわからないが、色々機密事項なんだろう。


 そして、三日後、ニュースで流れた写真を見て俺は絶句した。


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