あなた、誰?
この星の科学技術はかなり進んでいる。だが、高すぎる技術は嫌われる部分もあり、日常で使うときはほどほどに抑えることも多い。
例えば天気。ここ数日はずっと晴れになる事が決まっている。理由は簡単、街のスタジアムでプロスポーツの試合が開催されてるから、その間は晴れにする。三日後には全部の試合が終わるらしいので、その後は普通の天気予報になる。そして、天気予報は微妙に外れる。色々不満の声もあるらしいが、そのくらいがちょうどいい、らしい。
車も普通にあるのだが、空を飛んだりしていない。一応、重力制御で宙に浮く、という技術はあるのだが、地上で重力制御とか、コストがかかる割に効率が悪いので、日常的に使うことは無く、タイヤがついて回っている……タイヤの材質は不明だが。一応、緊急車両は空を飛んでいるらしいが、めったに見かけない。平和なのだろう。また、自動運転もあるが、『運転の楽しさというのもあるよね』と言う意見に基づいて、選択式。長距離を移動する場合には自動運転にして楽をする、と言うのが多い。一応事故防止のため、危険な状態になると自動運転に切り替わって回避する仕組みらしいが。
あと、わかりやすいのが電話。
テレビでもわかる通り、立体映像を使った電話というのもあるのだが、三百六十度どこからも見られるというのは抵抗があって、個人向けの電話は地球でも実現されていたレベルのテレビ電話が多い。人によってはそれすらも抵抗があって、音声のみと言うこともあるらしい。
メールもあるぞ。俺はまだ使えないが、家族間では普通に使われている。
「帰りが遅くなる」
「ゴメン、晩ご飯いらなくなる」
「明日、お弁当いらなくなった」
うん、俺も前世で結婚していた頃はこんなやりとりしてたこともあったな。娘が大きくなったら、娘とメールするかと思ったら「冗談じゃ無い」「絶対イヤ」と言って、全然してくれなかった。あれ、なんだか目から汗が止まらない……
前世の記憶を取り戻して1ヶ月ほど経ったある日の夕方、家の電話が鳴った。キッチンにいるマーティまでは電話からの距離があるし、調理の音で呼び出し音も聞こえていないようだ。画面を見ると、かけてきているのはダーツという人物だった。一応、顔と名前は知っているな。何度か会った記憶がある。まだ前世の記憶が戻ってくる前だ。
「マーティ、電話鳴ってるよ。ダーツからだって」
「ラスティ、出てもらっていい?」
こんなお子様でいいのかよ、と思ったが、いいのだろう。ピッとボタンを押すと映像が出てくる。オレンジの髪に緑の肌、目の色は黒でどこか人なつっこい感じの人物。それが、ダーツだということは知っているが、どういう関係の人なんだっけ?
「お、ラスティが出たのか。元気か?」
なんだこの馴れ馴れしさは。
「うん、元気だよ。ダーツは元気なさそう?」
「ああ、ちょっとお疲れ気味だったけど、ラスティの顔見たら元気が出てきたぞ」
どういう意味だろうか。
「この時間だと、マーティかサラサ、いるだろ。代わってくれ」
「わかった」
保留にする方法がわからないので、そのままマーティの所へ行く。
「マーティかサラサに代わって、って」
「ん?何だろう?」
炒め物真っ最中で、手が離せそうに無かったのだが、ちょうどサラサが帰ってきた。
「ただい「ちょうど良かった。サラサ、ダーツから電話」っと。わかった、出るよ」
電話の内容に特に興味も無いので、マーティが料理する様子を眺めることにする。研究職というのは皆そうなのか、手際が良い。炒め物をしながら普通に他の食材を切って、茹でて……と見とれている内に一品、二品、と出来上がってくるのは面白い。
マーティの料理は、最初に何を作るか全部決めた後、全行程を秒単位で細分化し、並行して進めることで時間短縮していく。なんて言うか、化学実験のように効率的に作業をしていく感じだ。つまり、加熱している間に別の料理の食材を切り、漬け込んで下味を付けている間に混ぜ合わせ、といった感じ。
ちなみにサラサの作り方は、見ていてもさっぱりわからない。一品だけを丁寧に作っているはずなんだけど、いつの間にか三品出来ているのだ。何度も見ているのだが、材料を切っている間、コンロには何も乗っていない。そして、火を入れて、味を調えて、と言う間にも、コンロは一口しか使っていない。なのに同時に三品出来るのだ。そう、唐突に完成品が出てくるんだよ。「こちら完成品になります」と出してくる料理番組か、と突っ込みたくなる。
ちなみにアルバートの料理は、いわゆる日本のお父さんが休みの日に作る焼きそば、といった感じ。なんか適当に作るくせに、なぜかクセになる味でおいしい、と言う奴だ。滅多に作らないけどね。
ちなみに野菜は、キャベツっぽいとかニンジンっぽいとしか言い様がない。全く違う自然環境なのだから当たり前か。キャベツみたいな形と食感なのに真っ黒で塩味とか、全部緑色で太さ二十センチ、長さ一メートルくらいのニンジンのような味のする実とか。実だよ、根菜じゃ無いんだよ。
肉も同様で、鳥っぽいとか豚っぽいとしか。足が八本、象のような耳に馬のような顔、ただし目は四つ、とかそう言うのが家畜として飼育されている。牛とか豚とかのカテゴリで語ってはいけないのだ。
ちなみに魚を食べる習慣が無いのか、そもそも魚がいないのか、魚っぽい物が食卓に並んだことは無い。動物図鑑でも見たことが無いから、魚がいないのだろうか。
今日は アルバートが遅くなる、というので五人で夕食だ。
「ダーツ、何だって?」
マーティが俺の世話を焼きながらサラサに訪ねる。一人で食べられるから、と抵抗するとやめるんだけど、少しすると再開する。体のサイズとかの関係で、どうしても少しこぼしてしまうのが気になるんだろう。でも、子供ってそんなもんだよね?
「急な話だけど、明日帰ってくるって」
「明日?!」
「そ。やっと休みが取れたって、五日間」
「本当に急な話だね。帰ってくるのは……二ヶ月ぶりか。ラスティ、ダーツのことちゃんと覚えてるよね?」
うん、よく覚えてない。というか帰ってくるってどういうこと?
「まあ、あんまり覚えてないか」
「月に一回くらいしか帰ってこないから仕方ないか」
「落ち込むだろうなぁ」
「ま、大丈夫でしょ。ダーツなら」
「そだね」
若干、扱いがひどくないですかと思ったが、それよりも妙な単語が多い気がする。
そう、俺は勘違いしていた。俺が転生したこの種は性別が四つあるのだ。
四人目の親、ダーツは、宇宙ステーション勤務だそうだ。話を聞いている限り、四人の中で一番の子煩悩で、俺が電話に出たのでテンションが上がりかけたのに、ちょっと素っ気なくされたのがショックらしく、少し落ち込んでいた、とのこと。帰ってきたらいっぱい構って機嫌をとっておこう。親子の立場が逆のような気がするが。
宇宙ステーション勤務は、子供にとって憧れの職業で常に上位にいるエリート職だ。二ヶ月ぶりの休みって、超ブラックじゃね?と思ったが、実際には地上へ降りるシャトルの日程と合わないとなかなか家に帰れないと言うだけで、ステーション内でちゃんと休みは取っているようだ。こっちの世界は労働基準法がきちんと守られているらしいので、そこは安心した。
ステーションの中にもちゃんと街があって、生活する上では困らないらしい。だが、俺のことが頭から離れないダーツにとっては、会えないのが一番の苦痛だとのこと。そうか、もう少しにこやかに電話に出れば良かったかな。
翌日、夕方。
「ただいま!ラスティ!また大きくなったんじゃ無いか?元気だったか!」
力一杯抱きしめられた。悪い気はしないが……ジタバタともがく。
「く、苦し……」
「あああ!すまんすまん!」
なんて言うか、パワフルだな。
夕食では俺の隣に座って、マーティ以上に世話を焼きたがるのにはちょっと閉口した。ちゃんとフォークを使って食えるのに、全部「ほれ、あーん」をやりたがるのだ。まあ、悪い気はしないが、一応俺も成長していることを理解してほしい。それと、一口毎に「うまいか?」と聞いてくるが、自分で作ったときに言う台詞だろ、それは。
夕食の後も、俺を離すこと無く、あぐらをかいた上に抱かれている。まあ、悪い気はしない。尻尾でペシペシと顔をはたいてみるが、無駄な抵抗。うれしそうだった。あれか、我々の業界ではご褒美です、って奴か。
「それにしても、ずいぶん長く休めなかったんだね」
向かいのソファに座ったサラサが言う。
「ああ、人工物が飛んできてな。ちょっと対応に追われたんだ」
ダーツの仕事は宇宙ステーションの周辺監視だ。ステーションの仕事は色々あるが、一番人気は定期船の乗員。パイロットとかキャビンアテンダントは花形だよな。そして二番目・三番目が、周辺監視――防衛管理部と言うらしい――と管制センター。子供がなりたい職業アンケート不動の二位、三位だ。
宇宙では大小様々な岩石が飛んでいる。それが惑星に落ちると、流れ星とか隕石とか、そう言うのになるのは地球でも同じ。だが、ステーションの軌道や定期船の航路に入るとかいうときには、排除しなければならない。それが防衛管理部の仕事。だいたい月に一個か二個の岩石が飛んでくるらしく、普段は五つのチームが交代で対応するらしい。
だが、時々『人工の物体』が飛んでくる。一番多いのが宇宙船に岩石が当たって壊れた部品だが、稀に事故で大破した宇宙船の乗員が乗り込んだ救命船だったりする。
岩石は確認でき次第すぐに破壊するのだが、人工物の場合、よほどのことが無い限り、回収されるので、チームの編成を変えたりして色々大変らしい。大抵は壊れた部品だから、回収後は廃棄処分されるそうだが。
「今回は、所属不明でね。扱いが慎重だったんだ」
「へえ、珍しい」
「どうも未知の文明の何か……探査機とか人工衛星とかそういう感じのモノっぽい」
温かい飲み物を持ってきたマーティも話に加わる。俺の手元にはホットミルクのような物が渡される。名前は忘れたが、ちょっと甘くておいしい奴だ。何かの木の実を絞って作る、ココナッツミルクのような物。もっとも、実そのものは黄色と赤のまだら模様なのに、絞り汁が白いという謎の物体だが。
しかし、そう言うのって機密情報なのでは?と思ったが、そうでも無く、普通にニュースでも流れる。まあ、三十秒くらいで次のニュースになってしまうので、人々が関心を寄せることはほとんど無い。
「ま、近くで調査してみたら、小さい岩が貫通したらしい穴が開いててね、完全に壊れて機能停止していた。一応、回収したんだが。どこの誰の物かさっぱりさ」
この星は三十くらいの星で構成される『惑星連合』に加盟している。連合自体は相互に交流を図って、お互いに発展を……みたいなゆるーいもの。地球の『国』よりも行き来がしにくいので、あえて戦争を仕掛ける星は無いが、積極的に協力し合うことも難しいので、その程度。何しろ、一番近い惑星でも最新の高速船で七日はかかる。なお、足の遅い貨物船だと十日以上かかるらしい。もちろん十二進数で。それでも、惑星までの距離は数光年あるようだから、この星の科学力って進んでるわ。
で、人工物が流れてきた場合は連合の所有物か、確認をとるのだが、今回は該当が無いという。
「連合外からだとすると、二百年ぶりくらいか?部長が処置が面倒だとぼやいていたよ」
「ああ、あの部長ね。貧乏くじ引きそうな顔してたし」
二百年、と言っているが十二進数なのは言うまでも無い。十進数だと三百年弱だが、そもそも時間の基準も微妙に違う。十二進数で三十日が一ヶ月、十ヶ月が一年。十進数に直すと……一ヶ月は三十六日、十ヶ月は十二ヶ月になる。つまり一年は四百三十日ほどになるのだが、一日の時間が地球と同じかどうかは知らない。ま、前回がずいぶん前だというのは確かだろう。
「写真もあるぞ、見るか?」
「うんうん」
「見たい!」
ダーツが小さい端末を取り出して操作すると、写真――と言っても立体映像だ――が表示される。
その映像は、俺にとって衝撃的な物だった。




