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緑の惑星

 大気圏突入の熱やら振動やらの収まったシャトル内は、ほんのわずかだが、ざわついているようだ。ようだ、というのはモニター越しに見ているので音が聞こえないせいでそんな雰囲気が伝わってくるだけ、と言う意味だが。順調にいけばあと十分ほどで、空港に到着する予定で、窓から見える緑の大地は開拓が始まっており、小さいながらも街が形成されている様子が見てとれる。その様子に期待と不安が入り交じっているのだろう。

 大陸が緑で覆われているのはわかるけど、海も緑なんだよ、この星は。ホントに大丈夫か?と思ったが、地球人が生活するにはほぼ問題ないらしい。ほぼ、というのは……ちょっと気温の上下が激しいくらい。街が作られているあたりで年間最低気温が氷点下二〇度、最高気温が四五度。それを聞いた山本さんと俺の感想は同じだった。


「エアコンつければ大丈夫だろ」


 それと重力が地球よりやや大きい。


「高重力で生活とか、修行感ハンパねえな」


 あとは毒性のある植物も動物もおらず、猛獣と呼べるような動物もいない。今まで気に掛けられていなかったのは周辺の星の住人にとっては酸素濃度が高すぎるせいというものだったのだが、地球人には結構快適な星だったのだ。


「ラスティ、そろそろ着陸だから」

「了解。えっと、座席のシートをお締めください、と」


 カールに言われ、マイクに話しかける。これで客室内のスピーカーから流れているはず。客室の様子を見ると、各々ベルトを締めている様子が見える。


「大丈夫そうだな」

「うん」

「こっちも準備をしよう」


 カールに渡された宇宙服のヘルメットをはめる。気密性確保の表示が出たところで、ハンドサイン。カールがコンコンとヘルメットを叩き、固定されていることを確認する。続いてカールがヘルメットをはめるので、同じようにしっかりはまっていることを確認。左手首のスイッチを押し、空中に表示されたウィンドウを操作して、宇宙服の機能を動作させる。無線通信もオンに。それからシートに座り、ベルトを締める。


「この宇宙服、相変わらず重いね」

「これでも大分軽量化されてるんだけどな」


 やがてモニターの表示が秒単位になり、ゼロになる頃、軽い着陸のショックを伝えながらシャトルは空港に無事着陸する。


 ベルト解除の表示を確認して席を立つと、ベルトを外して良いと言うことと、乗降口から順番に降りるように、と言うことをマイクに向かって話す。その後は、こちらもすぐに乗降口へ走る。やることは色々あるのだ。


 思った通りというか、「らしい」というか、乗客は皆二列に並んで静かにシャトルから降りてくる。床に書かれた矢印の通りに進み、大きなホールへ誘導されてきた彼らはこれまた、程々に整列して、「しばらくこちらでお待ちください」と表示されたモニターの周囲に集まっている。さすが日本人だ。


「ラスティ、こっち」


 カールに促されて、とある部屋に入っていく。中には数人の日本人がいて、いろいろな資料を手に話をしている。そのまま歩いて行き、見知った顔の所へ。


「山本さん、こんにちは」

「ラスティか、元気そうだな」

「山本さんはお疲れ気味ですね」

「昨日まで三日間徹夜続きだったからな」

「大丈夫ですか?」

「何とか昨日一日休みを取ったからな」


 カールがチラチラこちらを見てくるのでフォローしておくか。


「大丈夫、ちゃんと翻訳できてる」

「そっか、良かった」


 あれから一年。無事に検定試験に合格した俺はカールの通う学校へ入学。カールはいきなり入学が決まった俺に驚いたようだったが、事の経緯を聞いて一緒にプロジェクトに参加したい、と申し出てきた。そこで、ある程度の精度になっていた「文字の翻訳」を進め、「音声の翻訳」を共同で研究開始。日本語の発音が聞こえない理由も、音声の周波数帯が俺たちの耳の可聴域を外れているからと言う単純な物だったので、ちょっと調整するだけでマイク越しに声が聞こえるようになり、一気に翻訳機の開発が進んだ。その功績が注目されて、新惑星開拓&日本人移住プロジェクトへの参加が認められるようになった。

 惑星自体は、当初見つかった七つの惑星のうち一つがいい感じの環境だったので、すぐに他の星の技術者と合同で開拓を開始。空港とある程度の居住区、工業や農業のための施設――ほんのちょっとだけ――が完成したところだ。

 通常、新規に惑星を開拓する場合にはもっと施設を充実させてから移住するらしいのだが、山本さんと俺が「最小限でいい」と主張して通した。あと十年もすれば色々魔改造された街になっているだろう、という予想だ。

 ある程度目処(めど)がついたところで、当てもなく彷徨(さまよ)っていた大型船に連絡。曳航(えいこう)して事情説明後、いくつかの星のステーションでしばらく滞在後、本日めでたく第一陣が到着した、と言うわけだ。


「さて、行ってくるか」


 山本さんは、これまでの経緯から、今回の移住プロジェクトの日本人側代表の一人になっているので、色々スピーチがあるとのこと。ついでに色々と整うまでの間は、この空港都市の市長になるらしい。民主主義的な手続きを経ていない市長だが、この状況で選挙とか言ってもねぇ?

 一段高いところに山本さんが立つと、全員の視線が集まる。


「えー、本日はお日柄も良く……」


 ちょっと笑いが起きる。「結婚式かよ」と言う突っ込みもいくつか。翻訳機の性能が優れていることが証明された。


 色々と事務的な説明を終え、全員が移動し始めた。空港からバスで三十分ほどの距離にある居住区へ行き、あらかじめ決められた区画へ入居。その後はこれまで宇宙船の中で暮らしてきていたときのように、仕事を割り振って行くらしい。自分が好きな職業に就く、というのはまだ何十年も先だろうか。


 何となく見送っていると、山本さんがかなり高齢の男性を連れてきた。しわくちゃで杖もついているが、足腰はまだしっかりしているらしく、山本さんがしきりに手を貸そうとするのを払いのけながら歩いてくる。


「初めまして、君がラスティ君だね」

「はい、初めまして。あなたは?」

「移住船六号船『のぞみ』初代……いや、二代目船長の桜井です」

「え、えと……お、お目にかかれて光栄です」

「はは、堅くならなくていいですよ。何、どうしても礼を言いたくて」

「え?」

「私たちのために、色々と尽力してくれたと聞いています。ありがとう」

「い、いえ……どういたしまして」

「『のぞみ』は出発直前に船長が交代してね。色々と苦労した船なんだ」

「苦労はしたが、こうして目的を果たすことが出来た。先代の船長に胸を張ってやり遂げたと報告できますよ。『余計な手間掛けさせやがって』とね」


 なんか報告がおかしい。色々あったんだろうな、色々と。

 そして、桜井さんは「ありがとう」と言って手を差し出してくるので、こちらも握り返す。


「さてと、ラスティ君」


 桜井さんを見送ると、山本さんが真面目な顔になる。


「次の便の到着は明日だが、その準備が山積みだ。手伝ってくれるよね?」

「どうせイヤだと言っても手伝わせるんでしょう?」

「わかってるじゃ無いか」


 カールがやれやれ、と言う顔をしながら横に並ぶ。うん、運命共同体だからね。


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