ぶっちゃけてやった
ステーション生活二日目にして、既にちょっと後悔し始めた。午前中の会談というか会合は結構神経使うし、午後の勉強に至ってはサラサが「半日しか勉強の時間が無いんだから、二倍やらないとね」と意気込んでいるので、気の休まるときが無い。
それでも、元日本人として現役の日本人のために、と何とか頑張った。五人の生活する場所が格納庫から他の惑星からの訪問者用の部屋に移ったのだ。何て言うか、集中治療室から一般病棟に移った、みたいに感動した。と言っても空気の関係でステーション内を自由に歩き回れるわけではないので、不自由な事は変わりないのだが、五人は「宇宙船よりはるかにマシ」と前向きに受け入れてくれている。
自動翻訳の方はまだしばらくかかるらしい――ある程度日常会話が出来るレベルでも数千の単語登録が必要になるとか――が、山本さんが「よかったらこれを」と辞書をくれた。紙の辞書とかよく持ってきたよな、とちょっと驚いた。しかし、よく考えてみれば、紙って、数百年単位での保管も可能だから、ある意味では正解なのかもね。辞書はダーツに渡し、ダーツにひらがなとカタカナ、ある程度簡単な漢字を教えながら翻訳に役立ててもらっている。
五日目、さすがに連続しての会合は大変と言うことで今日はお休み。と言っても、部長が家までやって来て色々相談。
「まず、現状の再確認から」
空気の成分、気圧、温度の他、重力も細かく調整できたので、五人は宇宙服無しで用意された部屋の中で自由に過ごせるようになった。食事に関しても保存用食料の複製が進んでおり、毎日ほとんど同じ物という状況ではあるが、食いつなぐことが出来ている。また、複製しながら成分の解析も進んでおり、普通に生産されている物が利用できないか検討中。
そして平行して、彼らが移住可能な惑星が無いかを探している。今のところ、連合に加盟している惑星には該当が無く、とりあえず原始的な生物は生息しているが、知的生物はいない、と言う星を調査中。ただし、連合が把握しているだけでも千以上あることと、詳細な調査が行われていない星が大半なので、かなり時間がかかるらしい。
移住するためにどこかを航行中の宇宙船の捜索も開始。移住可能な惑星が見つかり次第、誘導するための準備も進行中だ。とは言え、計画では宇宙船は六隻建造され、方角もバラバラだったと言うから探すのは難航しそうな予感。
そして昨日、地球の様子を確認するための探査機が出発した。小惑星群の衝突があったと言うが、まだ生き残っている人々がいるのか、それとも……と言うことを確認するという。もちろん、地球が無事ならば送り返すことも検討と言うわけだ。
「さて、明日からだが……」
とりあえず、当面の問題がクリアできたので、明日からは『雑談』だそうだ。目的は自動翻訳の精度向上。できるだけ早く俺を解放しようと言う方針らしい。だが、雑談をするとしても、ある程度テーマは決めておいて、いろいろな単語を扱えるようにしなければならない、と言うことで専門家達がテーマを厳選中とのこと。ダーツも一緒に朝までかけて考えるらしい。徹夜か、ご苦労様。
「とまあ、部長も色々考えているのだが、ラスティ、お前の希望も聞いてみたい」
「希望?」
「何か聞いてみたいこととか、希望は無いか?一番貢献しているからな」
「それなら……」
俺の希望は、ある程度予想できた物だったらしく、意外にもすんなり通った。
一人であの五人と会話したい
ダーツには何となく『前世』の事を伝えている。多分信じているだろう。しかし、だからと言って一人で会話なんてよく許可するもんだと思ったが、どうやら俺の様子を見ていて思うところがあったらしい。
とりあえず予定をこなしてから、と言うことで五日後に少しだけ時間をもらえることになった。
翌日からは、会合専用の部屋――単純に会議室と呼ぶらしい――を使って話を進めた。イメージ的には刑事ドラマとかでよく見る、刑務所の面接室みたいな感じ。分厚いガラスで仕切られており、お互いに宇宙服無しで会える。空気の関係でこれが限界だが、部長はかなり楽になったようだ。宇宙服、かなり重いらしいからね。
雑談は本当に雑談だった……とも言えない。地球の文化、つまり絵画や音楽などの芸術や各種娯楽などについての話をしている。相互理解、と言う意味では重要なことなんだろうな。
俺としては自分が死んだ後の地球の歴史を知ることが出来て面白かったのだが、ダーツは……新しい単語がどんどん出てきて、死んだ魚の目になっている。この星には魚なんていないけど。
そんな感じで五日間を過ごし、いよいよひとりで対面する時間となった。
タブレットに、「今日は少し早いですがこの辺にして、ある人物と会っていただきます。会うと言っても、この部屋ですが」と書き込む。少し動揺したようだが、「わかりました」と返事が返ってくる。
「よし、行こう」
ダーツに連れられて廊下を進み、会議室へ向かう。ドアの前で部長が待っていた。
「一応安全のためにだが、映像はチェックしておく。でも、タブレットの内容は残らないから安心していい」
「わかりました。ありがとうございます」
礼を述べて中に入る。ダーツは「そこに座って」と示し、俺が椅子に座ると出て行った。
さてと、何から話そうか。うん、まずは自己紹介からだな。
「ラスティと言います。初めまして、山本さん。いや、実際にはずっと通訳していたので初めてじゃ無いんですけどね」
「失礼なことを聞くけど、子供だよね?」
「はい。このステーションの職員の子供です」
「それがなぜここに?と言うかなぜ我々の言葉がわかる?」
「簡単に言うと、僕の前世は日本人でした」
「前世?」
「はい。そして山本さん、おそらくですが……あなたの祖父、松田良介は前世の僕の孫です」
山本さん、口ぽかーんになっちゃったな。他の四人もほぼ同じ感じ。
「名前に心当たり、と言うのもそうですが、その左手の甲のアザ、前世の僕にもありました」
「ちょっと待ってくれ。と言うことは何か、俺は今、部下である四人の前でご先祖様に会うという、なんだかよくわからない状況にあると言うことか」
「そうなりますね」
なんだか五人で色々話し始めた。声も聞こえないし、時間ももったいないので書き進める。
「実は……皆さんよりも先にボイジャーも来ています。一号、二号どちらなのかはわかりませんが」
「何だって!?」
「残念ながら何かにぶつかったらしくて壊れてしまっていますが、地上に保管されています」
「んーと、方角的には多分一号の方だと思う。しかし、俺たちの宇宙船の方が速度が速いはず。ボイジャーが先に到着っておかしくないかな?」
「詳細はわかりませんが、僕の親たちの見解は、偶然スイングバイが行われたのでは無いか、と言うことでした」
「あー、可能性がありますね。確かに、途中にいくつか利用できそうな星があったような……地球からは観測できなかった星なので、近くを通るときはヒヤヒヤものでした」
こちらもこちらで苦労したんだな。
「それにしても前世、か。死んで転生、とか物語じゃ定番のジャンルだけど、実際にあるとは……」
「言うなれば……『転生したけど普通の人でした』って感じですけどね」
「違いますよ」
「違う?」
「『転生して普通の人生送ってたけど、元の世界から子孫が来ました』でしょう?」
「確かに」
皆で笑っていたら、ちょうどタブレットに通知が入ってきた。時間だな。
「短くてアレなんですが、時間になったのでお開きです」
「いやいや、有意義な時間をどうも。ご先祖様」
「ところで今後のことですが」
「はい」
「自動翻訳システムができあがるまでは、僕が通訳をします。通訳をするときは個人的な会話は出来ませんが、伝えづらい困りごとでも、とりあえず書いてみてください。何とかしようと思います。あとは、できるだけ今日のような時間をとってもらえるようにするので、その時でもいいし」
「うわ、めっちゃ子孫思いのご先祖様だ」
拝むな。確かに死んだけど、今は生きてる。
そんな感じで、初めてのお一人様会合は終わった。




