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これからのこと

 家に帰ってきたのはかなり夜も遅く、すぐに寝るように言われた。疲れていたこともあり、すぐにベッドに潜り込む。気がついたら朝だったと言うくらい熟睡していた。

 いつもより少し早い時間だが起き出してみると、アルバートとサラサが出かけるところだった。こんなに早くから、と思うよりも早く「行ってらっしゃい」とマーティと一緒に見送った。


「今日はやけに早起きだね」

「ちゃんと寝たよ、眠くない」

「ん、そうだね。なんか、すっきりした顔してる」

「そうかな」


 頭をくしゃっとなでると「ご飯にしよ」とリビングへ向かう。洗面所で顔を洗ってからリビングへ行くことにする。

 いつものように踏み台に上がる。そろそろこれも必要ないかな、と言うくらいには背が伸びている。鏡を見ると、すっかり見慣れた顔。だが、マーティが言うように何というか憑き物が落ちたと言えばいいのか、「いい顔」になっているのがわかる。色々気がかりだったことが解消したからだろう。まだこれからも色々あるだろうけど、今は考えないようにしよう。せっかくいい方に進んでいるんだから。

 マーティと二人きりで朝食。よく考えたら、朝食に誰か欠けているというのは初めてのような気がする。寮生活をしているカールとニムは仕方ないとしてもだ。ちょっと寂しいが、ちょっと新鮮。そんな感じで朝食を終え、少し早いが学校に行く支度を、と席を立つ。


「ラスティ、待って」

「何?」

「今日、学校行かなくていいから」

「え?」


 前世だったら「親公認でサボれる!」と小躍りしそうな所だが、今は違う。ちょっと様子が変だ。


「ちょっとこの後出かけるから、着替えだけしておいて」

「うん、わかった」


 着替えると言っても……適当に普段着でいいのかな、と自室に戻ってからごそごそと着替えを済ませてリビングへ戻る。ちょうど朝食の片付けが終わった所だった。


「よし、ちょっと待ってて。支度してくるから」


 そう言い残し、マーティはパタパタと廊下を歩いて行った。それほどかからないだろうと踏んで、テレビを付ける。ニュースを付けてみたが、特に昨日のことを報じている様子は無い。さすがに急に発表できるものではないのだろう。お、学生スポーツの大会の様子だ。ニムは……予選が始まったばかりで最初の試合は三日後のようだ。出来れば応援に行きたいが、さすがに少し遠い。試合の当日に応援メッセージを送っておこう。そんなことを考えていたら、マーティが戻ってきた。


「お待たせ、行くよ」

「うん」

「ニュース見てたの?なんかあった?」

「うん、ニムの試合、予選が三日後だって」

「そっか、応援しないとね」


 笑顔を交わして外へ出る。車に乗ると、マーティが行き先を入力し、走り出す。


「さてと」


 マーティが、いつになく真面目な顔でこちらに直る。釣られて姿勢を正してしまう。


「昨日の件について、ラスティが寝た後に連絡があってね」

「うん」

「ちょっとだけ大変なことになりました」

「ちょっと……なの?」

「んー、かなり、かな」


 ですよねー。


「とりあえず学校はやめることになりました」

「え?」

「正確に言うと転校だね」

「転校って、どこへ?」


 この星の教育制度は日本のそれに少し近く、小中学校・高校・大学のような感じで、小学校と中学校が合体したような感じの六年と高校三年、大学三年が一般的。それ以上は大学院のような研究機関になり、教育機関では無くなる。そして、小中学校は学区が決められており、学区外に通うことは無い。つまり、転校と言うことは親の都合などで引っ越す以外は無いのだが、どういうことだろうか。


「転校先は……ステーション」

「え?ステーションって学校は無いよね?」

「無いけど……出来た」

「出来た?」

「ラスティ専用」

「専用……」

「校長はあの部長で……ま、名前だけの校長ね」

「部長さんが校長先生……」

「担任の先生はサラサ」

「サラ……ええっ!?」

「アルバートとサラサはその辺の話をつけに行ったのよ」

「でも、サラサが先生……?」

「結婚する前は先生やってたよ、知らなかった?」

「聞いたことがあったような……」


 と言うか、ダーツ以外、どこでどんな仕事をしているのか、ちゃんと聞いた記憶が無いな。と言うか、『話をつけに行った』ってどういうことだろうか。聞かない方がいいだろうな、きっと。


「ところで、どこに行くの?」

「アリオン。ステーションで暮らすからね、いろいろ買っておかないと」


 そう言っている間にも、そのアリオンが見えてきた。何度見てもイ○ンタウンだ。

 車を降り、マーティに手を引かれながら中へ。


「とにかくいろいろ買うから、大変だと思うけど、ちゃんと着いてきて」


 何がどう大変なのか……三時間後には充分過ぎるほど身に染みてわかった。三時間の間、移動・買うものを選ぶ・会計を繰り返す。いわゆる女性の買い物のようにあれこれ見て回って時間がかかるというのでは無く、ひたすら買い続けた。さすがにマーティもお疲れ気味で、帰りの車内では二人ともほぼ無言だった。


「まだこの後荷造りがあるからね」


 地獄の一言だった。


 アルバートとサラサが帰ってきたのは夜遅くだったらしく、いつもより早い時間に寝てしまったので、いつ帰ってきたのかは知らない。なぜ早かったのかって?荷造りで疲れ切ったからだよ。

 翌朝起きると、荷造りの続き……ほぼ見てるだけだったが、昼頃に終わった。それからアルバートに連れられて学校へ。サラサはマーティと買い物へ。

 学校は先生達に簡単に挨拶しただけ、アルバートは色々手続きをしていたようだけど。友達には会えなかった。ちゃんと会ってお別れを言いたかったが、事情が事情だけにやめておいた方がいい、とアルバートに言われた。まあ、「どうして転校するの?」「どこに行くの?」と聞かれても答えづらいしな。

 家に帰ると、もうすぐ日が落ちるという時間だったが、空港へ。車二台を使って。一台は無人で荷物しか積んでない。半分以上走ってから「忘れてた」とダーツに連絡を入れていた。

 空港へ着くとダーツが待っていた。大分疲れた顔をしてる。


「頼むから家を出る前に連絡をくれ」

「忙しくてうっかり忘れてた」


 愚痴を言っていたが、三人ともスルー。仕方が無いので俺がじゃれついてご機嫌取り。何だろうこの気配りは。

 そして専用機でステーションへ。ステーションへ着くと、職員の居住スペースへ案内された。これがここで暮らす家、と言うことになる。あまり他の職員に会わずに済むような場所らしい。ダーツもここに越してくるし、アルバート達もこっちに来るときはここに泊まることになる、と言うことで結構広い。

 荷ほどきもそこそこにアルバートとダーツはどこかへ行った。部長と色々話があるそうだ。残った三人――と言うか俺はほとんど戦力外なのだが――で荷物を整理していく。基本的にステーション内は空調が効いているが、一応季節感はあるらしいので、夏服とか冬服も必要になる。季節感なんて出さずに、コストを抑える方向にすればいいのでは?とも思ったが、そうしておかないと地上に降りたときに結構大変なのだとか。


「ほらこれ、ベッドに置いといて」


 マーティが大きなぬいぐるみを渡してくる。うん、寝るときはいつもこれを抱いているから必要な荷物だよね。

 荷物を片付け終えてしばらくするとアルバート達が帰ってきた。そしてそのまま全員で出かけ、ちょっと遅いがステーション内のレストラン街で夕食に。夕食後、アルバートとマーティは地上へ帰っていった。

 家に帰ると、明日からのことをダーツから聞いた。しばらくの間は午前中は宇宙船の五人の対応、午後は勉強。ダーツはステーション内でいろいろな仕事があるので、基本的にはサラサが常に俺のそばで世話を焼くことになる。


「目標を決めようか」

「目標?」

「カールと同じ学校に入る。これで行こう」


 サラサの無茶ぶりがひどいです。


 翌日、早速朝から部長の部屋へ……大分痩せたというか、やつれたように見える。まだ二日も経っていないのに大丈夫だろうか。そのまま部長と共に格納庫の方へ。部長と別れ、格納庫の隣の部屋へ入ると、色々と準備中だったダーツが、こちらにタブレットを渡してくる。


「ラスティ、これを。この前と同じ操作でいいから」

「ん、わかった」


 壁にはスクリーンが掛けられており、前回同様に格納庫内の様子が映っている。椅子に座り、タブレットの操作を開始する。おはようございます、とでも書いておこう。


「準備はいいか?」

「いいよ」

「部長、こちらは準備できました」

「了解」


 格納庫に部長が入っていく様子が見える。宇宙船の方もすぐに扉が開く。山本さんと……あと四人も出てきた。これで全員か。


「まず、これを」


 ダーツが手元のタブレットの文章を見せる。ちゃんと難しい字を使わずに書かれている。念のために単語の意味を確認しながら日本語にして書き込んでいく。書き進めていくと、ダーツが色々質問してくる。自動翻訳システムに日本語を登録したいらしく、「これはなんていう文字?」と聞いてくるんだが、やりづらいから後にしてほしいな。

 今回の内容は空気の成分比率とか気圧・温度の微調整がメイン。幸いなことに元素の周期表は同じだったので、比較するだけで成分の微調整は何とかなった。気圧とか温度とかは度量衡の調整から。長さとか重さとかを換算できるようにしていく。日本語を訳すのがとても大変で、なかなかダーツに伝わらないのだが……サラサが間に入って通訳になってくれた。そうか、学校の先生なんかやってると子供の乏しい語彙力を理解する能力が高くなるのか。

 ちょうど昼時になり、部長が「時間だから」と切り上げた。かなり尻切れトンボになっているが、五人にも納得してもらっているし、俺も疲れた。と言うか、この後普通に勉強があるんだよな……サラサが手加減してくれることを祈る。



 ……結論。手加減なんて無かった。


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