朝起きて気がついたら奴隷がいた
「あー、嬢ちゃんはどうしてここにいるのかな?」
「覚えてないのですか?」
ぴょこぴょこと動く耳。首には大きな首輪。着ている服はボロ布。
うん、少女にさせていい格好じゃない。というか、首輪ついてる時点で奴隷だよな。なんでいるんだ?
よし昨日のことを少し思い出してみよう。
確か昨日は仲間と仕事の成功で盛大に飲み歩いて……勢いで奴隷商に行ったような気がする。
そこで何かオススメされて、酔っ払った勢いでその時稼いだ金を全部使って奴隷を一人買ったような……
「いや買った経緯は思い出したけど、そこからは全く覚えてないから、買った後のことを教えて欲しい」
「ご主人様は私を買われた後、すぐにここに私を引っ張っていきました。私の体を舐め回すように見ていました。正直言って気持ち悪いです。近寄って欲しくないです。ご主人様は女の体を舐め回すゲスなのですね」
「ひどい言い草……」
「事実ですから。どうせ私を買ったのも持て余す欲望を私を使って存分に発散するか為なのでしょう? 汚らしい」
随分と口の悪い娘のようだ。あ、契約書。流石に高額商品だから契約書くらいはあるかな。
そう思い探してみると机の上に乗っていた。
「えーっと、主従の契約を交わした証として首輪が奴隷にはつけられています。これは奴隷の位置を補足するとともに懲罰を与えることも可能となっています。痛みの段階は五つあり……ふむふむなるほど」
契約書もとい説明書によるとどうやら俺が念じることによって首輪から適度な痛みを与えることができるらしい。試してはみたいがその前にこの娘の服装がきになる。どうせなら俺の好みの服を着せたい。
「よし、君の名前は?」
「どうせ答えなければこの首輪を使って痛めつけるのでしょう? ご主人様は鬼畜ですね」
「いいからさっさと名前教えて」
ここまで言われるとへこむよ。
「リリー」
「よし、それじゃリリー服買いに行くぞ。ついてこい」
「私に何かいかがわしい服を来させようとしているご主人様は変態ですね」
なんだろう。この娘、これを素でやってるならとんだ変態だな。エルフってこんなに変態なのか?
「普通の服だから大丈夫だよ」
「それなら良いのです」
つかみどころのないエルフだ。いやそんなことより店に行こう。知り合いの服屋の親父ならリリーに似合う服を見繕ってくれるだろう。
「おい親父!!」
「朝っぱらからうるせえな。大きな声出さんでもわかるわい」
服屋の親父はリリーを見て俺を憐れみのこもった視線で見てきた。なんだよひどいな。
「お前、とうとう犯罪者になろうとしているのか」
「誤解だから!?」
誤解を解こうと説明すると、親父は豪快に笑ってそりゃ災難だったなと言ってくれた。うん、この親父は見た目は怖いけどやっぱりいい人だ!
「で、この娘に似合う服をいくつか見繕って欲しいんだ」
「それならいい服が何着かあるな。嬢ちゃんちょっとこっち来てくれるか」
リリーは何も言わずに従う。俺の時とはえらい違いだ。俺への不遜な態度は一体なんなんだろう。
「このサイズでとなると…… あったあった」
「はいよ。これとこれ、あとはこれだな」
親父は手際よくリリーのサイズに合わせた服を何着か出してくれた。試着して丁度いいようなら買っていこう。
「試着の必要はねえよ。俺の見立てに間違いはない。それに嬢ちゃんにはなんでも似合うよ。お前の好きそうな服も何着か入れておいたからな。なんならそれを着せていけよ。いつまでもそんなボロ布だとその子もかわいそうだ」
「そうだな、リリー着替えるか?」
「着替えます」
素直でよろしい。素直な言葉は嬉しいなあ。
「おい兄ちゃん、どんな事情であれ一度買ったなら絶対大事にしろよ。あういう状況に置かれる子は大抵心に傷があるからな。メンタル面を気をつけないと大変なことになるかもしれないぞ」
「忠告ありがとさん。参考にさせてもらうよ」
心の傷なんてリリーにはありそうにない。俺に悪態つくしどっちかというと俺の心の方がボロボロです。
「ご主人様はこういう服が好きなのですか? だとしたら変態です。変態ば近寄らないでください」
「言われてるなあ兄ちゃん」
親父は豪快に笑ったが俺としては結構、グサグサと心に突き刺さる言葉です……
それにしてもメイド服を着たリリーは随分と可愛い。口さえ悪くなければ完璧か。
「そんじゃまたなんかあったら頼むわ」
「おう、いつでも待ってるぜ。そこの嬢ちゃんもいつでも来いよ。大歓迎だ」
親父は優しい。見た目はスキンヘッドかつ筋肉隆々で服屋とは誰も信じなさそうで、さらに言えば裏社会の人っぽいのに善人だ。
人は見かけによらないってのはこのことなんだな。
「さて次の店に行こうか」
「私にあんなことやこんなことをするために必要な道具が売っているお店ですね。なんで畜生なご主人様なんでしょう」
「街中でいうのはやめてほしいんたけど!?」
「事実ではないですか」
真顔だ。真顔で言ってくるから尚更怖いんだけど。
「いいから来い!」
「ああ、私はこれからどうなっていくのでしょう」
無理やり手を引っ張って次の店に向かう。あまり抵抗しないところを見ると嫌ではないようだ。なんなの本当に。
「お前遂に小さな子に手を出したのか…… なに気にするな。私はお前がそんな社会的によろしくない趣味を持っていても蔑むだけでそれ以外の付き合いは変わらんから」
ん? 結局アウトって言ってるじゃないか! 俺の友人はこんなやつしかいないの!?
「それで真面目な話、その子はどうしんだ」
よかった彼女はふざけていたようだ。
「実はーーという訳なんだ」
「やっぱり犯罪者でいいか」
「よくない、よくないから!!」
必死に否定するが目の前の女は分かった分かったと棒読みで言ってきやがった。なんたる屈辱。
「そんなことよりもこの娘に必要なものを買いに来たんだけどさ、適当に見繕ってくれないか?」
この女の営む店とは何でも屋に近い。最初は寝具を売っていたはずが、なんだか家具やら雑貨やら果てに占いの用品まで置くようになった意味不明な店だ。
置いているものが来るたびに増えていふが何かと便利な店ではある。
「……服は親父のところで揃えたか。お前の家にもう一つベッドを置く余裕はあるか?」
「いやないな」
そういえばあの家も二人で済むなら狭いかもしれないな。
「分かった。どうせあんなボロ屋はすぐに引っ越しそうだから、枕と毛布で十分だろう。あとは日用品はその娘に選ばせな」
「だそうだ。リリー、自分の食器とかを適当に選んでくれ」
「ご主人様が選ぶと淫乱な食器になりそうだったからよかったです」
もう本当になんなのこの娘。
「おい、お前は引退することは考えているのか?」
引退、唐突に言われたそれは俺の今の仕事のことだ。
「んー、稼ぎはいいからまだ辞めたくないな。それに引退後にどんな仕事をするか全くビジョンが見えん」
「早めに考えておいた方がいいぞ。いつまでもできる仕事じゃないからな。もっとも、二十半ばのお前はあと数年は仕事ができそうではあるがな」
「ご心配ありがとう。いざとなったら育成にでも回るか、なんかの斡旋業者でも作るよ」
ぼんやりとしか思い描いていない引退後の人生設計の一つだ。まだまだ稼がなくちゃいけないという気がして引退の『い』の字もないのが今の俺だ。
だが、こいつの言う通り考えるべきではあるのだと思う。
「はは、仮にもそこそこ強えお前ならどうにでもなるんだろうな」
「ご主人様は強いのですか?」
「ああ、こいつは友人としてのひいき目抜きにしてもかなり強い。リリーちゃんも見たと思うけど本来あんなボロ家に住む必要なんてないはずなんだけどね」
「以外です。私は弱いヘタレなのかと思っていました」
なんだと。これは今までの中で一番の心外だ。流石に怒っちゃうぞ!
「戦闘面以外ではそれも間違っちゃあいないなあ」
おいそこ! 何言ってるんだ。ただこいつがいうなら事実ではあるんだろうが、リリーに揺すられそうなことはあまり言わないで欲しい。
「それで選び終わったのか?」
「はい、ご主人様に無駄なことを言われる前には選びきることができました。これで私の純潔は守られます」
うん、言っている意味が分からん。
「お前も苦労しそうだな。私含めて周囲は賑やかになりそうではあるけど」
「だといいんだけどな」
心の底から何もなく賑やかになってほしい。
「そういえばリリーちゃんはいくつなんだい?」
そういや幾つなんだろう。見た目的には間違いなく10代だが後半か前半かはわからん。
「今年で15歳くらいになります。よかったですね。おそらくではありますが”ロリ”と言われる年齢は超えていて」
15歳にしては随分と変態な気がするが、そこは触れない方が吉だ。君子危うきに近寄らずと言うし。
「以外だねえ。私の目にはもう少し下に見えたよ」
本当に余計なこと言わないで!
「ご主人様はやはり幼女趣味があるのですか?」
ほらこうなった。もう答えていて飽きないけど、心は徐々にえぐられていくんだから勘弁してほしい。
「そんな趣味はないよ。俺はアイツが好みだよ」
「バカっ! 目の前でそういうこと言うんじゃない!!」
照れてやんの。でも事実だ。
「お二人は付き合ってらっしゃるのですか?」
「「……」」
少なくとも俺は付き合いたい、のだが……
「お前、私に気があるなら言葉にして言えや」
「そっちだって」
「なるほど、要するにお二人は両想いにもかかわらず照れ臭くてお互い付き合いたいことを言い出せないヘタレだったのですね。私、そういうのは好きですよ」
リリー……世の中には言っていいことと、言わない方がいいこともあるんだぞ。だけど、これに関してはちょっぴりありがとうと言いたい。
言ったらなんか言ってきそうだから言わないけど。
「なあエマ、良ければ俺と一緒に暮らさないか?」
勇気を振り絞って言ってみた。ずっと気があったんだ。リリーにきっかけをもらったことになる。
「なっ、クロード!! いきなりすぎるだろ……」
お互いすごく久しぶりに名前で呼びあった気がする。
「住む? 住まない?」
「住む、住んでやる! ただしあのボロ屋は絶対嫌だからな。ちゃんとした家を用意するなら一緒に住んでやる」
これはつまり……成功だ。
「任せとけ。素晴らしい物件を全力で探そう」
気合いが入る。さて今から不動産屋に行かなくては。
「その、なんだ。不動産屋は私も一緒に行かせてくれ。私も店ごと引っ越したい。今は手狭だしな」
「分かったよ」
嬉しい。涙が出そうだ。でもなんか忘れているような……
「ご主人様は色ボケなのですか? そしてエマ様とご結婚されるのなら私はどうなってしまうのでしょう。ご主人様の玩具となってあんなことやこんなことをされてしまうのでしょうか」
ヤバい…… 二人の空間に浸っていたら、当初の目的をすっかり忘れていた。それにリリーの言ったこと途中からはおかしかったが、前半は確かに的を射ている。
リリーはどういう扱いになるんだろうか。養子? 愛人? メイド?
「どうだっていいんじゃないか? お前がどういう経緯であれ買った奴隷だ。どう扱おうとお前が決めればいい。私はお前が決めたことに対しては口を挟む権利もないしな」
そう言われると余計に難しい。普通奴隷ならば、ひどい扱いにされるのは当たり前とも言える。
それでも俺としてはこの国では異質と思われても、邪険には扱いたくない。
「リリー、俺と、俺たちと家族になってくれないか?」
「本気ですか? 私は奴隷ですよ。それを承知の上で仰ってるなら私にはその思考が理解できません」
これが普通の反応だ。いくらリリーが変態的で横暴な言動ばかりしていると言ってもやはり奴隷という立場はしっかりと認識しているようだ。あれら発言は苦しさを紛れさせるためのものなのかもしれない。
「正気だ。もしリリー自身が望まないなら無理強いはしない。望まいからといって追い出すことも売っぱらうこともしない」
「そんなの私に選択権なんてないじゃないですか。鬼畜クソ野郎のご主人様が考えそうなことです」
おいおいおい! 暴言がさらにひどくなってるんだけど? 俺、結構優しく言ったよね。なんでそんなに怖い言葉浴びせるの。お兄さんいい加減心折れちゃいます。
「リリー、クロードだって何も今すぐ決めろって言っているわけじゃないんだ。ゆっくり決めればいいさ」
エマは優しいなあ。ただ俺をかばう優しさも欲しいのです。お願いします。
ここで一句読んでみよう。
俺の心 壊れゆくのは 誰のせい
むー、微妙どころか駄作だった。
「でもどんな選択肢を取ってもご主人様は獣のように私を襲うのでしょう? 嫌な人ですね」
「リリー……俺は心が折れそうだよ」
「よかったです。心が折れて。きっとら新たな嗜好が開拓されるのではなですか?」
「ないから! 絶対ない!!」
即答だよこんなもの。俺にはマゾの要素なんてないぞ!世の中には踏んでくれたらご褒美ですとかいう中々にクレイジーな変態紳士も存在するが、あいにく俺はその領域には足を踏み入れたくない。
「そうは言ってもお前本当は私に何かして欲しいと思ってるんじゃないか?」
介入してほしくない奴が介入してきた。
「やはりご主人様はそう言った趣向を現時点でお持ちなのですか?」
「多分持ってるだろ。男は多かれ少なかれHENTAIの要素を持っているか らな」
男に限らず生物なら女だって多少はあるだろ。俺は言わない。言ったらセクハラじゃい。
「そうなんですか。ご主人様はどうしようもないのですね」
しかしよくこんなに暴言がスラスラと出てくるよな。こいつ今まで何してたんだろ。
「沈黙は肯定ですよ」
「そんな使い方初めて聞いた」
もう少しシリアスな状況下で使う言葉かと思ってた。
「おや、そんな趣味が本当にあったのか。なら私には興味がないということになるな」
おい、なぜ咳払いをするんだ。エマは何を言う気だ? とても嫌な予感がする。
「あたし、ちょっぴり寂しいな」
嫌な予感的中。率直に言って吐きそうだ。普段絶対に言わない言葉を言うなんてひどい。
「あー、言わない方が確実にいい。なんと言うかお前がお前じゃない気がきてな」
傷つけないように言ったつもりだがどうだ?
「ほう、私を気持ち悪いと言うか」
「大丈夫です。気持ち悪いのはエマ様ではなくご主人様です」
話をややこしくするのはやめい。どう答えていいか分からんのですが……
誰か教えてくれるなら教えて欲しいものなのです。
「うむ、よく言った!! 私よりこいつの方がよっぽどいかれた奴だ」
さっきまでの俺の感動の告白を返せ。
「二人ともその辺にしといてくれるかな? 話がちっとも前に進まない」
エマはケラケラと笑ったがリリーは軽く舌打ちする音が聞こえたぞ。こいつら絶対俺の反応を楽しんでたろ。
「それで次は何をされるのですか?」
「本当は違う店に行きたかったけど、さっきのことで予定変更したい。エマが大丈夫なら不動産屋にいこうと思う」
「早速愛の巣を構えようと言うわけですか。甘くて甘くてそれこそ砂糖を溶かしたみたいにトロトロです」
ん? 砂糖って結構高いし、とかしたものを見たことがあるやつなんて少ないような気がする。こいつ一体……
「そんな風に言ってくれるなんて嬉しいじゃないか。よし、クロードさっさと不動産屋に行くぞ」
「誘っておいてなんだけど、店は大丈夫なのか?」
エマの店はなんだかんだ言っても繁盛している。そんな店を一日潰すかもしれないことにつき合わせて少し申し訳ない。
「あ? お前と一緒に暮らす家探すのにどうして今すぐしないんだ?」
「そりゃどうも」
「お二人は昔からこんな感じだったのですか?」
「いや、まあその……」
「事実ですか。よく今まで結婚をされませんでしたね」
いや仕方ないじゃん。というかさっきのやりとり見てたらなんとなくわかるはずなんだけど。
「ほらクロード何をしている。さっさと行くぞ!」
エマが俺の手を強引に引っ張った。リリーは…… 大丈夫だ。ゴミを見るような目をして俺たちについてきている。
「リリー、そのふてぶてしい目をやめてくれないか?」
言ってしまった…… リリー、頼むから俺の傷に塩をつけた上で、ナイフで広げようとしないでくれよ。
「ご主人様は汚いものを純粋な眼差しでみることができますか?」
自分の感がていたことはフラグだった。そして、そのフラグは見事に回収され俺の傷はさらに傷ついた。
クロードノココロノタイキュウハ1ニナツタ
最悪じゃねえか。誰だよ俺の心の耐久が1になってとかいうやつは。言っとくがこれは俺じゃないぞ。
「何一人でブツブツ言っているんですか気持ち悪い」
「分かったから少し黙っておいてくれないか。俺も心の傷を癒す時間が欲しい」
「では少しの間黙っておきます」
「クロード頑張れよ。少なくとも私はお前の味方だからな」
手を引いていたエマはなんて優しいほだろう。涙出ちゃうよ。冗談でもなんでもなく。
「エマ君は最高だ!!」
「……」
無視された。ひどい扱いだから断固抗議したい。ん? エマの顔が赤いような気がする。
「この天然鈍感野郎……」
「ご主人様は乙女の心をわかっていらっしゃらないのですね。それをわかった方がよろしいかと思いますよ。でないとあんなことやそんなことでしか興味を引くことができなくなりますからね」
「そんなにわかっていないか」
「分かっていませんね。本当に気色悪い人たちよりは数百倍マシではありますが」
リリーの言う気色の悪い人とは一体。ま、なんにせよエマは少し機嫌がわるくなってしまったしどうしたらいいんだろうなあ。
「さあてエマ、不動産屋言ったら俺のおごりで飯食いに行こう。なんかあった時は美味いもん食って水に流してしまうのが一番だ」
こんは時は飯が一番。どこ行こっかな〜
「クロードはずるい。私が断れないことを利用してそんなこと言っているのだろう?」
ん? 頬が染まっているぞ。こりゃ成功かな。
「いや、そんなことないけど? ただ一緒にご飯食って笑いあいたいだけだよ」
「よし、不動産屋にさっさと行こう」
エマが駆けだしたぞ。あれ、意外に早い。走らないといかんか。リリーは、大丈夫そうだ。メイド服を汚さないように丁寧かつスピーディーに走ってる。そんな技術どこで会得したのかな。
「不動産屋だな」
「おいお前はあんなに走るの速かったか?」
「これだよこれ」
そう言ってエマに見せられたのはどう考えても走る速さを少しあげる補助具だった。ずるい道具だ。
「どうりで速いわけだ。少しおかしいと思ったよ」
そしたらこの女なんて答えたと思う?
そりゃどうもって笑ったんだ。そりゃ魅惑的でしたよ。
「ご主人様、さっさと不動産屋さんには入らないのですか? 周りの人に迷惑になります」
真っ当な指摘ありがとう。
「ごめんください」
「いらっしゃいませ、こちら恋愛脳カップルは絶賛お断りしております不動産屋でございます」
こういうふざけたことは無視するのが一番。この不動産屋はふざけてはいるが結構世話になっているし、なかなかやり手だ。
「今日は新しい家を見に来たんだが、いいのを見繕って欲しい」
「私の話は無視ですか…… まあいいでしょう。それでどのような物件をお求めで?」
「店舗の家のついた物件だ。賃貸、購入どちらかは問わない」
金は足りるだろうか。
「お店の方はどの程度の広さがよろしいのでしょうか?」
これはエマが答えた方がいい。
「そこそこ大きいのがいい。正直現地を見てみないとなんとも言えない」
あまりあてにはならなかった。
「予算は?」
これくらいです。おや、エマも出す? なら結構いいの買えるかもしれない。
「ご主人様、地下室はいらないのですか?」
「地下室? あって損なことはないだろうけど、どうして?」
「私に、ひどい屈辱を与えるための部屋です」
……やりやがったこの娘。耳を引っ張ってやろうか。
「クロード様はとうとう犯罪者になろうというのですか?」
ほら、デシャヴですよ。服屋、雑貨屋、不動産屋で全く同じような反応をされてしまったではないか。
「誤解、誤解ですよ!」
必死に弁明するのは例に漏れず大変だった。
「なるほど、それはそれは。さて、物件もいくつかおすすめがございます」
図面で見せられた。
1軒目
「随分と大きいな」
店舗スペースも今のエマの店の二倍ほどある。住居だって10人は住めるくらいには大きい。
「だけど、街の外れ。あの店の顧客的にはあまり街の外れには店を構えたくない」
「だな」
2軒目
「今度は普通だな」
店も今のエマの店とそんなに変わらないし、位置だってそうだ。
住居はまあ普通だな。家族4、5人程度が住むくらいの大きさかな。
「店を広げたいのに今と同じなら意味がない」
「そうか」
3軒目
「今度は大きいな」
図面上は最初の二軒よりいい。だが
「高すぎる。私たちの持ち金ではとてもじゃないけど無理」
俺たちの用意できる予算の三倍の値段だった。
「こう考えるとなかなか難しいな」
「私どもの方でクロード様のご要望に一致する物件は以上になります。もうこの際、自分たちで立ててしまった方が良いのではないでしょうか?」
明らかに一軒予算を大幅に超過した物件があった気がするがこいつ土地を買わせるために見せたんじゃないだろうな。
「いい土地があるのか?」
いや、流石にこの不動産屋と言えども街中にそんな都合のいい土地は空いてないだろう。
「それがね、あるんですよ。闇金があったところなんですがね。結構ひどいことをしていた闇金なようで、その土地を買いたいという人がいないもんですから、かなり格安でたたき売りされているんです。街の中にもありますし広さも十分です。闇金があったことを気にされないなら、オススメの土地ではあります」
「闇金……」
おかしい、なんか記憶にあるぞ。最近闇金がらみの仕事をしたような……
「その闇金が潰れた理由は?」
「あまりにも悪質なものですから、役所に目を付けられましてね、それで調べられたらしいのですが、不正が出るわ出るわであっという間に関係者に賞金がかけられまして、それで潰されたというよくある話ですよ」
いや、そんな頻繁にはないと思うよ?
「クロードの関係している案件だったりしてな」
「はは……図星です。一番最後にボスを捕まえましたが、その超高額賞金でリリーを買いました」
「……賞金はどれくらいだったんだ?」
「これくらいです」
相当に高くて不動産屋に提示している予算よりあったりする。よく考えたらそんなに高いリリーって一体何?
「バカじゃないのか? リリーには申し訳ないが金の使い方が悪すぎる」
「ご主人様はお金の使い方も悪いなんてダメ人間なんですね」
リリー参戦。僕の心は氷の張った湖に浸されている気分です。
「ま、まあその辺にしていただいて現地をご覧になりますか?」
「行こう」
「では早速」
徒歩で行くらしいが、やっぱりちょっと歩くな。エマは楽しそうだが、ちょっと気になることがあるんだよな。
「聞きそびれていましたが、ご主人様のお仕事ってなんなのですか? はっ、もしかしなくても無職!?」
リリーが唐突に聞いてきた。期待通りにいかなくてすまないな。
「あいにくと無職ではない。冒険者、賞金稼ぎ、その日暮らし、日雇い、様々な言い方はあるが、そう言う類の仕事をしてる」
「クロードはそれの上位層にいる部類。だから稼ぎもかなりいいと思うぞ」
いやあ、それほどでもお。へへへ、エマに褒められちゃった。
「気持ち悪い顔すんなバカ」
ごめんなさい…… 調子に乗りました。
「お二人は本当に相変わらずですね。そんな仲の良い姿を見せられていると和みますからもう少し見ていたいのですが、目的の場所に到着しましたよ」
リリーよ話をそらすでない、と言いたいが、目的の場所についたというならしょうがない。ここは言葉を胸のうちに収めておこう。
土地はすでに建物がなくなってが来たことがある。これほ少し前に俺と仲間で突撃した闇金業社だ。
「場所自体は結構いいじゃないの。土地も広いしね。通りにも面してるとは闇金もここに建てられる金があるとは意外」
「色々な収入源があるんだろうさ」
闇金だからといっても利息だけではないだろう。恫喝やら何やらの不法行為もしていたはずだ。
「私はここで構わない。むしろここほど良物件もそん簡単には見つからんだろう」
「エマが問題ないならここにしようか。リリーもそれでいいか?」
「なぜ、私に聞くのでしょう? 別に私が決めることではないと思いますが」
「そうかい」
もうちょっと良い反応して欲しいんだけどな。だが暴言は嫌だ。
「ではクロード様、契約されるという方向でよろしいでしょうか?」
「お願いします」
さて、どんな作りにしようか。ここから忙しくなりそうだ。
「エマ、間取りとかはしっかり話し合おうな」
「言われなくてもそうする。お前に任せておくと、ロクでもないものができそうだからな。リリーも関わらせるがいいだろう?」
「私も参加してよろしいのですか?」
「言いに決まってるじゃないか」
参加してくれなきゃ困るよ。エマはそこのところよく分かってる。そうだというのに、なぜリリーは顔を赤くしているんだ?
「なら私はご主人様にあんなことやこんなことをされることはないのですね? よかったあ」
それは顔を赤くしていうことなのか俺には分からない。だが一つだけ言えているのは、俺は絶対にそんなことはしないんだからね!!
「クロードの心の声が気持ち悪い気がするのは私だけではないな」
げっ、なぜ分かった。……ああ、エマはこういうことを感じ取るのが敏感なやつだったな。忘れていたよ。
「と、とりあえず家を建てる場所も決まったしこれから楽しくなりそうだな」
「私もそう思うよ。まだ間取りも決まっていないが、一緒に暮らせるんだなんて夢を見ているみたいだ」
「私はご主人様に優しくしていただければいいです」
リリー、俺は十分優しくしているぞ。
「今更だけど、二人ともこれからよろしくな!」
「ああ、長い付き合いになりそうだ」
「襲われないことを祈っています」
リリーは無視しておくとして、エマの言うことはその通りだ。これからの生活が楽しみでしかない。
読んでいただきありがとうございます。作品はいかがだったでしょうか?
今作については完全に僕の趣味に基づき書かれている上に、時折深夜テンション下で書いていますから暴走しております。しかしとても平和な世界は描けたかと思います。
作者としては下の方にある評価ボタンを押していただけると、とても嬉しいです。