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はなむけに贈る -Philia-  作者: セイル
はじまりと終わり
9/17

板挟み


『あなたは本当の幸せとは、なんだと思いますか? 』


僕の思う本当の幸せって一体何なんだろう。


逆に考えよう。

僕の人生には何が足りないから幸せではなかったんだろう。


僕の人生に足りなかったこと。


自由。

認められること。

自分を肯定してあげること。

幸せ。


やっぱり振り出しに戻ってしまう。

その足りない『幸せ』って一体何なんだ。


発想を転換しよう。

僕の人生において一番欲しかったものって何なんだろう。


――認められること、かもしれない。


じゃあ何に認められたかったんだろう。


父親?


――いや、違う。


きっと社会的に認められたかったんだろう。


社会的に認められるって? 


自分が高遠永雅という一人の人間として必要とされたかった。


自分は必要だと認められたかった。

それは父親の跡継ぎだとか高遠家の長男だとか、そういう観点で認められたいわけではない。

それは一人前の人間として扱ってほしかったということかもしれない。

社長の子どもという箱入り息子という色眼鏡から逃れたいということかもしれない。


でも、文字通り箱入り息子な僕が社会において一人前の人間になる方法はわからない。


社会において一人前の人間ってどんな人なんだろうか。


――やっぱりわからない。


幸せとはなにか、社会において一人前の人間とはなにか。

そんな事も知らないで幸せになりたいだとか、社会において一人前になりたいだとかそんなことを言う資格なんてないのかもしれない。


そんな定義づけも出来ない僕はもしかしたらその幸せだとか一人前の人間の条件だとか、なにか大事なことを見逃して生きてきたのかもしれない。


もしもこれで執行を受けたとしても、上辺だけの幸せしか感じられない。

鷹尾さんが言っていたみたいに本当の幸せを見つけて帰ってくるなんて不可能なんじゃないか。


僕にはこの執行を受ける権利はある。

でもその器がない。


幸せがなにかわからないやつが執行を受けても仕方がないのではないか。


もちろんやりたいことだってあった、後悔をしていることなんて数え切れない。


それでも本当の幸せを感じることの出来ない僕が、本当の幸せを前にしてしまったら。


きっとキャパオーバーになってしまう。


幸せが自分の容量を超えてしまうほど贅沢なものだったら。


きっと僕には受け止めきれない。


だったらこのままでいい。

どうせ死んだんだ。

天界で新しい生き方を見つけてそこで少しずつ幸せを感じればいい。


そうだ。

それでいい。


明日ミルニア様には「執行を受けない」とはっきり伝えよう。

僕は一週間という短い期間に幸せを与えられるよりも、自分のペースでゆっくりと幸せを定義づけていったほうがいい。


そうだ。

僕はもともと不器用だから。

人よりもうまく出来ないから。

努力をしなければ人並みにはなれないんだから。

なんなら努力することさえも苦痛だった人生を歩んできたんだから。


そうだ。

それでいい。


いや。

これでいいんだ。


僕の選択は間違っていない。

そう。

間違っていないんだ。


執行は受けない。

そう決めただけで心がすっきりと晴れ渡ったような気分になった。

これでいいんだ、と自分に言い聞かせる。


そっと目を閉じると意識が遠のいていく感覚がした。

その感覚に身を委ねながらもう一度、


「これでいいんだ」


と自分に言い聞かせた。


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