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はなむけに贈る -Philia-  作者: セイル
はじまりと終わり
6/17

契約内容


ミルニア様が上機嫌で部屋の奥に消えていく。

何故か鷹尾さんがため息をつく。

ミルニア様は鷹尾さんの上司なんじゃないのか……? 


「悪い方ではないのですが少々悪戯がすぎるといいますか、申し訳ありません。」


「……ご察しいたします。」


さっきからこれでもかというくらいため息をつく。

愉快な上司を持つと苦労が耐えないんだろう。

――なんだか心が痛いが。


「それでは行きましょうか、おもてなしいたします。」


こちらですよ、と丁寧に指を揃えて部屋の奥を指す。

鷹尾さんはミルニア様と違って丁寧な方だ。

この空間は単に混沌としているだけではないということで安心した。


部屋の奥はさっきの部屋と違ってシックな印象で統一されていた。

これはミルニア様の趣味……

いや、前の部屋の雰囲気を応接間にも持ってくると落ち着けないからとフォールトさんがしつらえた。

こっちのほうがしっくり来る。

応接間まで青白かったら本当にあの人のペースに乗せられる。


「それではこちらにおかけになってお待ち下さい、今紅茶を用意しますから。」


「楽しみにしていますね、僕紅茶にはこだわりがあるんです。」


「そうなんですか、では張り切って淹れないといけませんね。」


きっちりと一礼をしてから鷹尾さんは奥へ消えていった。

紅茶、か。

生きていた頃は精神的に安定しないことが多かったからよくハーブティーにお世話になっていた。

本当に効果があるのかはわからないけれど気休めでも落ち着けた。

だから紅茶は生きていた頃の万能薬だった。

せっかくなら美味しく淹れようと思って紅茶の淹れ方を勉強した。

だから人よりは紅茶にこだわりがある。

ここは自分が生きていた世界ではない、けれどここの紅茶は美味しいのだろうか。

楽しみだ。


「高遠さん、おまたせしました。」


小さなカートにティーカップとポット、シュガーポットを乗せて鷹尾さんが戻ってきた。

茶葉のいい香りが部屋に広がる。

結構いい茶葉を使っているみたいだ。

鷹尾さんは慣れた手つきでティーカップに紅茶を注ぐ。

そしてそのティーカップを僕の目の前に置いてくれた。


「今ミルニア様を呼んで参ります。」


「ありがとうございます。」


鷹尾さんはすぐそこの扉をそっとノックする。


「ミルニア様、準備が整いました。」


ガタン、と扉の中から大きな音がした。

大丈夫かな……。

扉がゆっくりと開く。

ひょっこりと顔だけ出したミルニア様が困ったように言う。


「ねえアルミサエル、私のいつもの本知らない……? 」


「……だからあれほど持ち歩いてくださいと言っていたのに。」


「……ごめんなさーい。」


「本ならお部屋のソファの上に置きっぱなしでしたよ。」


ぱたぱたと部屋の奥に戻ったかと思ったら「あった!」と嬉しそうな声が聞こえてくる。

本当にどっちが上司なんだかわからない。

マイペースというか、やっぱり天真爛漫なんだろう。

分厚い本を小脇に抱えたミルニア様が向かいのソファに腰掛ける。

鷹尾さんが2つのティーカップに紅茶を注ぐとそっとテーブルに乗せる。

鷹尾さんはミルニア様の隣に腰掛ける。

ミルニア様は小脇に抱えていた本をテーブルに置くとじっくりと内容を読み始める。

ここからでも本の中身は見えるけれど、何が書かれているかわからない。

これは何語なんだろう、見たこともなかった。

ミルニア様は一通り目を通し終わるとこちらをまっすぐ見つめて話し始める。


「なぜ始まりと終わりの間に導かれたのかと一週間執行がなされるということまで説明を受けたということでいいんですよね。そうしたら実際の執行の内容についてお話しますね。」


一週間の執行ではまずその執行を受ける人の深層心理で一番後悔していることを解決したり、一番やりたかったことを叶えられたりする。

例えばスキーに行く途中に交通事故に遭って亡くなった方なんかはその日大雪に見舞われてスキーに行けずに命拾いするという内容になる。

もちろんこんな単純なものではないけれど、わかりやすくするとそういうことらしい。

さっきの例で言えば命拾いしたとしても一週間でこちらに戻されてしまう。

そういえば【こちら】って一体何なんだろう。

もっといえば【ここはどこ】なんだろう。


「あの。」


「どうされました? 」


「いえ、ここはどこなんだろうと思いまして。」


「ここは始まりと終わりの間ですよ。」


当たり前でしょ? と言わんばかりにミルニア様はドヤ顔をする。

いや、それはわかってる。


「それはそうなんですが……。例えばここは死後の世界だとか天国だとか、そういう分類でここはどこなんでしょう。」


「ここは天界ですよ。とはいえキリスト教で言う天使がいるわけではなくいわば死後の世界で天国とか地獄とかそういう場所の一つです。」


天界。

斜め上の答えが返ってきた。

だからミルニア様には羽根が生えているのか、納得。


「要するに自分が一番思入れの強い事柄がもしも幸せだったらという体験ができるということです。そしてその期間は一週間、たった一週間でこちらの死後の世界に戻ってきてしまい二度とこの死後の世界から戻れない。ここまでは大丈夫ですか? 」


思入れが強いこと。

僕には一つしか思い当たることがなかった。


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