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はなむけに贈る -Philia-  作者: セイル
はじまりと終わり
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はじまりと終わりの間


時計の音が絶え間なく響く。

カチ、カチ、カチ――

教会のような建物、そこにたくさんの時計があった。

まるでファンタジーの復活の間のような場所だった。


辺りを見回す僕をなんでもないように無視し、二人は会話を続ける。


「朔、さっき教えたとおりにご案内しろ。」


「は、はい。」


この二人ならこの状況を説明してくれるかもしれない。

そう思って彼らの動きに集中した。

朔と呼ばれた赤い髪の人は軽く咳払いをして一言


「ようこそ、始まりと終わりの間へ。」


とだけ言った。


――そうでもなかった! 

始まりと終わりの間という謎の言葉で余計に訳がわからなくなった。

なんなんだ始まりと終わりの間って。


その雰囲気を察したのか付き添い(?)のもう一人が大きなため息をつく。


「もういい、とりあえず見てろ。」


すみません、としおらしく謝る赤い髪の人になんだか申し訳なくなったけれど、ごめん。

本当に何がなんだかわからなくなった。

付き添いのもう一人が赤い髪をした人をすぐ後ろに立たせ、僕のことをじっと見る。

赤い髪の人を一瞬だけ見ると、また僕の事を見る。

どうしたらいいのかわからず、床に寝転んだ状態でただ目を開けているという異様な状態に置かれていた。


「すみません、彼は研修中なもので。」


研修中?

辺りは時計で溢れているのにやけにリアルだった。

とりあえず彼らに聞きたいことはたくさんある。

ただ、何から聞いていいのかまったくわからなかった。


「あの……。」


「ああ、すみません。一つ一つ説明しますからご安心ください。」


さあ、この手につかまって。とその人は手を差し伸べてくれた。

黒い髪に白い羽の髪飾りをしているその人は、姿だけ見れば女性に見える。

ただ声の低さといい、背の高さからして男性だろう。


「私はフォールトと申します。そしてそちらにいるのは鷹尾朔たかおさくと申します。」


フォールト、そして鷹尾さん。

まったくもって共通点が見えないが、先ほどの話からして上司と部下なんだろうか。


「僕は高遠永雅たかとうながまさです。」


「永雅さん、ですか。よろしくお願いします。」


「はい、よろしくお願いします。」


ご案内するところがありますから、と一言丁寧に断りをいれられた。

そして二人は歩き始める。

どこに向かうかわからないが、行く宛もないため二人に付いていく。


しばらく赤い絨毯が敷かれた教会のようなところを歩いていく。

ふとフォールトさんが唸る。


「そうですね……。まずはここ、始まりと終わりの間についてお話ししましょうか。」


何も会話のないことを気遣ってくれたのか。

僕はあまりおしゃべりではないからそんな気遣いはいらないのに。

それでも彼は僕の隣を歩こうと歩幅をあわせてくれる。


「ここは始まりと終わりの間。人生を途中で諦めてしまった人々がたどり着く場所。」


始まりと終わりの間。

人生を途中であきらめてしまった人や人生が意図せず途中で終わってしまった人が訪れる場所。


「途中で、か。」


「その人々が、運命の悪戯によってここに導かれるんです。」


全員がここに導かれるわけではない。

人生に強い後悔があったり、もしもこんな人生を送っていなければ、と考える人々の終着点だとフォールトさんは言う。


もしもこんな人生を送っていなければ。

もしも高遠家に生まれなかったら。

もしも僕の好きなことができたのならば。


後悔やもしものことを考える。

おそらくその辺の並大抵の幸せを得られた人々からしたら想像がつかないくらい後悔している。

なんなら生まれを悔やんでさえいる。

きっと後悔が強かったんだ。

きっともしもの世界に執着が強いからここに導かれたんだ。


「ここに導かれて人々は何をするんでしょう。」


ふと疑問が口に出ていた。

フォールトさんの話からすると始まりと終わりの間に導かれて終わりではなさそうだ。


「一週間の執行を受ける権利があるんです。」


「執行? 」


執行。

実際に行うこと。

実際に実現すること。


ここでの執行は言葉通りではないんだろう。


「ここに来る人々の思うもしもの世界を実際に体現させるのです。」


懐中時計を見ながらフォールトさんがつぶやく。

曰くひどく後悔していることやもしもこうだったらというものを本人の記憶を頼りに実現させることが二人の仕事らしい。


「そもそもここに来る人々はもう命を絶たれた人々。一週間したらここに戻ってきてしまうのですがね。」


「そうなんですか? 」


「あなたも不意に命を絶たれたのか、それとも自分で命を絶ったのか。そうでしょう? 」


「……はい。」


この人たちは何でも見透かす。

まるで神様のように。

僕の過去を知ったように。

僕の後悔や恨みの大きさを知っているかのように。


前を歩いていたフォールトさんの足が止まる。

赤い絨毯を見つめたまま歩いた僕は正面を見つめる。

この教会の突き当たり、大きな扉が目の前にそびえたっていた。


「実は私は執行の専門外でして。詳しくはその業務を執り行う同期にお任せしようかと。」


フォールトさんが鷹尾さんに一言呼んでくれ、と言う。

道中あまり喋らなかった鷹尾さんが扉を開ける。

青白い光が瞬く部屋の中には誰もいない。

鷹尾さんは部屋の中を確認すると大きな声で一言言った。


「ミルニア様。」


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