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はなむけに贈る -Philia-  作者: セイル
エメラルドブルー
16/17

探検


午前中に集中して絵を描いていたからちょっと気分転換にドライブがてらランチする店を探そう。


もう午後一時半を回っているからランチする客もそんなにいないだろう。

ここはオフィス街でもないし、初めて訪れる場所だからどこに美味しい店があるかなんてわからない。

でも大丈夫、人が作ってくれるご飯はみんな美味しい。

しかも店を出しているくらいなんだからもっと美味しいと思う。

せっかくならファミレスとかじゃないおしゃれなカフェを探そう。

前世の僕だったら絶対に行かないというのに。

おしゃれって、何なんでしょうね。


ちょっと遠くまで行ってみよう。

知らない街ってワクワクする。

それこそ探検とか探索とか男のあこがれみたいなものが満たされていく。

さっき家から来たとは違う道に入った。

裏通りは一方通行とかそういうローカルルールもナビが教えてくれる。


車内のBGMもラジオではもの寂しい。

信号待ちで僕は一枚だけあったCDをプレイヤーに入れた。


「この曲……。」


ちょうど僕が大学四年生のときに発売されたあの好きな女性アーティストの曲だった。

僕がビルの屋上から飛び降りる前に聞いていた曲。

こっちの僕も好きなんだな。


新しい世界に来て変わっていること、変わらないこと、両方あるっていうことが僕を安心させる。

なにもかもわからないなら0でしかないけれど、ほんの少し僕と似ているところがあってこの世界にも僕が生きているという実感が湧く。

今はこの時代の僕の代わりに死んだ僕がここにいるのか、それともここは始まりと終わりの間の人々によって作られているのか。

少しは気になるけれど、今はどうだっていい。

今が楽しければいいんだ。

たった一週間しかない人生なんだから。


この女性アーティストの曲もマイナスの記憶からプラスの記憶に変わればいい。

楽しかったあの一週間の車内に流れていた大好きな曲になればいい。


裏路地を進んでいると小さなイタリアンレストランを見つけた。

今日のランチはここにしよう。

幸い店の前に駐車場があったのでそこに駐車させてもらう。

車のエンジンを切り、外に出るとまたムワッとした熱気が立ち込める。

せっかく暑さなんか忘れていたのに。

僕は足早に店内に入った。


「いらっしゃいませ。」


人の良さそうな若い女性が元気よく挨拶してくれる。

一人だと伝えると景色のいい窓際の席を案内してくれた。

遠くに海が見える。

さっきまで僕が見ていたあの海だ。


「こちらメニューとお冷です、注文が決まりましたらベルでお呼びください。」


「ありがとうございます。」


メニューを開くと美味しそうな料理の写真がたくさん目に飛び込んでくる。

顔をあげると本日のおすすめとホワイトボードにきれいな字で書かれている。

はじめての店だし、せっかくだからおすすめを頼んでみよう。

エビとレタスの冷製パスタ、暑い今日にぴったりだ。

ほかの料理も捨てがたいがこの冷製パスタが美味しかったらまた通えばいい。

僕は卓上のベルを鳴らし、お姉さんに冷製パスタと食後にアイスティーを頼んだ。


お昼すぎということもあってお客さんはまばらだった。

グラタンやドリアを頼めば調理の問題で時間はかかるだろうけど、冷製パスタじゃあすぐに運ばれてくるだろう。


料理を待っている間、さっきまで描いていたスケッチブックのラフを眺めることにした。

どんな構図で描くかまだ迷っていた。

灯台を中央にするか、たまに通る船をかけばいいか、それともシンプルに見える景色を描いたらいいか。

現在の自分にアクリル画のセンスがどのくらいあるかわからない。

でもせっかくなら挑戦もしてみたい。


今の僕の要望に応えるラフはどれだろう。

やっぱり灯台は入れたい。

せっかくなら空と海にコントラストを付けたい。

まだあの海の朝の姿と昼の姿しか見ていないからもう少しあの海のことを知ってからコントラストは考えよう。

でも今日は夕方からバイトがあるみたいだ。

今日はランチをしたら一旦帰ってバイトの準備をしよう。


「お待たせいたしました、エビとレタスの冷製パスタでございます。」


「ありがとうございます。」


さて、美味しいお昼ご飯が来たことだし考えるのはあとにしよう。


「いただきます。」


やっぱり、人の作るご飯は美味しい。


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