キャラクタークリエイト―2
一通りのアバター調整が終わり、数歩後ろに離れて全体像を見回す。
「うん、これ位ならいいだろ」
おっさんとしての繊細な部分も含めて、過剰にならない程度にスリム化させると、贅肉の下にあったのだろう筋肉が割りと自分についている事に、ちょっとだけ嬉しくなる。学生時代はちょっとだけ柔道と剣道を齧っていたが、今は完全に錆び付いているしなぁ。才能もなく、どっちも昇段できなかったし。
若かりし頃を思い浮かべつつ、ぽちっと完了を選択すると、シャランという電子音がログインゲート内を震わせる。
――カツン
『あら、中々ワイルドに仕上がりましたね』
「え?」
いきなり背後から掛かった声に振り向けば、そこに長身の女性(?)の姿があった。いつの間に現れたのか、赤いパンプスにストッキング、タイトスカートの上に白いブラウスを纏い、緩くウェーブの掛かった茶髪を後ろ頭で纏めて結っている…ぽい。唇は鮮やかに赤く、そこに左手の指をそろえて当ててクスクスとこちらを見つめながら頬笑んでいる…と思う。
「あれ、その声…でも、あれ?」
『どうか致しましたか、志野様?』
戸惑うように何度か上下に視線を匐わせ、手で目元を擦って再度見直す。俺の戸惑う理由に察しが付いているのか、女性はニコニコと相好を崩さずこちらと立ち会っている…様に見える。
「その声は…AIさん、だよな?」
『はい。改めまして、本日、志野様のログインゲート及びチュートリアルに関するサポートを担当致します、NAVI―362A、と申します。どうぞ気安く、ミロニアとお呼び下さいませ』
そう言って綺麗なお辞儀をしてみせるAIさん改めミロニアさん。だが俺はそれ以前に気になった事を聞いておくことにした。
「いや、だってあれ? 確か初ログイン時のサポートAIにはアバターが無い声だけって…それに」
再び目元を揉み解してから、彼女の顔をジッと見つめる。
「大雑把な姿は見えるんだけど…なんだか全体的にぼやけてない?」
『それは当然でございます、こちらで私たちには、【認識阻害】スキルが効果を及ぼしておりますので』
「認識、阻害?」
『はい。たとえばで御座いますが、志野様が温かい飲み物をお口にされる時、そこから昇る湯気などを気になさったり、または記憶しておられたりしますでしょうか? 見えているけれど、特に意識しなくなる、それを更に恣意的に高めた物が当スキルの効果でございます。その為、チュートリアルが終わられて本ゲームを開始された時には、もう私の事は殆ど覚えていらっしゃらないでしょう』
「えー、それは記憶改竄とかじゃなく?」
『別物で御座いますね、脳が覚える価値が無いと判断して切り捨てているだけとなります』
「ほへー」
だから声だけの存在としか、サイトにも載ってなかったのかね。
隠密とか忍者スタイルでプレイしたいプレイヤーなら、必須スキルになるんだろうなぁ。
『まあ、この時点にアバターでプレイヤーの皆様の前に出る必要なんて全く無くて、実は今回が初めてなんですけれどね』
「何してんのサポートAI」
『てへ♪』
「いや、可愛い子ぶる場面じゃねーし」
呆れつつも、驚きと共に感心してしまう。これがプログラミングされた人格だと思えないほど、声音も仕草も自然そのものに、情緒豊かな反応を返してくる。改めてこのゲームへの期待値が、おっさんの中でどんどん膨らんで行くよ!
『それはともかく、次は志野様の初期職業選択とスキル選択に移りたいと思いますが、よろしいでしょうか?』
「あ、おう。そうだったな、それじゃよろしく」
『はい、ではこちらをご覧ください』
ミロニアさんがすっと傍らに手をかざすと、下からずわっと勢いよく、超どでかいウィンドウが立ち上がった。
よく見ればそれは、無数のパネルの集合体らしく、一つ一つに職業名が書いてあるらしかったんだが…なんぞこの数。
『当Lost Ship on-lineに置きましては、選択可能な職種は多岐に渡りまして、今現在も開発スタッフが調子にの…こほん、厳正に検討を重ねまして、随時追加中でございます。なんとその数、一万職種以上!』
「今スタッフが調子に乗ってって言い掛けたよね」
『気のせいで御座います』
「絶対言ったよな?」
『空耳で御座いましょう』
「その親あってこの子ありなんだな」
『否定は致しませんね』
なんだろうこの個性的過ぎるAIは。いや、会話の掛け合い好きだからいいんだけど…最初の方で精神分析がどうのってあったし、多分俺と相性のいいサポートAIが回されたとかありそうね。
しっかし、この中から初期職業選ぶって…全部確認するだけで数時間掛からないか?と、唖然としつつそのパネル群を暫し見上げる。
『とは言いましても、クリエイト時の職業は基本戦闘職から選んで頂く事になりますので。これらの職業は、ゲーム内でプレイヤーの行動によって取得して頂く事になります』
「な、なんだ、それならそうと言ってくれよ。地味にびびったじゃないか」
そういえば攻略サイトでもそう書いてあったんだった、忘れてたよ。
『いえ、志野様の反応が一々面白くて』
「おい」
『うふふ♪』
うーん、姿がはっきり見えないのが残念だなー。中々美人っぽそうなのに。まあ、忘れちゃうんだからどうでもいいか。
「それで、選べる職ってのは?」
『はい、こちらの六種となっております。説明は仮選択時に表示されますので、ご確認下さい』
ミロニアさんが指をちょいと振ると、大型ウィンドウから、すっと六パネルだけが抜け出して来て俺の前に横一列に並ぶのを眺める。
左から『戦士』、『魔術師』、『狩人』、『猟師』、『盗賊』、『神官』だった。
戦士が近接物理攻防補正、魔術師が攻撃魔法補正、狩人が弓系遠距離物理と器用補正、猟師が罠設置と捕獲率補正、盗賊が投擲系遠距離物理と速度補正、神官が回復及び補助魔法補正、補正値は全部3パーセントか。攻略サイトの情報と同じだな。
『職業に関する補足情報を説明致しますか?』
「いや、調べてきてあるからいいよ」
『了解致しました』
攻略サイトによると、職業はLVがあり、上がるとスキルを覚えて行くらしい。一度覚えたスキルは転職しても使えるので、その組み合わせで悩むのがプレイヤーの醍醐味なのだとか。
新しい職業を獲得する場合も、例えば花屋でアルバイトすると『花屋店員』などと言う職が転職メニューに開放されるらしく、次回からその職に就いていると、時給にボーナスが付くとか芸が細かいらしい。あと【採取ボーナス(小)】とか植物に関するスキルをLVあがると覚えるんだとか。
また同系統のスキルが色んな職で重複するので、この職に付かないと絶対に覚えられないスキル!というのは全体で見ると少ないそうだ。
あるとしたら厳しい条件でしか就けない特殊職や、下位職をマスターした場合に関係する上位職になって行くと、そういったスキルが後々出て来ると。
「よし、決めた。職は『魔術師』でお願いします」
『承りました、見た目にそぐわない職ですね』
「魔法は浪漫だろ、やっぱり。それに、スキルの取得に職制限は無いんだろ、このLSOにはさ」
『ふふ、はい。【プレイヤーに無限の選択肢を】。それがLSOスタッフの総意となっております』
攻略サイトには、そりゃあはっちゃけたプレイヤーのスキル構成とかの投稿板在ったりしたしな。あれを見る度に、ああでも無いこうでも無い、俺ならこうするのになぁと夢想したもんだよ、うんうん。
さあ、次はお待ちかねの初期スキル選択だ!
これも種類がまた、膨大らしいんだよなぁ…。クリエイト時に取得できるスキルには制限があるみたいだけど、それでも愉しみだな!