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キャラクタークリエイト―1

 第三次予約抽選にようやく通り、夏冬ボーナス全額叩いてようやく手に入れた『シトロン スリムversion3.5』と『LSO』ソフトパッケージがついさっきの宅配便で自宅に届いた。

 今、それらを手にしながら、俺の顔はにやけっ放しで寝室へと向っていた。

 ベータテスターに悉く外れ、テスター達が立ち上げたベータテスト攻略サイト、現在は正式サービス攻略サイトの情報を涎を垂らしながら毎日熟読する日々とも、これでおさらばである!


「今日から俺は! 新世界の住人となる!」

 いい歳(三十五歳、独身)して思わず拳を握って振り上げ、一人宣言してしまうのもしょうがない次第だろう。多分、きっと。


 早速寝室のホームサーバーにソフトチップをインストールし、ヘッドゴーグル型のVR機器を装着してベッドに横たわる。

 全身のスキャンからアカウント登録、かなり面倒な成人認証をようやく終わらせ、

(ワールドダイブ!)

 思考認識によるLSO専用コマンドを入力し、俺は電子の海へと意識を沈めていった。


『Lost Ship on-line、ログインゲートへようこそ、志野しの 庸介ようすけ様。アカウント、及び成人認証を確認致しました。これよりキャラクタークリエイトへと移って頂きますが、よろしいでしょうか?』


 意識が再浮上すると同時に、耳に心地よい女性の声が聞こえた。初ログインからチュートリアルまで案内してくれるサポートAIが居ると攻略サイトにあったが、それが彼女(?)なのだろう。姿は見えないが、そう云う者らしいので気にしないでおく。

「ああ、よろしく頼む」

『承知致しました、ではまず、お客様が操作されるアバターの種族をご選択ください』


 案内音声と共に目の前に俺の現実の肉体が全裸の3D映像で浮かび上がり、それと俺の間に板状の半透明なウィンドウが開く。そこに幾つものパネルが並び、『人族』や『天族』、『魔族』、『妖精族』などなど表記され、仮選択すると種族情報がずらずらと表示されていく。

 前作LGOでは、身体的特徴に大幅な差異があるとログアウト時に認識に異常が発生する為、人族か、それに近似な身体特徴を持つ種族しか選べなかったらしいが、LSOではログアウト時に何段階ものフィルター処理を通す事で、ドワーフなど一際短躯やホビット或いはグラスランナーなどといわれる小人種族も選択可能となっているらしい。

 種族ごとに得意不得意や、弱点耐性、スキルの優位不利や特殊スキルに特定種族特効も存在し、より取り見取りで、特に獣人族ともなるとその種類はかなりの数に及ぶそうだ。半人半獣から二足歩行以外は完全に獣だろお前という物まで在り、世のケモナーたちを狂喜乱舞させたとか。俺には理解不能な世界ではあるけどな、うん。


「人族で頼む。器用貧乏待ったなし、だがそれがいい」

『承りました、眼前の表示アバターに適用致しますので、ご確認ください』

「適用っつっても、まんま俺だけどな」

 全裸だった俺のアバターに、初期装備となる旅装一式が追加されたくらいしか変化が無いのに苦笑した。

 現在のVRでは、変更不可能な要素として性別部分がある。黎明期には可能なタイトルも在ったらしいのだが、ログアウト後の性差不一致による精神障害が散見され、すぐに法的に禁止される事になったのだとか。

 ただ、一部の性同一性に事情を抱えたり、その為に性転換処置を行ったプレイヤーなどは所定の手続きを行えば異性アバターを作成出来るらしい。この辺は蛇足知識かな、俺には当てはまらないし。

 後はリアルばれを防ぐ為に、目元口元や鼻やら、髪と瞳の色を弄って髪形も変えてと。


「うん、誰だこいつ」

『志野様ですね』

「冷静な突っ込みありがとう」

『どう致しまして』

 このAI、やりおる。

 現実の面影を残しつつも、銀髪銀眼でザンバラ髪を後方に流したワイルド系おっさんが目の前に出来上がったぜ!

 自分を美化するのは、この歳になるとはずか死ぬのでとてもじゃないが出来ないが、この程度に野性味を持たせるのは構うまい。リアルばれ駄目、絶対だからな!

『お腹の方はよろしいのですか?』

「ごっふっ!? こっそり変えたかった部分を刺さないでくれるかなAIさんっ!」

『それは失礼致しました。精神分析から、このノリがお好みだと認識しておりましたので』

「いや、うん、嫌いじゃないけどね、嫌いじゃないけどっ!」

 最近目立つようになって来た中年太りは、おっさんのハートをブロークンする繊細な問題なので気をつけてくれると嬉しいな!?


『それでは、暫しモニターを停止しておきますので、ご都合が付きましたならば完了を選択して頂き、初期職業及びスキルの選択にお移り下さい。ええ、私は少々席をはずしておりますね♪』

「その優しさが今は憎い」

『慈母の如きAIを目指しております、はい』

 微かな含み笑いを残しつつ、気配がなんとなく遠ざかって行くサポートAIさんに、俺は涙を拭いてからアバターの調整に手を付けるのだった。


 …リアルでもダイエットしようかなぁ…でも仕事で中々時間とれないしなぁ、ぐすん。

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