0083:一撃
間に合った。
ただ純粋に、彼はそう思わざる終えなかった。
一瞬の攻防。
俊足の縮地。
それに対する、瞬時の判断。
その行動があったからこそ、この結果を迎えた。
「親父ィ!」
トールは叫んだ。
自らの父を。
そこには、ナイフを突きつけられ、背にまで貫通した刃。
…だが、その刃に血は、無い。
一瞬の攻防により、姿勢を崩した刺客の凶刃は、彼の着ていたゆったりとした余裕のあるローブを付き貫いた。
だが、その大きな体積に突き刺さった刃は、彼の肉体に触れる事無く貫通した。
…それは数秒前、刺客がアルバートへと突撃する寸前の事である。
この日、トールは別にサボっていた訳ではなかった。
彼は、外から中にいるアルバートを監視し、外部から護衛を続けていたのだ。
そんな折、突如現れた刺客。
先程とは違う姿の相手を見て、すわ敵襲かと身構えたのだ。
この時、最悪の事態を想定して幾つかの行動を行うべく身構える。
同時に彼の脳裏では幾つかの選択肢が上がり、その中の一つであった「見越し攻撃」を迷わず選んでいた。
その選択と同時に、刺客は駆ける。
瞬間、投擲。
鉄芯と呼ばれる金属杭の攻撃は、命中する事は無かった。
しかし、刺客の足元…正確には、ヤツの進路上に障害物として投擲した。
その数、3本。
カカカッという音は敵の足音ではなく、鉄芯の突き刺さった音。
…そう、トールの寸前の投擲により、刺客の動きは制限された。
それにより姿勢が崩れ、マトモな一刺しとはならなかった。
そう、トールは自らの父への凶刃を防ぐのに、間に合ったのだ。
瞬時に、外から中へと飛び込み、アルバートと刺客の間へと滑り込む。
相手も、それを見てか素早く距離をとった。
もはやこの状態なら、アルバートに危機は訪れない。
腰から抜いた二対のダガーを手に、トールは姿勢を低くした。
次の瞬間、ダッと彼は駆け出した。
先程刺客がアルバートに近づいたように、彼もまた、同じように近づいた。
構えたまま、人を超える動体視力を持つ獣人、その一撃が振るわれた。
しかし、キィンと甲高い音が上がると共に、火花が散った。
それに臆する事無く、素早く連撃を加え、飛び上がるように距離をとる。
…だが、相手にはこの攻撃によってできた傷は、一切見当たらない。
二度、三度と振り切った刃は、全て刺客の手にあるナイフでもって防がれたのだろう。
相手はゆっくりとナイフを構え、笑みを浮かべた。
ゴクリ、と彼は生唾を飲み込む。
亜人ではなく純粋な人間でありながら、獣人の…しかも訓練された隠密職の攻撃を防ぎきったのだ。
――間違いなく、只者ではない。
じり、じり、と間合いを詰め、また離す。
時折、アルバートが杖を構えるが、トールは彼に攻撃をさせない。
攻撃を行うなど愚の骨頂。
読み合いを制しなければ、間違いなく二人とも死ぬ。
そう、相手の力量から分かったのだろう。
相手も緊張しているのか、汗が頬をつたる。
5分か、10分か。
もはやけん制以上の進展も無いまま、互いににらみ合いが続く。
そんな時だった。
ポンと刺客の肩に手が置かれる。
戦いの最中に、背後に気を使っていなかったであろう敵は素早く振り向き……
「受けとんなッ!!」
強烈な一撃を、顔面で受け止める事になった。
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想定外だったわ。
まさか俺ではなく、アルバート氏が狙われるとは思っても見なかった。
結局、トールの護衛があったからよかった。
だがもし、下手をしてたら殺されてたんじゃないかと思うと、正直ゾッとする。
因みに、エールと追っていた刺客には逃げられた。
丁度授業終わりの生徒達の波に紛れ込まれ、結果逃してしまった。
その後は深追いする訳にも行かず、アルバート氏の書斎へ。
だが氏がいなかったのもあり、何かがおかしいと捜索。
その捜索でもって、トールと刺客との読みあいに遭遇できた。
…で、その刺客に対して、エールの奇襲が成功したのが今。
思いっきり振り向いた顔面に右ストレート。
続いて流れるように左アッパーが顎に炸裂した。
しかも当然素手で、である。
相手が哀れ過ぎて言葉が出んわ。
「色々調べたからね、えぐりこむように打つべし!…だっけ?」
「ガチで顔面にえぐりこんでて草も生えない」
打ち込まれた相手も、振り向いた際の頬、次いで顔面の顎部分…正中線にぶち込まれた訳で……
あーあ、気絶してやんの。
「T.K.O!」
言ってる、場合か。
とりあえず無事だったアルバート氏の元に駆けつける。
幸い怪我も無く、死に至る被害も覆ってない。
色々心配かけた身である。
流石にホッと胸をなでおろした。
「ご迷惑をおかけして…」
「いや…何とか無事でよかったわい」
互いに安堵する中、背後で気絶した刺客を縛り上げている。
首は止めろ首は。
「んで、コイツどーすんの?」
「…本来なら学園長か守衛送りなんだけども……」
「誰が連れて行くかぁ…!」
コレだよ。
トールがブチ切れ状態で連れてくに連れてけん。
とりあえず実家に持っていって、情報吐かせる方針で決まった。
…まぁ、尋問も自分達の手でやったほうが確実ね、と理論武装して納得しておく。
「親父に手ェ出したんだ…それなりの報いは受けてもらわんとなぁ……」
出てる出てる。
暗黒面出ちゃってる、仕舞え。
肘を左脇から離さない心構えでやや内側を狙い、えぐり込むようにして打つべし!
打つべし!
打つべし!!
打つべし!!!!




