0007:始まりの場所
ガチャリと扉を開けた先に居たのは、見覚えのある顔ぶれでした。
と言うのも、転移先は以前の場所でもある城。
とりあえず適当に玉座のあった場所にでも、と扉を開けたら会議中でした。
しかも会議してるの3国同盟の偉い人と将軍各位様。
オマケに全員ガッツリこっち見てるし。
「……ども」
「いつもの饒舌はどうした」
それしか言えねぇよ流石に。
まぁ知らない仲ではないので、どうしただの何があっただのとりあえず会話を進める。
会議はいいのかと聞いてみるが、まぁ現状の会議だとの事。
帰還から2週間弱で治安回復も大体済んだらしい、超優秀。
一応現状も会議ついでに教えていただいた。
戦争終結に伴い、この国をどこの国が統治するかで多少揉めた。
だが最終的には3国同盟の結束を他国に示す為にも、共同管理するべきだという声が上がり、それに追従。
王国制ではなく、各国の主要メンバーによる統治…上位議会制とでもいう国家運用方式となったそうだ。
国民の方も、戦争からの解放や無茶な税収の撤廃、国家間貿易都市構想等の提示で、全面的に賛同された。
それに伴いこの国に暮らしていた貴族達は、その殆どが抵抗の間も無く、市民の協力の下早急に捕まった。
その後は戦争賛同者とそうでない者の調査と資産没収の後、一般の労働奴隷と犯罪奴隷に分別するらしい。
…というのも、元々この国の奴隷制度では劣悪な環境で酷使されるのが常だったそうな。
ただ同盟による管理下に置かれた関係で、環境は大分改善された。
本来の奴隷制度は、元々が貧困者対策に立ち上げられた物。
奴隷とは言っても、奴隷持ちには管理責任が付きまとう。
それこそ管理が行き届いていない、給金が無いなんてのは一般の奴隷制度では厳禁、逮捕案件にもなる。
本来は衣食住を与える義務すらあるとの事だ。
奴隷制度なんて無いほうがいいんだろうけど、一般人から見れば悪い制度ではない。
何せ住まいに服に食事、さらに給金も貰える。
むしろ生活が成り立たない者達には魅力的な制度なのだそうだ。
そんな中、一部は協力者の手助けにより逃走されたそうだ。
が、それでも全体の1割以下なので見逃す方針らしい。
…と言うのも、元々の貴族としての生活と比べて、労働奴隷も逃亡生活もハッキリ言ってそう代わらないとか。
逃亡生活は、生活費を稼ぐには危険の伴う冒険者として働く必要がある。
当然だが、そんな生活で成功するのはごくごく一握り。
大体が細々と生計を立てながら生活するしかないらしい。
労働奴隷でも、最低限の衣食住と給金は行き届く。
ただし、奴隷側が労働しないとなると話は別。
労働しなければ給金は無く、自由になる為の返済金が集まらない。
第一、あまりに働きが悪ければ、奴隷契約は打ち切られる。
そうなれば金所か衣食住もまともに手に入らなくなる。
まともな連中は労働するし、そういった連中は市民受けのいい所謂いい貴族、待遇もまとも。
逆に戦争に賛同していないだけの連中は、働くことを拒否し、契約が打ち切られ、コレはマズイといった所で心を入れ替えればまだマシ。
入れ替えられない連中は、最後の最後まで再契約されずに野垂れ死ぬらしい。
さらに犯罪奴隷とされた戦争賛同者達は、男は揃って鉱山やらの肉体労働、女は売春婦と碌な仕事先はなく、挙句待遇も最底辺。
文字通り死んで当然な環境で、死ぬまで酷使される。
最早処刑の方が優しいとすら思えてくる話である。
…ま、戦争に賛同していた有力貴族達は、犯罪奴隷として無給で酷使されるだろうが。
自業自得じゃ。
閑話休題。
結局の所、大部分の貴族は奴隷落ちとなり、市民から諸手を挙げて歓迎される形で国は再編された。
元々はエルイーザ王国…言わばエルイーザ王家の国だったそうだが、今では王国ではなく「エルイーザ共同管理都市」となったそうで。
また、都市への再編に合わせて徹底的に国の資料を漁った際、面白い情報を得たらしく教えてもらった。
元々は辺境貴族だったエルイーザ家が独立革命を行い、国となったのが始まり。
その際は軍事力の差で圧倒的に不利だったエルイーザ側は、今回と同じく異世界人の召喚を行っていたそうだ。
結果、実際に国に成るか成らないかの革命段階で不利であったのも有り、その異世界人の自主的な協力の下に独立に成功、国として成り上がったそうだ。
その異世界人は、その後同じ召喚儀式により無事に帰還したとの事。
…何だよ普通に帰れるじゃん。
とは言え、調べた結果では星と月の位置関係もあり、本来ならあと2年以上必要だったらしいが。
結局、姫様の失敗は自身の未熟さと、呼んだ俺達が捻くれてた(と言うより、ブラック企業で無駄に磨かれた対人眼の)せいでこうなった訳だが。
その姫様も年若い関係で労働奴隷落ちしたらしいが、残念ながら一般人には受けがよくなく、いい噂の無い個人行商に引取られていったらしい。
どんな目に会うかは偉い人たちにも分からないらしいが…まぁまともな生活ではないだろ。
合掌。
そうして話を終えた後は、受け取った金インゴットをコッチの貨幣に変換してもらう。
理由に「コッチで冒険する為の初期資金です」っていったら物好きな奴だと笑われた。
なんでじゃ。
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受け取った金銀銅のいくつかの金を元手に、俺達は城下町へと向かう。
偉い方々には換金した際に「戦争終結の恩人だからな、いつでも来い」と言われた、やさしくて涙が出る。
とりあえずこうして受け取った資金はそれなりに莫大。
市場用に細かくしてもらった銅貨や銀貨、本来大取引用の金貨棒や金貨を手に、まず向かう先は……
「酒場だな」
「その理由は」
「RPGの情報収集といえば?」
「なるほど」
なんて会話の後、近場の酒場に向かい情報収集。
…とは言っても、あちこちから聞こえる会話に耳を立てるか、コッチからその話を聞きに行くぐらいだが。
内容は、やれ戦争が終わってならず者が増えただ、やれようやく一般の輸送が始まっただ普通の物から。
そして、あぁあの隊商はゴブリンに襲われただ、近くの森でヘルハウンドが出て討伐依頼が出ただ、そのヘルハウンドを追い遣ったはいい物の、参加したパーティーは壊滅寸前だっただの、ファンタジーな内容まで様々。
地図が軍事機密の為、聞き取りのみではあるが一通り安全なルートを策定。
森の道を通過する形ではあるが、ヘルハウンドは森の奥に追い遣ったそうだし、そう危険は無いだろ。
後はゴブリン程度みたいだし。
その流れのまま武器防具を購入。
あやめは護身用にナイフとローブ。
自分もローブと、後は……
「ドヤ顔ダブルソード!」
なんて事は無く、普通にショートソード1本で決定。
「…で、とりあえずどこ行くの?」
「まずは我が恩師に挨拶をば」
「恩師?」
そう、魔法を教えてくれた恩師。
「…あぁ、アルガード」
「節子それアルバートちゃう、目薬や」
件のアルバート氏にお礼を言うべく、魔術都市マギスティアに。
何せ教育を終えたらサッサと転移魔法で帰っちゃったもんで……
「何でおじいちゃんすぐ帰ってしもうたん?」
「だから向かうんじゃろうが」
「節子それおはじきちゃう、拳銃や」
「何しゃぶってんだシュールか」
互いに軽口を叩きながら、都市の門を越えた。
ここから先は未知の冒険、こうして緊張感の欠片も無い旅が始まった。
そして、彼らは気付かない。
ゲーム知識だけで楽観視していた事を。
ゴブリンが、どれだけ強力な存在なのかを。
冒険者を壊滅させた、ヘルハウンドの居る森に住むゴブリンが、ひ弱な訳がないと。
彼らは気付かない。
「戦後で拳銃のほうが多かったって言う皮肉でワンチャン」
「ねーよ」