0004:ぶらり異世界冒険記
あの脅迫を受け、包囲していた兵士達もざわざわと動きを止めた。
この戦争を終結させる手助けをした自分への恩を感じてるのか、どうするべきか悩んでいるのか。
「さぁ道をお開けなさい!」
対して姫様、そのドヤ顔やめません?
まぁしかし…
「ユウマ殿!」
渋々、姫様の前に立つべく歩み寄る。
周りの兵士達も、その光景に声をかける。
何でこんなに慕われてるんですかね。
会ってまだ数日よ?
「悠馬…!」
あやめも何かクライマックスみたいな声発するし…
別に人質にもなってないのに何この光景。
ヤダ世界が優しい。
「やはり帰還したい、という事ですわね?」
「まぁ確かに」
そう呟きつつ、右手を上げる。
既に通達していた合図を知り、兵士達は構えなおす。
一体何事かといぶかしむ姫様。
何なのかって?
相手が勝利を確信した時、すでにそいつは敗北している。
「もう帰還手段あるの」
「「「確保ーォ!!」」」
ちょ俺まだいるギャァァァ……!
~~~
結局俺ごと飲み込まれました。
手を下ろす前に速攻だよ。
心配する必要が無いと分かった途端コレだよ。
あの突撃する兵士の津波…てかほぼ壁よ?
威圧感ハンパ無かった、一緒に飲まれた姫様に同情するレベル。
「あっ…ありえない!ありえないわ!」
そんな状態の中、犯人確保のような形で押さえ込まれる姫様、お疲れ様です。
「王家の宝玉や国宝の魔石、月の満ち欠けまで必要なのよ!
帰還手段なんてあるはず…あるはず無い!」
「ええい黙らんか!」
「強がっ…強がりよ!そうに決まって…っ!」
姫様必死すぎません?
まぁ、そうね。
「せやで?」
「……は?」
「リアル強がりやで?」
別に捕まえた後で情報引き抜くぐらい出来なくないでしょ、という事で。
ただ次の瞬間わあっ!と盛大に泣かれた。
止めろ、その攻撃は罪悪感で死ぬ。
一応ごめんね?と謝っていくスタイル、逆に泣かれたが。
敵だったし、利用されそうだったけどさ、マジ泣き止めろよ…
ほんのジョークなのに……
あやめからの白い目が痛い。
感じない、痛い痛い。
各方面からの攻撃を耐え抜きつつ、どうすっかなー…
「いっそコッチで冒険者やる?」
「面白そうだけど…できるの?」
人生掛けてやるのはキッツイかもしれん、なら言うなや。
何て幼馴染と軽口でポツポツと。
「…本当によろしかったので?」
そんな中、例の連合軍の将軍さんがそう声を掛けてきた。
…あやめから弱チョップ連打を受けたまま。
痛くないけど止めんか。
「んー…まぁ向こうの激務と比べればまだね」
「現代の利器欲しいんだけどー」
ぺしぺし連打を続けながらそう言われる。
だからチョップを止めろと。
だが、うーむ…
確かにコッチはコッチでリアルファンタジーで楽しそうではあるが……
でも現代の利便さを捨ててまで、となると……
あ、でももしかしたら。
そう思いながら転移魔法を発動するように、壁に向かってレッツトライ。
手の形はドアノブを握るような、そんな感じに。
後は俺の想像力!うなれ俺の魔力!今こそ覚醒の時!
…なんて事も無くフッと現れた扉。
いやでも、まさかねぇ?なんて思いつつガチャリ。
開けた先は見覚えのある我が部屋。
呑みかけのまま放置された酒の缶もあるし、だらしねー!
「……」
「……」
…い、いやね?転移魔法は想像力が鍵だって教わったんだ。
実際、行った事ある場所や光景が思い浮かべられないと失敗するし。
その延長線上で、異世界間でも想像力次第で行けんじゃね?と思って試したの、うん。
その…ね?
あの……
「…で……」
「…で?」
「出来ちゃった ミ☆」
「出来ちゃった、じゃないが」
~~~
こうして姫は捕まり、俺達は帰還の手段を得た。
城の正規軍も次々に降伏し、場内に侵入していた連合軍によって占拠された。
結局姫様は最後の大泣きもあり、判断力の不足から周りの貴族に流されたのでは?と調査された。
結果は王と王妃の死は暗殺と判明、他の貴族達による線が濃厚となった。
しかし戦争を拡大したことには違いない為、王族貴族共々奴隷落ちの処罰で確定した。
自分達は戦争終結への貢献により賞賛され、褒美も受け取った。
そして現代への帰路へとつく事になる。
こうして戦争は終わり、みな幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
「私達幸せじゃないんですけど…」
ダメですか、そうですね。
めでたしめんどくさし。
そう思いつつ冷蔵庫内に残ってた酒を煽るように呑み込んだ。
アレから実際にお礼として、「アチラで換金できるほうがいいだろう」なんて言われて金のインゴットをいっぱい受け取った。
…受け取ったのはいいが……
「刻印無しの出自不明のインゴットが簡単に売れる訳無いじゃないのよぉ……」
現代において、偽造されないように、ほぼ全ての金には「刻印」が彫られてる。
パーティーして帰還して、さぁ売るぞ、となってネットで調べたらコレ。
「コレなら向こうの世界で楽しく冒険するんだったぁ……」
「ちくちょう俺のバカ」
しかもコッチとアッチでは時間の流れは一緒だったらしく、リアルで一ヶ月近く行方不明状態。
仕事なんてクビになってて当たり前。
手持ちは換金できない金のみ。
詰みですねわかりたくありません。
その結果、一気に冷めて自棄酒ムード。
もう呑むしかねーやあっはっはっは…はぁっ……
「魔法で大道芸でもするぅ?」
「流石にアカンやろ」
ちゃぶ台でグダグダと半分酔っ払いながら、今後についてアレコレ話す。
そしてそのまま魔法談義へと流れるのは必須。
やっぱオメーも使いたかったんだルォン?
「んー…原理ぐらい分かれば使えそうなんだけどなー」
んな訳あるか酔っ払い。
「…あのな?アッチの魔法って、案外簡単そうで難しいの」
「そーなのぉ?」
「そうやで?魔法って言うけど、アレって周りの魔力を使って現実の理に干渉してるのよ」
「んー…?じゃあ転移魔法も?」
「ありゃ理外魔法じゃ。
例えば炎を出すにしたって、魔力を操って空気中の酸素を圧縮して、圧縮加熱した酸素に水素をぶち当てて炸裂させてるもんだし……」
「じゃ私でも余裕そーね」
酔ってますねお客さん?
ンモーと手を壁に当て黒板に見立てつつ、酔っ払いと化したあやめにもう少し詳しく解説しちゃろう。
…俺も大分酔ってるね間違いない。
「いいか?魔法使うにしても適正が必要だし、訓練も理解も必要なの。
俺は元から適正が高かったし、コッチの知識もあったからすぐ成長したの」
「んー……」
「それに、魔法言っても空気中にある魔力が必須で、コッチの世界に魔法使いがいない現状使える訳…」
「あと数年生きれば魔法使いじゃんかよぉー」
「おいやめろ」
俺のエクスカリバーには使い時ってのがあってだな。
…まぁええわ。
「コッチに魔法使いがいない今、魔法が使えようと魔力がない証左なの!」
「えぇー使えるんじゃないのぉ?」
「いや流石に無理だっていってんでしょぉ?
それとも何か、獣人モフりに獣人族たちの兵舎にでも行くか?」
――ガチャリ
「…ん?」
ガチャリ?
ここに扉なんて……
「……異世界の旦那じゃないですか、何かありました?」
そこには、けもしっぽをブラッシング・ナウな獣人兵士君の姿が!
ナイスモフモフ、モフらせろ。
…じゃなくて。
「いやぁ?…使えるかなぁって試しただけですわ、じゃね」
「あ…はい」
パタリ、と閉じて魔力操作を止める。
フッとその扉は綺麗に消えた。
「……できちゃった」
もう真顔よ。
あやめも酔い消し飛んだよ。
コレ今からインゴットと宝石変えに行く?なんて……
「…ねぇ」
「何ですか」
「…さっき言ってた圧縮とかって…どれだけ圧縮できる?」
「まぁ…俺の操作次第?」
「…既に手に持てたりする物質にも干渉…できる?」
「距離次第だと思う…触れてれば間違いなく出来た…け……」
そこまで言って、ちゃぶ台にあるペン立てにある「ソレ」に視線が移る。
例のブラック入社時、入社祝いとか言ってクソ社長が一人につき一本だけ寄越した、削られていない記念鉛筆。
そして鉛筆ということはその芯に使われている物は……
あやめと視線が合う。
最早言葉は無く、あやめは点きっぱなしのPCでWikiを、俺は手に鉛筆を持つ。
彼女がモニタを見せ、俺はそのWikiやら生成法を軽く流し読む。
画像があればソレはしっかりと脳内に保存して。
そして手にした鉛筆に魔力操作を開始。
単純な圧縮だけでは不安なので、芯の結合状態を先ほど見たWikiの画像頼りに、なんとなくで調節する。
もうコレにのみ集中。
途中、鉛筆の木材を通し加圧による発熱を感じた。
次の瞬間、その熱で鉛筆が燃える。
アチッと言って手を離すと一瞬で墨に代わり果て、ボロリとちゃぶ台の上に崩れ落ちた。
煙がモワリと上がるが、火災報知機は鳴らない。
机の上には焼けた鉛筆の燃えカスの山。
そして……
「……で…できちゃ…った?」
ふるふるとあやめが手に取り、一緒にソレを見つめる。
カットされず、純粋に芯と同じ細長い結晶形ではある。
だが、それは間違いなく本物の輝き。
元素記号C、加圧等によって生まれる美しき結晶体、世界における宝石の代名詞。
――ダイヤモンド
カチャン、と音を立てて落ちたソレを気にする事無く、互いに肩を抱いた。
「宝石なら金よりも簡単に買取に出せる!」
「しかも素材があれば俺だけですぐ作れる!」
「現代日本なら素材なんてネットでも簡単に入手できるし!」
「他の宝石の化学式もネットで調べればすぐにわかる!」
「もう年金や保険や税金の支払いにうんざりする事も!」
「実家の固定資産税やらで生活費圧迫する事も!」
「やりたくも無い仕事をする必要も!」
「あんなブラックに努め続ける必要も!」
「悠々自適に遊んで暮らせて!」
「異世界で冒険する事だって!」
今までの鬱憤が放出される。
そして、それを理解した今、次に出てくる物は抱擁と歓声であった。
「やったぞ!やった!」
「愛してる!ホント愛してる!」
「俺もだぜ最っ高の幼馴染よぅ!」
…後に、異世界の冒険家達のバイブルとして、世界に君臨する一冊の本がある。
その本は誰が纏めたのかはわからないが、沢山の人に愛され、読まれる事となる。
時に娯楽書として、時に学術書として、時には最高の冒険手引き書として。
…そして、後書きにはこう書かれている。
『出来上がるにつれて、この本のタイトルが余計に決まらなかった。
だがある日、彼女の日記に書かれていた一文が決め手となり、決まることになる。
「今日からこの本は日記じゃなくなる。
でも、だからこそ、実際そうなるだろうからこそ、こう呼ぶのも面白いかもしれない。
[ぶらり異世界冒険記]…なんて。」
…と……』
『…とはいえこの名前は、この一部以外の記録からは一切出ていない。
彼女が忘れたか、刹那的に書いただけかもしれない辺り、後世の評価と一致するのは、笑い所だろう』