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第八話:赤い終刊


 疲れた。帰って寝よう。

 浸かれた。還って寝よう。


 □ □ □


 気づくと、私は家の近所にある公園にいた。ベンチに座ってずっと下を向いていた。時折、小さな子供が私の顔を覗き込んでは、自分の母親の元へと駆け足で戻っていく。ここは平和だ。何に於いても汚されることのない平和がここにあった。ここにポツンと座っている私以外。

 不破を刺した。「恒常」――ナイフで刺した。不破の腹部からは赤い赤い血が出て衣服を汚し、衣服が含みきれなかった血は床に広がっていった。

 刺したあと不破はしばらく座っていたが、腹部の痛みが限界を超えたのか、腹部を押さえて蹲った。しばらくは「うぅ」と痛みによる嗚咽が漏れていたが、十何分か過ぎたあたりでその嗚咽も聞こえなくなり、終に不破は動かなくなった。

 私の混沌から生まれた怒りと憎しみによる裁判は終結した。全てがここで完了した。やることを終えた私は抜け殻同然になり、トボトボと歩いていた。普通なら、不審者として警察に通報されるが、何故か家の近くまで歩いて来れた。よく見てみれば、私の顔や手、衣服には不破の血が一切付いておらず、端から見れば「アルバイト帰りの疲れた子」に見えたのだろう。

 赤い写真から生まれた赤い混沌と、それに続く赤い憎悪と赤い激怒。そして、犯人に対する赤い裁判、赤い制裁。「赤い混沌と赤い裁判」。それを思いついたとき、何故か「ふっ」と吹き出して笑ってしまった。

 一日が長くて短く、短くて長く、どう捉えていいか分からない時の流れに私は疲れてた。疲れ果てた。

 先ほど、直接公園に来たような感じで言っていたけど、実は不破の家を出てから一回家に帰った。「恒常」の荷物を置くためだ。と言っても、ナイフは不破の腹部に刺さったままなので、実質持って帰ってきたのは一つの「恒常」――あの忌まわしい画像がまだ入っている携帯電話だけだった。あの画像を消そうかどうしようか迷っていたけど、結局は消さずにそのままベッドの上に放り投げた。

 あの画像が脳裏に浮かぶたびに、生きていた頃のユウちゃんを思い出す。いつも笑顔を振り撒いていたユウちゃん。あのユウちゃんの笑顔がずっと忘れられずにいた。たぶん、それは忘れちゃいけないことなんだと思う。

 ユウちゃんの部屋に行ったときに聞こえたユウちゃんの声。「助けて」という声。その声に応えて私が今日やったことが十分だったのか、やりすぎだったのかわからない。もし、ユウちゃんが生きていたとして、実際にその結果をユウちゃんに伝えたときにユウちゃんがどういう反応をするのか。喜んだのだろうか、怒ったのだろうか、悲しんだのだろうか……。わからない。

――たぶん、殺しちゃいけなかったんだと思う――

 と、ふと声がした。

 私は顔を上げた。

 目の前には……ユウちゃん。何で? ユウちゃんがここに?

――あの男を自主させるだけでよかったんだと思う――

 でも、ユウちゃん、助けてって。

――確かに、私は「助けて」ってホノちゃんに言ったけど、私はあの男に自分の侵した罪を償って欲しかったの――

 え?

――生きて、一生懸命償って欲しかったの。過去に私を犯したこととかを――

 そんな……。じゃあ、私がしたことって何だったの?

――――

 ユウちゃん! それじゃあ、私……ただの……。

――――

 もう、ユウちゃんの声はしなかった。

 私はユウちゃんの言ったことを間違えて解釈していたらしい。生かせて罪を償わせる。死んだらあっさり、その罪からは死んでからも言われるが、現実的には逃れられる。生きていれば一生そのことを言われ続ける。死んでからもそう言われる。どっちが辛い? 生きて罪を償わせたほうが辛い。自分の侵した罪の重さを感じることが出来る。

 私はなんてことを……。

 ごめん……ユウちゃん。君を裏切っちゃったよ。

 私は立った。そして、再びトボトボと歩き始めた。

 この公園は私の家の近くにあるのと同時に、とある川に近い。

 その川は「田柄川(たからがわ)」といい、結構澄んだ川。けれども、その川は大きく深い。大人でも足が付くのがやっとと言うほどの深さだ。けど、私は身長が低くその川へ入れば完全に私は頭の天辺まで浸かることが出来る。

 川の方へ歩いていく。足取りは何故か軽い。一歩一歩確実に川の方へ向かっている。

 草を掻き分けると、そこには波消しブロックがゴロゴロと転がっている。私はそこへ座った。

 私は人を一人殺している。一人の人を殺した人を殺した。その人を殺すときは悪魔を殺すような感じに思った。けど、今は冷静に一人の人を殺したと判断できる。つまり、とんでもないことをした。取り返しの付かないことをした。自分の人生に傷をつけた。もう、誰にも顔向けできない。

 私は履いていた靴を脱いだ。チャポンと靴が川に入り沈んでいく。靴は川の流れに乗って下流へと進んでいく。今日の川はちょっと速いみたいだ。

 私はその川へ入った。なるべく水の音がしないように。

 やはり私の頭の天辺まで確実に浸かる。その川の中で私は静かに目を瞑った。


 思ってみれば、私の人生って一体なんだったんだろう。

 いつも、ユウちゃんに元気付けられて、ずっと辛い思いをしてきたユウちゃんに助けれられて。それでいて、私はユウちゃんに何をしてあげられた? 守ってあげられた? いや、守るどころかユウちゃんを傷つけた。私の生きてきた道には汚点ばかりが残った。綺麗な部分なんてこれっぽっちもない。

 私は、ユウちゃんのいるところには行けないけれど、私は私なりに頑張っていくから。もう、ユウちゃんの助けを借りないように頑張るから。だから。

 もう、心配しないでね。

 ユウちゃん。

 ごめんね、ユウちゃん。

 ありがと、ユウちゃん。

 そして――

 おやすみ、ユウちゃん。


ご閲覧、有難う御座いました。久しぶりの長編でした。

多々、至らない点が見られると思いますが、

どうか勘弁してやってください。


それでは、皆さん。

またお会いしましょう。

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